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外伝 - 続・問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その10

だいぶ遅くなりました。申し訳ありません。

「まったくもう。兄貴のシスコンは死ななきゃ直らないのかな……!」


 一護と雪音が小部屋に入ってすぐである。


 全身でイライラを表現する葵は、うがーと吼え猛った。専用クエストに挑む二人をリアルタイムで映し出しているディスプレイは運営側の気遣いだが、完全に逆効果である。


「……あれ? だったらいっそ、一回殺った方が良かったり?」

「あ、アカ。止めてくださいよ! あなたの主でしょう!?」

「流石に主も本気ではない……はずだ。そうなれば全力でお止めするが、そもそもそれを言うならゼロ。貴様も大殿と姫君を諌める義務があるだろう。あまり主を刺激しないで貰いたい」

「僕程度の進言であの二人が改めるわけないでしょうが。特に雪音様にそんなことを言ったらどんなことになるか……(ガクガクブルブル」

「~~~(あわあわあわあわ」


 逆上しかけ暴走寸前の葵と、それぞれ恐怖に怯えるフェローたち。


 勇猛果敢にして無類の結束力を誇る(と言われる)『キズナ』にとっては、なんとも不思議な絵面だが――。


「お~。また正解だ~」


 そんな光景を見慣れている風見は一切気にしなかった。


 持参した食料アイテム『溜まりせんべえ』をかじりながら、伊達兄妹の奮闘をのんびりと観戦モード。葵は不満だとしても、なんやかんや8問をストレートクリアするあたり、あの二人が最適だったことに疑いはない。


(あの二人っていうか、雪音ちゃんが、だけど~)


 現実世界においても雪音は一護の考えを容易に見抜く。ましてやそこにペアリングの効果が加わった今、運営が用意した程度の質問に答えられぬはずがなかった。


 ――などと、完全にカヤの外と思っていたのがいけなかったのか。


「みー! アンタも何のんびりしてんのさ!」

「あ~!!!!」


 理不尽な略奪者(あおい)至宝(せんべい)を奪われてしまう。


「葵ちゃん、ひどい~! 戦争だよ戦争~!」

「やっかましい! みーが悪いんでしょーが!」

「悪くないもん~! イカヅチちゃ~ん、やっちゃって~!」

「……マスター。私達では逆立ちしても葵様には勝てませんので、まずは落ち着いてください。食料ならまだありますから」

「え~」

「葵様も。仲間割れにメリットなどありません。どうかお怒りを鎮めください」

「……ねぇゴロゴロ、それって指図?」

「まさか。純然たるお願いですよ。ご存知の通り私は商人ですので、利には聡いのです。それに――」

「……それに?」

「一護様達への文句は、ご本人へ言うのが筋というものでは?」


 イカヅチの言葉と同じか、あるいは僅かに早く。

 盛大なファンファーレと共に扉が開いた。仁義なきせんべえ戦争をしている間に、一護達は見事10問目をクリアしていたらしい。


「ふう。なんとかなったな」

「えへへ。ストレートだったね♪」


 大役を終え、一息ついた表情で笑う二人。


 本来ならば褒められて然るべき場面だが――。


「ばーーーーーーーーーーっか!!!!!!」

「小学生かお前は!」


 まさしくその通り。

 眼を爛々と輝かせて葵は飛びかかったが、相手は『キズナ』最速を誇る一護。雪音をかばいながらもグーパンを避け、呆れ気味に告げる。


「失敗したならともかく、ストレートクリアしたのにいきなり殴りかかるな。俺の判断で正解だっただろ」

「うるしゃーい! これは最早理屈じゃないんだYO!」

「ああもう予想以上に面倒くさいなこいつは……」


 いつもならこの辺で鷹が葵を黙らせる(物理)のだが、今日は置いてきぼりだ。フェロー組や風見に止められるはずもなく、さて一護がどう乗り切るのかぼんやり見ていると――。


