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外伝 - 続・問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その9

 ここで2回戦の概要を簡単に確認しておこう。


 パーティー単位で地下迷宮(ダンジョン)をどんどん下っていって、到達した階層に応じてポイントが入るクエストだ。パーティーは1回戦と8人編成で同じだが、制限時間は4時間と倍に増えている。これは単純なバトルだった前回と違い、今回は隠し部屋や宝箱にもポイントを付加するなど、トレジャー要素が重要とみなされるかららしい――要するに総当りで迷宮探索を深くこなしたチームが優位に経つわけだ。


 現在、クエスト開始からほぼ1時間。

 我らがチーム『キズナ』がどうなっているかといえば――。


「~~~(う~」

「~~~(む~」


 ――絶賛仲間割れ中だった。


 額を突き合わせ、唸っているのは雪音と葵。ある意味、見慣れた――だが決してそうなりたくはなかった、幼馴染においては恒例行事のせめぎ合いである。


「あたしだょ!」

「私だもん!」

「だいたい葵ちゃんは気分屋さんでしょ! こういうのに向いてないもん!」

「なにおう! あたしの野性の勘こそが相応しいでしょーが! ゆっき、それでも軍師!?」

「軍師だって思ってるなら尚更だよ! 私に任せてってば!」

「あーあー、きーこーえーなーいー!」


 意地っぱりな彼女たちは、お互いに自分こそがと主張して譲らない。


 今にもキャットファイトに発展しそうな雰囲気の二人が、何をそんなに競っているかというと――。


『代表のプレイヤーを2名決定してください。選ばれたプイレイヤーはそれぞれ扉の向こうへと進んでください。代表のプレイヤーを2名決定してください……』


 くり返されるアナウンス。


 ここまで順調に迷宮を突破してきた一行に対し、ダンジョンは2名での特殊クエストを用意していた。目の前にはエレベーターを思わせる小部屋があり、機械アナウンスは代表プレイヤーをその中へ入れろと繰り返し告げてくる。


「あのー……ご主人。流石にそろそろ……」

「そうだよ~。早くしないと、時間がなくなっちゃうよ~?」

「解ってるよ……」


 運営からリアルタイムに報告される情報だと、現在、複数グループ(『キズナ』含む)が8階まで潜ってトップ深度らしい。宝箱なんかもあるからポイント換算すればどうか解らないが、それでもハイランクなのは間違いないだろう。


 こんなところで揉めて時間を浪費するのは、まさしく無駄以外の何物でもなかった。


「二人とも、その辺にしろっての。折角トップグループなのに遅れるだろ」

「じゃあ兄貴、ゆっきを説得してょ! 絶対あたしの方が向いてるって!」

「あ、葵ちゃん!?」

「説得するつもりはない。今回のお題なら、俺と雪音が最適だろ」

「お兄ちゃん……♪(じ~ん」

「こっのシスコンがっ!」

「そう言われてもなぁ……」


 今回のお題で求められているのは、『相互理解』である。


 代表者2名に運営(ダンジョン)から質問され、正しい答えを返すと徐々に扉が開いていくという仕組みだ。重要視されるのは言うまでもなく相互理解であり、伊達兄妹の阿吽の呼吸ならば死角はない。ついでに似たようなお題は以前――『アダムとイヴの楽園脱出』というクエストで経験済みであるからして、経験値的にもベターでありベストな選択であるのだが。


