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外伝 - 続・問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その14

「行くぞッ!」


 目の前に聳える、まさに山のような大巨人。

 だが臆することなく、『白浪』は指示通りにギガントマウンテンへ一直線で突っ込んでゆく。


 狙うは最大戦速による一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)

 一撃当ててヘイトさえ稼いでしまえば、ギルドによる集団戦法へ持ち込める!


「っ!?」

「にゃ!?」


 だが当然、易々と攻撃を受けてはくれない。


 感知範囲へ入った瞬間、巨人は口から焼けた岩を吐き出した。灼熱の炎に燃え滾るそれらは一つ一つが、十メートル級の大岩である――スピード特化型である神烏族は最低クラスの防御力しか持たない。一発かすっただけで戦闘不能になるだろう。


「ちいっ!?」


 回避以外の選択肢はない。

 いつから『EGF』はシューティングゲームになったんだ。


 並外れたスピードだけを頼みに上下左右へ空中機動、雪音が吹っ飛ばされないよう全身全霊で護りつつ、愛機は弾岩(・・)の中をすり抜けてゆく。


「うりゃああああああああああ!」

「ひゃあああああああああっ!?」


 悲鳴が反響して響く中、見事、全弾回避。


 続き迫る巨大な拳を、今度は墜落じみた急下降でやり過ごす。更なる追撃が来る前に『白浪』は体勢を整え、最高速で流星と化した。懐に入ってしまえばこちらのもの、捉えられるはずもない。


『雪音っ!』

『う、うん!』


 最高速では会話すら許されないため、一護は『ペアリング』で指示を出した。

 同時に放たれる『イグニス・ジャベリン』――火力のわりに低燃費、かつ弾速も優秀と三拍子揃った炎の槍が、ギガントマウンテンの胴体へと着弾する。


 HPバーこそ膨大すぎて目に見える変化はなかったが、表示されたダメージ値は充分に有効打と呼べるものだった。


(よし、撤退……!)


 後は速やかに合流して『キズナ』全員で戦えばいい。

 単純なスピードはこちらが遥かに上だろう。撃墜されることはまずないはず――。


「……?」


 違和感に気づいた一護は、『白浪』を旋回させた。

 既に距離は充分、仮に追撃があっても余裕で回避出来る。しかしあれほどの巨体に追われると考えれば、あまりにもプレッシャーがなさすぎた。


「っ」


 そして事実。

 ギガントマウンテンは、一護達を追って来てはいなかったのである。


「こいつ、固定型(アンカータイプ)か!?」


 固定型(アンカータイプ)

 それは移動アクションを持たない希少種だ。据え置きタイプの機械エネミー、あるいは門番として機能特化した石像(ゴーレム)に多い。


『大型ボスが移動しないって忘れてたぜ……』

『最近は人型が流行りだもんね』

『ああ。しかしこれじゃ釣り出しは無理だな。俺達だけで攻撃するのはリスクがデカすぎるし……さっさと来てもらわないと。鷹あたりなら喜んで攻撃しそうだが』

『あはは……レイちゃんと二人で突撃する姿が目に浮かぶね……』


 ――などと、考えたのが悪かったのか。


「うおらああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 雄叫びをあげながら、金色の嵐が駆け抜ける。


