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外伝 - 続・問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その8

 紆余曲折はあったものの、予選はあっさりと突破できた。

 最強クラスのメンバーばかりが集ったのだから当たり前ではあるが、とりあえず大役を終えて胸を撫で下ろす。


 ちなみに1回戦を終えてのチームランクは13位――予選突破が計1,000ギルドらしいので、凄まじい好発進だ。


 『風見鶏』は4位のため喜んでばかりもいられないが、それでも順調なスタートを切れたといえる――のだが、『キズナ』のホームタウンは重苦しい緊張感に包まれていた。


「~~~~~~~(う~」


 そう。

 本気で雪音が怒っていたのである。


 普段は穏やかだが、怒った時の破壊力は幼馴染一だ。鷹、レイ、葵を並んで座らせて仁王立ちする妹は、なんていうかとてつもない迫力に満ちている。


「…………」


 既にお説教を始めて十分以上が経過していた。


 がっくりと肩を落とすレイ、諦めた顔の鷹、不満たらたらの葵――三人とも疲れきった様子だが、雪音は未だに怒りが収まっていないようである。


「一護~。雪音ちゃん、まだみたいだよ~」

「解ってるよ。でもまぁ、そろそろ潮時だな」


 風見に小さく頷き返す――今の状態は、あまりよい状態ではなかった。


 メンバーは予選突破という最低限の仕事は果たしている。

 もちろんケジメは必要だが、小雪を筆頭としたフェローが落ち着きをなくしてしまっているのは問題だった。


 『キズナ』は基本的にほんわかとした仲良しギルドだからして、あまり厳しくしすぎるのも良くない。あと葵がそろそろ爆発するし、この辺で止めないとさらに酷いことになるだろう。


「まぁ雪音。その辺でいいじゃないか。結果論だけど間に合ったんだし」

「……お兄ちゃん。でも……」

「もちろん作戦無視したのは問題だから、罰は必要だ。でもお説教はその辺にしておいてやれって。な?」

「…………お兄ちゃんがそう言うなら」

「ん。ありがとな。よしよし」


 不満そうな妹の頭を撫でて宥めつつ、一護は指を立てて提案する。


「で、罰だけど。イベントの次のステージ、確かダンジョン探索だったよな?」

「え? うん。そうだけど……」

「じゃ、そのステージは鷹とレイが留守番でどうだ?」

「えぇ!?」


 真っ先に反応したのはレイだった。

 よほど驚いたのか、正座したまま数十センチもジャンプして撤回を要求してくる。


「一護にぃ、そりゃないっすよ!?」

「やかましい。お前が一番、反省する立場だぞ。レイ」

「う……そ、それはそうっすけどぉ……」


 だがそれを認めるわけにはいかなかった。


 というか、元々レイが漆黒へ突っかかったのが諸悪の根源なので、このおバカなバトルマニアには特にキツい罰でなければならない。


「で、でもでも、それはですね、ええっと……」

「レイ。大殿のお言葉を拒否するつもりか?」

「偉くなったもんですねぇ」

「今回はあなたが軽率でした。我が儘はよしなさい」

「~~~(ふるふる」

「ま、まさかの味方ゼロっすか……し、師匠!」


 フェロー組に裏切られ、涙目になったレイは鷹へと縋る。

 雪音のお説教中もずっとしかめっ面で黙っていた男は、ちらりと一護の顔を見た。


「鷹」

「……わーってるよ。今回は全面的に俺らが悪ぃ。俺とレイは留守番で構わねぇ」

「し、師匠!?」

「うるせぇ。駄々こねんな。みっともねぇ」

「そんなぁ~~~~!!!」


 師匠の言葉に、今度こそレイがノックアウト。がっくりと肩を落とし、思いっきり凹んでいるようだが――その横に噛み付きそうな顔で唸る狩人がいるので、一護としてはそれどころではない。


「葵。お前は一応、レイを助けたから免除。ちゃんと連れてく」

「……へっへー、よっく解ってるじゃーん。さっすが兄貴♪」

「えー!? 葵ねぇ、ずっこいっす!」

「あっはっは。吠えろ吠えろ負けちみっ子。あたしは無罪だもんね~」

「ぐぬぬぬぬぬ……」

「……アホなことしてねぇで、行くぞ。レイ」

「はぇ?」


 べろべろばーと挑発する葵を呆れた目で見つつ、鷹が立ち上がった。まるで猫のようにレイの首根っこを掴み、出口へ向かう。


「鷹様? どちらへ?」

「次のクエストまで時間あんだろ? 体力が余ってるみてぇだから、ちっとこいつを鍛え直してくる。俺らは留守番だし、準備もねぇ。別にいいだろ?」

「どうだ? 雪音」

「うん。大丈夫だよ。でもクエストは一緒に行かなきゃならないので、ほどほどでお願いしますね、鷹さん」

「あいよ」

「ちょ、師匠! 自分で歩けますってばー!」


 弟子の抗議には耳を貸さず、鷹はそのまま出て行った。

 一組退場したことで流れ解散的な雰囲気になるが、ここで解散すると困る。


「じゃ、俺達は次のクエストの話をしよう。雪音」

「はーい。それじゃ、簡単におさらいするね? まず、クエストの参加人数は8人です」


 そう、今回のクエスト人数は8人。

 つまりこの場にいる全員が参加するのだ。多少なりともその辺の連絡をしない内に解散してしまうわけにはいかない。


「お題は“ダンジョン探索”。地下迷宮をどんどん下っていって、制限時間以内にクリア出来た階層に応じてポイントが入ります。制限時間は4時間。1回戦が戦闘メインだったから、今回は知識メインのダンジョン構成みたい」