「つまんな~い! Boo! Boo!」


 アホ娘はブーイングの嵐だった。

 よっぽど無視して乗り込もうと思ったが、背中から撃たれでもしたら今度こそ雪音と葵で大戦争が始まってしまう。


「じゃあ葵。お前、一番好きな食べ物ってなんだ?」


 よって、一護はテストを行うこととした。


 まずは初級。

 誰もが考えうる問題で、当然、このくらいは軽くクリアするものだと思ったのだが――。


「あたしがその時、一番食べたいものだょ」

「不合格」

「バカな!?」

「バカはお前だ! このバカ! そりゃ一番ダメな答えだろ!」


 よりにもよって、回答は完全なるフリーランス。


 ただでさえ葵の思考回路は一護の理解を超えているというのに、そんなことを言われれば選択肢は無限となってしまう。


「というわけで、代表は俺と雪音だ。文句ないな。あっても聞かないけど」

「横暴だー! 弁護士を呼べー!」

「うるさい。行くぞ、雪音」

「……は~い。えへへ」


 流石に愛想がつきたので、さっさと先へ進む。戻ったら殴られるかもしれんが、それはとりあえず考えないようにしておいた。


「…………なに考えてるんだ運営は」

「あ、あはは……」


 葵を振り切ってエレベーター(風の小部屋)に入ると、そこには何か見たことのある設備が。


 距離をおいて配置された2つのデスク。

 その正面はブラウン管じみたモニターになっており、プレイヤーが立つべき場所にはタッチペンも見える。


 まぁ、要するにTVとかのクイズ番組のセットである。世界観とかどこいった。もしやお祭りイベントだからといって油断しているのだろうか。


「……まぁいいや。雪音、そっちで頼む。俺はあっち行くから」

「はーい」


 メタ的に色々突っ込みどころはあるものの、とりあえず配置へ。


『プレイヤー名:一護、プレイヤー名:雪音、の2名にて参加でよろしいですか?』

「ああ」

「はい」

『認識しました。では、これよりイベントを開始いたします。こちらの質問に対し、合計10回、正答すればクリアとなります』


 予想より多い質問数である。運営としては一つの山場と考えているのか、ここで時間を使わせる腹積もりでいるようだ。


『回答は手元のペンで記入。制限時間は20秒です。当然ですが、プレイヤー同士で答えに繋がるやり取りは禁止です。破るごとに正答数が1問ずつ減っていきます』

(あー。まぁ当然だな)


 雪音との距離を考えれば、会話でのやり取りも充分に可能である。“答えに繋がるやり取り”とやらがどこまでかは解らないが、不正の防止は当然といえた。


『第一問。代表者2人のレベルを合計すると幾つになりますか?』

(383……と)


 この程度は当然、頭に入っている。

 まずはジャブということだろう。運営の答えを見るまでもなく正解と解り切っていた。


『第二問。所属ギルドの合計人数は何人?』

(10人)

『第三問。代表者2人がクリアしたクエストの中で、最も推奨レベルが高いクエスト名は?』

(推奨レベルか……あー……『歌声よ、天上へ還れ』かな? 『天の守護者たち』と迷うけど……あっちの方が実装遅かったもんな……)


 ちょっと迷ったが、三問連続で正解する。

 このままサクサク進んでくれれば、遅れは充分取り戻せそうだが――。


『第四問。プレイヤー名:一護がフレンド登録している女性プレイヤーの数は?』

「はぁ!?」


 ――そうは問屋が下ろさない。

 いきなり難易度のあがった質問に一護は思わず声を出していた。


「なんでいきなり悪意に満ち溢れた質問を!?」

『あと10秒です』

「グッ……」


 運営の悪意をトコトンまで問いただしたいところだったが、システム音声に文句を言っても時計の針は止まらない。

 

 問題自体も地味に難しいし、半分勘で書くしか――。


『お兄ちゃん、24人だよ!』

『へ?』


 だが、そこへ雪音(テレパシー)による助け舟。

 全力で乗っかった一護は、ギリギリで“24”と書きなぐった。


『正解です』


 しかも正解である。


『えへへ……良かった。正解で』

『毎度のことだけどお前凄いな!?』


 “女性プレイヤー”というのは、つまるところ、一護の女性フレンドからフェローを除外した人数ということだ。主要なメンバーはともかく、細かな数までは一護自身も把握していない。


 それをこうもあっさり正答させるとは――。


(雪音、恐ろしい子……!)


 ついでにこのクエストも一悶着ありそうだ。

 『ペアリング』の効果は例によって黙認されているようだが、問題の難易度によってはかなり時間がかかるだろう。


(葵じゃなくて本当に良かった……)


 そこだけは心底から己の判断を讃える一護であった。

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