外伝 - 続・問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その11
今更ではあるが、『EGF』は剣と魔法のMMO-RPGだ。
煌く刃と迸る魔法が幾重にも交錯する戦場を仲間達と共に駆け抜け、友情とか連帯感とか収集欲とか――まぁそういう諸々を求めるプレイヤーが築き上げた現代の幻想郷。
だが考えてみて欲しい。
戦場はEGFの世界にしかないのだろうか?
平和な現実世界に、そんなものは存在し得ないのだろうか――?
「がうがうがうがう! うまっ! うまっ!」
「あ、ちょ、みー! それあたしのだょ! 返せ~!」
――否、断じて否。
この騒がしさ、激しき意見のぶつかり合い、湧き上がる熱気――これが戦場でなくてなんだというのか。否、戦場でないはずがない。
「ただのお夕飯だよ?」
「現実逃避してる兄ちゃんの心を読むな、雪音」
夜七時、伊達家。
無事に『唯一つの神宝』初日を乗り切り、一護達は現実世界へ帰還した。
およそ半日に及ぶ長期ダイブによって、異変を訴えたのは腹の虫である――『EGF』でも食事の機能はあるが、あれはあくまで味覚を満たすものであり、現実の腹までは充たされない。
故に帰還直後、満場一致で食事となったわけであるが――。
「テメェも独り占めしてんじゃねぇよコラ、張っ倒すぞ葵!」
「兵は拙速をとーとぶ! 出遅れたほうが悪いんだょ!」
「がつがつがつがつ!(ひょいひょいひょいひょい」
「あ~~~!? だからみー、それってあたしのだってばーーーーー!!!」
食卓に視線を戻せば、そこには相争って夕飯を奪い合う欠食児童共の姿が。“サ○ヤ人”とか“麦○らの一味”とかそんな感じの食事風景だ。
「というかだな。お前ら、もうちょっと静かに食えないのか」
「うるせぇよ一護。俺らはお前と違って取り分けられてねぇんだ。本気出さねぇと風見に全部食われちまうだろ」
「そーだそーだ! あ、ソーダちょうだい!」
「俺だけ特別扱いみたいな言い方するな。お前らが雪音の取り分けに“多い”だ“少ない”だ文句を言うからセルフサービスになったんだろうが」
ジト目で言い返してやると、三人揃って眼を逸らす。容赦なく夕飯を奪い合ってるわりに、仲いいなこいつら。
「で、そろそろ反省会したいんだけど。一息ついたか?」
「~~~(ぶんぶんぶんぶん」
「風見はそのまま飯食ってていい」
空腹状態の風見には何も期待できないし。
「反省ったってなぁ。上々だろ?」
「そうそう。トップ10入りとか、反省するトコないんじゃない?」
「お前らな……」
お気楽な二人に再度のため息。
確かに『キズナ』は最高のスタートを切ることが出来た。『唯一つの神宝』1日目を終えての順位は、なんと8位――初戦の13位から順当にランクを上げたといえる。
勿論、無事に明日の参加権も得たわけだが――。
「上がったのは俺と雪音のおかげだろうが。シンクロ回答のストレート突破がなかったら多分、20位くらいをうろついてたぞ」
「えへへ。ボーナスがついてラッキーだったね♪」
「だな」
「普通はボーナスつかないんだょ。ねー、でっかいの」
「俺ぁクエスト見てねぇからよく解んねぇが、シンクロ回答ってタイトルだけでお前ら向きなのは解ったわ」
「そこは見ろよ」
「見てる暇ねぇし。結局レイの奴、満足するトコまでいかなかったからな」
「ほどほどにしといてやれよ……」
戻ったらレイが白く燃え尽きていたから、そういうことだろうと思ってはいたが……4時間もぶっ通しで鷹と組み手とか、全力で遠慮したい。
「ンで、明日は何時からだ? 告知出たんだろ?」