「解った、葵。提案だ」

「なにさ! 怒れるあたしのマックスハートはプリップリでキュアッキュアな方法でも静められないょ!」

「今回のクエスト、一番最初にお前が報酬を選んでいい。だから進むぞ」

「……ほほ~う? ならまぁ、しょうがないかなぁ~?」


 あっさり物欲で陥落させた。

 マックスハートとやらも、プリップリでキュアッキュアのカケラもない方法には無力らしい。さすがいちごきたない。


「……いいの? お兄ちゃん」

「あいつの趣味にかぶるメンバーはいないしな。まぁ別にいいだろ。それより先に進むぞ」

「そうだょ! なにボサッとしてんのさ、みー! さっさと行くょ!」

「え~。わたし~?」


 間違えた。汚いのは一護じゃなくて葵だった。


 さすがあおいちゃんきたない。

 母親から仕入れたネタを胸のうちで呟きながら、風見もみんなの後を追う。


 ダンジョン探索はまだ始まったばかり。

 一番大事な食べ物のストックがなくなる前に、終わってくれればいいんだけど――。


◆◇◆◇◆


 一方その頃。


「はぁっ!」

「アホか」


 留守番(罰)を任じられた鷹は、待合室にてレイの格闘訓練を行っていた。

 待合室は五メートル四方程度のスペースしかなく、少々手狭ではあったが――迷宮の通路など、EGFではもっと狭い場所での戦闘も余儀なくされる。


 故にこういった場所での訓練もまた重要。しかも4時間も無駄な時間があるのなら、訓練に充てるのは至極当然の成り行きだった。


「てやあ!」

「ぬりぃ」


 壁と天井、ピンボールのように跳ねたレイを体捌きだけでやり過ごす。


 体を傾けた際、運営の用意したディスプレイが視界に入ったが、鷹はあっさりと視線を外した――仲間達のクエスト進捗は見ていないし、もっと言えば気にもしていない。


「こ、これなら!」

「遅ぇ」


 それも当然、鷹はクエストの様子など最初から見るつもりはなかった。

 予選の雪音と違い、見たからといって何が出来るわけでもないし、あのメンバーが突破できないなら、きっと誰が挑んでも同じだろう。


「やぁっはああああああああ!!!」

「雑すぎんだろ」


 なので鷹の注意は全て弟子に注がれている。


 だからと言うわけでもないが、何十回目(ひょっとしたら百回以上)となるレイの突撃も空振りに終わった。背後からの強襲をバク転の要領であっさり躱し、優雅に着地を決める。


「はぎゃ!?」


 対するレイは全速の勢いを殺しきれず、一回転して壁に衝突した。でんぐり返し状態で涙目になりながら、こっちを見上げてくる。


「ぐぬぬぬぬぬぬ……な、なんでアレが見ないで躱せるんすかぁ……」

「単純に実力差だ。あんだ? まさかもう終わりかよ、情けねぇ」

「ま、まだっすよ! ちょっと考えてただけっすから!」

「余計に情けねぇよボケ。最初に教えただろーが。考えんのは互いの選択肢だけ、そっから選ぶ行動は反射と勘と経験に託せってな。止まって考えてるようじゃ話になんねぇよ」

「ううう……師匠が厳しいっす……行くっすよ」

「律儀に宣言すんなバカ。とっとと来い」

「お、押忍!!!」


 泣き言を言いながらも目が死んでないのは合格点だが、このバカ弟子は思考に動きも無駄が多すぎた。再度飛び掛ってきたレイを余裕で避けながら、その動きを仔細に観察する。


(踏み込みは悪くねぇ。体捌きも充分。リーチの短さは小回りで何とかしてる。なのに――全然怖さがねぇな、こいつは)


 漆黒と一戦交えたからだろう。レイは思っていた以上に成長していた。


 だが純粋なポテンシャルからすれば、こんな程度ではない。

 いくら鷹とはいえど、ポケットに手を突っ込んだ状態であしらえるなどありえなかった。


(どーにかなんねぇかなぁ。こいつの素直さは)


 エサを撒けば簡単に食いつくし、フェイントすれば律儀に反応する。

 普段は好ましいとさえ思う“素直さ”だが、戦闘面ではマイナスだった。


 レイは気づいていないが、訓練を始めて以降、彼女の攻撃は80%以上を鷹がコントロールしている。視線の向きや重心の傾き、回避の仕方などを組み合わせ、動きを制限しているのだ。


 格下は力で押し切れる。

 だが同格以上には決して勝ち得ない――それが現状、レイの身の丈であり、真実だ。


(ったく、先が思いやられるぜ……)


 だがそれでは困る。

 今日ハッキリしたが、『キズナ』は『風見鶏』に届いていない。もし今後のクエストで『風見鶏』と丸ごと相対するようなことがあれば――善戦は出来ても、勝利は出来ないだろう。


 そして今後、『風見鶏』と直接対決する場がないとは思えなかった。


 全体の方針は一護や雪音が考えるだろうが、鷹ら戦闘班が強くなって悪いことはない。

 既にカンスト近い己は一朝一夕でどうにもならないが、レイはまだ発展途上――漆黒の実力を肌に感じた今こそ、戦闘力の底上げが望めるというものだ。


「おら、ンな程度かよ! 止まってんじゃねぇ!!」

「は、はいい!!!」


 いつも以上のスパルタに、悲鳴じみた返事が響き渡る。


 結局、この訓練は一護達が無事にクエストから帰還するまで続き――。

 レイは後に『クエストへ行った方が万倍楽だったっす……』と語ったらしい。

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