「ふーん。でっかいのを外したのは罰じゃなくて、そういうことかにゃー?」

「勘ぐるなよ、葵。そういう側面がないともいえないけど、罰は罰だ。きっちりレイは凹んでただろ?」

「鷹様コンビは戦闘特化ですからねぇ……知識メインは専門外でしょう」


 ゼロの言う通り、今回の任務に鷹とレイは向かなかった。

 何しろ『探索』系の技能がない二人である。ボスバトルなどでは頼りになるが、謎解き系のダンジョンにおいては置物に等しい扱いだ。


「それで、雪音様。此度のダンジョンですが、留意事項はありますか?」

「えっと……多分、“考古学”とか“神学”が必要になると思うので、その辺りのアイテムを持ってきてください」

「承りました。辞書や鑑定機を持っていくようにしますね」

「お願いします。アカ君も探索道具を」

「御意」

「集合時間はどうしましょうかねぇ?」

「開始が1時間後だから、45分後にクエストゲートでいいだろ。どうだ、雪音」

「うん。問題ないと思うよ」

「よし、そんじゃ解散。鷹達には――」

「私が承りますよ、一護様。“修練場”でしたら、“工場”までの通り道ですし」

「悪いな。頼んだ、イカヅチ」

「はい」


 それで打ち合わせは済んだ。


 『談話室』に集合していたメンバーは散り散りに去っていく――迷宮用の装備へ変更や消費したアイテムの補充など、やるべきことは山のようにあるのだ。


「それじゃ俺らもいくか」

「うん♪」

「行きましょうか。ユキ」

「~~~(こくこく」


 一護達も『談話室』を出て、自らのホームへ向かう。

 『キズナ』のホームタウンでは主従ごとに居住区を建てていたが、このメンバーは例外的に四人で一棟を使っているので、目的地が一緒だった。


「いやぁご主人、大活躍でしたねぇ」

「嫌味か。全然ポイント稼げなかったわ」

「そんなことないじゃないですか。レイに比べれば月とすっぽんですよ」

「後ろで休ませてた奴と一緒にするなっての」

「あはは……でもお兄ちゃん、鷹さん達の間に割って入った時、凄かったよ。モニター越しでも手に汗握っちゃったもん」

「ああ、あれな……もう二度とやりたくない。完璧に不意打ちだったはずなのに、キッチリ反撃されたし。下手したら俺がログアウトしてたわ」

「~~~(はらはら」


 思い出してげんなりしていると、嬉しそうにゼロが頷く。


「でも凄かったですねぇ、鷹様の一騎討ち。らしくもなく興奮しちゃいましたよ、ええ」

「……ゼロ君。その一騎討ちで私は怒ってたんだから、喜ぶのはちょっと……」

「~~~っ(ぺしぺし」

「も、申し訳ありません雪音様……反省してますから、ユキも叩かないでください」

「まぁ気持ちは解るけどな」

「……お兄ちゃんまで。むぅ~」

「そう怒るなって」


 雪音を撫でてなだめつつ、一護は素直に呟いた。


「男は最強議論が好きなんだよ。鷹と漆黒の大一番とか、金取れるレベルだぞ」

「そ、そんなに?」

「そんなに。男ってバカだからなぁ」

「そうなんだぁ……」

「……(ほぇー」


 ぽかんとする雪音主従。

 まぁこの辺は女性にはわからない世界だろう。流石に万人が好きだという自信はないが、少なくとも自分の周囲はみんな熱戦・烈戦・超激戦が大好きだ。


「で、ゼロ。モニター見てただろ? 鷹と漆黒、どんな感じだった?」

「見てはいましたけど、言えることはそんなに多くないですねぇ……レベルが高過ぎて、僕如きが判断できる領域を超えちゃってましたから。当人同士では優劣を感じたかもしれませんけど、総じて互角ですかね」

「そうか……ちなみにお前が混じったとしたら?」

「僕を殺す気ですか、ご主人。技能(アーツ)を使ってもそんなに保ちませんよ。MP切れた瞬間に確死ですし」


 ゼロは決して弱くない。

 防御役(タンカー)としての能力は充分に一流、フェローであることを考えるとかなりのハイランカーだった。そのゼロがそこまで言うってことは――。


「漆黒の相手になるのは鷹だけか……」

「あとお兄ちゃんもでしょ?」

「奥の手を使ってならな。コスパ悪過ぎるから、やりたくないけど……そう考えるとやっぱり、『風見鶏』は尋常じゃないよなぁ……」


 漆黒はもとより、ユネを筆頭とした他のメンバーも充分過ぎるほどの強敵だ。単純な戦闘力以外でもカリスマの塊みたいな戦女神や、油断ならない廃弱プレイヤーもいるわけで、ギルドとしての総合力は頭一つ抜けているだろう。


「雪音。勝てると思うか?」

「……うーん。あんまり自信ないかなぁ……リィンベルさんとかヒビキさんとか、作戦の相性も悪いし……」

「……だな」


 もちろん、戦わないに越したことはない。

 そもそもクエスト次第なのだから、考えても仕方ないのは自明の理だ。


 だが一護の直感はそれを良しとせず、『風見鶏』対策を練っておけと囁き続けている。


(……こういう時の勘、大抵当たるんだよなぁ……)


 今回は外れてくれるよう祈りつつ。

 ため息と共に、一護は二回戦の準備に取り掛かったのだった。

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