「出たよ。お前もちゃんと確認しとけっての。確か午後一番じゃなかったか?」
「うん。3回戦のスタートが13時だね」
「それじゃお昼食ってダイブかにゃ?」
13時開始なら、早飯を食って12時にダイブすれば充分だろう。
こんな連日ゲーム三昧過ごせるなんて、長期連休バンザイである。
「で、3回戦のお題はなんなんだよ?」
「お前そこもか!」
「だから全然見てなかったんだっつーの。さっきから何回も言ってるだろーが」
「でっかいのはこれだから……まったく、しょ~がないなぁ~?」
「じゃ、葵。説明よろしく」
「え? …………いやぁ、そこはゆっきー、頼んだ!」
「あはは……」
結局、葵も覚えていない。雪音の苦笑いも当然だ。
「えっと……半分記憶になっちゃうけど、3回戦は“ハンティング”対決だったよ。制限時間が2時間で、モンスターを倒すと固定ポイントが入るみたい。その量で競うんじゃないかな?」
「だ、そうだよ! でっかいの!」
「(無視)よく覚えてんなぁ、雪音ちゃん。しっかしそりゃまた、修行向きのステージだねぇ」
「2回戦なかった分、キリキリ働いてもらうぞ。戦闘班」
「あいよ」
ハンティングに戦闘力は欠かせない。
鷹とレイは貴重な戦力だ。索敵能力が低いのでその辺を担保する必要はあるが、まぁ雪音の作戦指揮と合わされば何の問題もないだろう。(他人任せ)
「ふ~~~~……おなかいっぱいだ~~~~♪」
「……やっと食い終わったか」
狙ったわけじゃあるまいが、なんとなく説明終わった瞬間に風見が割り込んでくる。
山と積んであった夕飯はあらかた食い荒らされていた。冗談抜きに半分は食ったんじゃなかろうか。後で天見さんに請求しないと。
「みー。アンタ、もうちょっと参加しなょ。会話のバレーボールだよ」
「キャッチボールな」
「誰と試合してんだよ」
「そうとも言う」
「キャッチアンドリリース~?」
「今度は間違ってないからタチ悪いな……って雪音、どうかしたか?」
「うん、ちょっと気になることがあって……気のせいだとは思うんだけど」
「気になること?」
「うん。今回の告知って4回戦のも出てたよね?」
「ん? ああ、そういえば出てたな。中身までは覚えてないけど」
2回戦突破が確定した後、ギルドホームに送られてきた告知文に入っていたはずだ。今日と同じで、明日も2回のクエストがあるんだと思った記憶がある。
「それがどうかしたのか?」
「単純にね、なんで4回戦の告知までしたのかなって。今までは1個ずつのクエスト概要だったのに、急に2個とも連絡があったから。少し引っかかっちゃたの」
「“2日目”の予定だからじゃないの?」
「多分そうなんだろうけど……クエスト自体、今まで情報がほとんど出なかったでしょ? それがいきなり出始めたから、ちょっと気になって」
「なるほどな……」
確かにそう言われれば、違和感がないこともない。
慎重な雪音ならではの着眼点といえるだろう。一護は葵と同じく、単純に2日目の予定としてしか捉えていなかった。
だが――。
「考え過ぎじゃないのか? クエスト内容に変なトコはなかったんだろ?」
「うん……多分、気のせいだと思う。あはは。変なこと言っちゃって、ごめんなさい」
「謝るなっての。俺らは気にもしなかった部分だぞ? そういう違和感に気づくだけで凄いんだから」
俯き気味の雪音の頭を軽く撫でる。
他のメンバーの考えが足りない分、この頭脳が頑張ってくれているのだ。謝る部分など一つもない。
「明日も頼むぞ。雪音」
「……えへへ。うんっ♪」
にぱっと最高の笑顔で微笑む妹。
……現実世界で良かった。EGFで『ペアリング』をつけていたら、とんでもない感情が流れ込んできたに違いない――。