 わき目も振らず一直線。

 彼方の大巨人を目指し、獣のような歓喜を纏って奔るのは言うまでもなく――。


(あのバカ)っ!?」


 天下無双の戦馬鹿は、想像を裏切らず突撃を敢行した。レイを伴っていない分、むしろ想像よりもタチが悪い。


『雪音、連絡を!』

『う、うん! 止まってください、鷹さん!』


 雪音の指示は一護の意図をよく汲んだものだったが――少しばかり遅かった。


 止まるより速く、鷹はギガントマウンテンの感知範囲に入っている。

 容赦なく降り注ぐ焼けた大岩は、先ほど一護も経験した洗礼だ。今止まれば、それこそ絶好の的だろう。


「仕方ねぇなぁ、もう!」

「ひゃあっ!?」


 放置するわけにはいかない。

 もう半ばヤケクソだ。『白浪』へ最大戦速を伝えると同時に、吹き荒れる風の暴威から雪音を護るべく、その体を再び抱きとめる。


「っ!?」


 遠慮なしの全力飛翔。

 甚大なデメリットの代わりに得た圧倒的なスピードで、『白浪』は鷹を軽々追い越した。 天から迫る新たな襲撃者を前に、ギガントマウンテンが攻撃を二手に分ける。


「うりゃああああああああああ!」

「ひゃあああああああああっ!?」

「ハッハァ!」


 再びのアクロバット回避に悲鳴が木霊する中、一護は確かにその声を聞いた。

 あるいは幻聴だったのかもしれないが――援護を受け、ギガントマウンテンの迎撃をすり抜けた鷹は紛れもなく現実である。


 懐へ飛び込めば、もはや時間などいらなかった。

 最大最強の獲物を前に、闘志を滾らせた猛獣が一気呵成に攻め立てる。


『ファースト……インパクトォ!』


 挨拶代わりにまずは一撃。

 敵の巨体に目に見える効果はなかったが、それは鷹も承知の上だろう――打撃の反動を使って跳躍すると、そのまま大巨人の体を駆け昇り始める。


 鷹がどこを狙うのかは予想がついた。

 恐らくは心臓か頭――ダメージの大きくなりやすい部位を狙っているのだろう。この図体が相手では当然だ。


「くうっ!?」

「にっ!?」

「うおおお!?」

「ひゃあああああ!?」


 などと考える余裕は、実のところあまりない。


 今も一護達は飛び回り、ギガントマウンテンの注意を引いている。

 一歩間違えれば即墜落は間違いないが、『白浪』のフィードバックもキツかった。


(さっきと違って撤退するわけにもいかないし、な!)


 ギガントマウンテンにとって人間など小蝿のようなもの。動きの速い二人に迎撃が分散しているから手古摺っているだけで、一護にしろ鷹にしろ、単騎になれば――あるいは個々に攻めれば――遠からず叩き潰されるだろう。


 だがそうはならない。させはしない。


 連携こそが『キズナ』の本領。

 他のメンバーが到着するまで、撹乱戦法で乗り切ってやる……!


『なぁ!?』


 ――しかし耳に届いたのは、切羽詰った鷹の声だった。


 あの男にしては心底珍しい、戸惑いと驚愕が等分に混じった悲鳴。もはや嫌な予感しかしなかったが、続く鷹の状況報告に今度こそ一護は凍て付いた。


『このデカブツ、体にゴーレム飼ってやがる! 見える範囲は全部だ! 500じゃきかねぇぞ!』


 ゴーレム500体。

 種類とLvにもよるが、それは一軍を壊滅させうる勢力である。いくら鷹がワールド最強クラスの戦士でも、援護なしで挑むのはリスクの高い相手といえた。


『退路は!?』

『昇ってくほど数が増えてるから、多分戻りゃ減る――チッ、ンなモン当たるか! ナメてんじゃねぇぞ石野郎!!』


 どうやら接敵したらしい。

 『通信石』から怒声と破砕音が響き渡り、鷹が暴れ始めたのが伝わってくる。易々と遅れを取るとは思えないが、相手の本命はゴーレムではない。


『鷹! デカいの行くぞ!』

『っ!?』


 ギガントマウンテンによる強襲。

 何の変哲もない、蚊を叩き潰すかのような一振りだ。だがそれも鉱物の強度と100メートル級の大きさで行えば、必殺になりうる。


『っとぉ!? 危ねぇ!?』


 ゴーレムごと叩き潰す一撃を、なんとか鷹は回避したようだ。声音から判断するに回避はギリギリ、同じ攻撃を連発されれば不覚を取る可能性もある。


『雪音!』

『うん!』


 故に、ギガントマウンテンはこちらが対処するのが最良だ。


 兄の意図を正しく理解した雪音は、『マナの心得』中級技能の『サウザント・ショット』を放つ――威力よりも手数に優れた無数の光弾が、雨あられと巨人へ降り注ぐ。


 ショットガンじみた連撃を、しかし敵は気にも留めなかった。表面を覆いつくすゴーレムは着弾の度にダメージを受けているものの、肝心の本体には一発も届いていない。


「防御壁まで兼ねてんのかよ……!」

「それなら……!」


 一護と同じ結論に至った雪音は、鷹の前面に火力を集中させた。


 ギガントマウンテンのヘイトを稼ぐのではなく、群れるゴーレム共を減らす目論見だろう。

 一度に相手する数と鷹の負担は当然比例しているわけで、次善の策としては悪くない――と思ったのだが。


『だー! このデカブツ、本気で面倒くせぇ! ブッ壊れたゴーレム共、再生(・・)しやがる! マジできりがねぇ!!!』


 どうやらそんな程度では覆せぬ相手らしい。


 凄まじいスピードで破壊音が鳴り響いている辺り、個体性能は低く設定されているようだが――相手がゾンビでは気休めにもならない。ボスにはありがちの特殊能力だとしても、結構な振り切れ方だった。クソゲーと放り出されても文句はいえない。


『っていうか放り出したいなマジで!』

『お、お兄ちゃん。ヤケになっちゃだめだよ……攻略法はきっとあるから、ね?』


 わりと本気なのが伝わったのか、雪音が慌ててフォローを入れてきた。


 見上げてくる可愛らしい姿に少しだけ苛立ちは治まったが、相変わらず名案は浮かばない。


 情報も手数もまったく足りなかった。

 無理をして手痛いダメージを喰らうくらいなら、いっそ退却を選んだ方が――。


『はっはー! お困りのようだね、諸君!』


 鷹に一時撤退を伝える寸前。

 狙い澄ましたタイミングで、幼馴染一のトラブルメーカーが通信へ割り込む。


『もう大丈夫! なぜって?』


 傲岸不遜な自信と。

 根拠のない安心感を携えて。


『あ た し が 来 た ! 』

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