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ゆきねちゃん@がんばります

「一護よ。折り入ってお前に頼みがある」


 とある日の放課後。

 さっさと帰ろうとした自分を呼び止める声があった。


「え?」


 立ち止まったのは端正な顔立ちの青年である。

 授業の疲れからか少しだけ表情は曇っていたが、穏やかな眼差しと柔らかい雰囲気は未だに健在。何人かのクラスメイト(主に女子)の注目を浴びながら、彼――伊達一護は驚いて振り返った。


 声をかけられたから、ではない。

 いや、確かに個性的な幼馴染を多数持つ一護はクラスでも浮き気味で、声をかけられること自体が少ないが――今回は声をかけてきたのが、かなり特殊な相手だったからだ。


「……珍しいな。なんだよ? 商人」


 くすんだ銀色の髪と、機械めいた冷たい瞳。

 男子にしては小柄な体格だが、すれた態度と言動で不思議な威圧感を持つクラスメイト――氷月商人である。


「頼みだと言っただろう。詳しくは歩きながらでいいか?」

「……お前って俺の家の方向だっけ?」

「違う。が、あまり人の目に晒したくはないのでな」

「そのフリは嫌な予感しかしないけど……まぁ話だけなら」


 どうせ帰るところだったのだ。


 今日は幼馴染達もそれぞれ用事があって別行動。一人の道行きが二人になったところで、さしたる問題ではない。


「で、なんだよ?」


 というわけで歩きながら、一護は促した。

 あまり人に聞かせたくないようだが、人影もまばらな廊下なら問題あるまい。商人は一度頷くと、懐から錠剤の入った袋を取り出した。


「風邪薬……じゃないよな? まさか」


 この男に限ってそれはないと思いながら、しかし一応口にする。


 氷月商人――通称、“便利屋”。

 依頼された品目はトレカから戦車まで揃えられると豪語し、実際にあらゆるアイテムを取り扱う赤樹学園きっての変人だ。学校側が備品を発注する際に入札を許しているとの噂まである。


「“性格反転薬”だ」


 そして事実、彼の返答は一護の理解を超えていた。


「いや……ちょっと待て」

「これは製品第一号でな。ようやく実現にこぎつけたわけだが……お前の幼馴染の誰かに試して欲しい」

「いや待てって。なんだその胡散臭いのは?」


 “性格反転薬”。

 そのまんまの意味で取れば、性格が逆転するということになるが――。


「簡単にいえば、服用者の性格を百八十度変える薬だ」


 まさかのそのまんまだった。


「……商人。まさか、本気か?」

「もちろん」


 とはいえ、“万が一”がありえるのが氷月商人という男である。


「…………解った」


 疑ってかかるのが正道なのだろうが、あまりにも自信満々な態度に、一護はとりあえず可能不可能を棚上げすることにした。


「それが仮に本物だとして、何で俺らが試す必要があるんだ?」

「俺が知る限り、気持ち悪いレベルの仲の良さはお前らだけだ。さらに性格が極端で変化が解り易い。平凡な相手に試すより、よほど効果が見えやすいと踏んだ」

「酷い言われ様だな。みんな確かに個性的だけど……それ以前に、この薬大丈夫なのか?」

「心配するな」

「お前の良心を信じろって?」

「違う。信じるのは俺の生への執着だ。この薬でお前らに何かがあったとすれば、俺は殺されるだろう。悪鬼か修羅に成り果てた鷹によってな」

「あー……」


 思わず納得してしまう。

 仮にこの薬で一護達が害を受ければ、鷹は控えめに言っても激怒するだろう。全国一との呼び声も高い暴力を、商人の破壊へと費やすはずだ。


 商売も体が資本を持論とする商人が、そんな危ない橋を渡るとは考えづらい。


「解った。そこは信じるけど、今の性格が変わると困るぞ?」

「永続性のある薬など存在しない。その薬も即効性だが、今までの実験からすると一時間以上は効果が保たん。それに切れれば眠ってしまうからな。夢とでも誤魔化せるだろう」

「実験って言っちゃったよコイツ……で、報酬は?」

「カタログを後で渡す。その中から一品、タダで提供しよう」

「今見せろ。カタログ。終わった後でガラクタもらっても割に合わんし」

「……疑り深いな」


 苦笑した商人からカタログを受け取る。

 パラパラと中をめくってみると、かなりの高額商品やレア物が目に付いた。商人プレゼンツの中でも相当ハイグレードのカタログ――それはつまり、今回の件は相当本気ということだ。


(……ふむ。悪い条件じゃないな)


 一護はあくまで試す側である。

 性格反転とやらによる影響は受けなくていいし、性格が変化した相手を見る楽しみに加え、報酬まで独り占めだ。


 ハッキリ言っていいこと尽くしである。


「オーケー。結果は俺の報告でいいのか?」

「ああ。今日中に確認してもらえれば、まるで問題ない……楽しみにしている」


 ガッシリ握手して笑いあう男が二人。

 こうして誰も知ることがないまま、悪巧みは開始されたわけだが――。



◆◇◆◇◆



(まずったな……)


 一護は一人、自室で頭を抱えていた。


 意気揚々と帰ったまでは良かったが、幼馴染が誰も捕まらない。

 葵は部活仲間と打ち上げ、風見はおばさんの手伝い、鷹に至っては行方不明。


(なんて間の悪い!)


 そもそも予定が合わなかったから一人で帰宅になったわけで、ある意味当然の帰結なのだが――そこはキッパリ棚上げして吼える。色々楽しみにしていたのに、これでは台無しだ。


(商人は今日中って言ってたな……確か)


 契約には人一倍うるさい男である。こちらが期限を切ったつもりがなくても、今日中に試せなければ明日厄介なことになるのは目に見えていた。


「……仕方ない。雪音に試すか」


 可愛い妹を実験台にしたくない気持ちと、ちょっと変わった姿を見てみたいという気持ちが拮抗していたわけだが――こうなってしまっては仕方ない。一肌脱いでもらおう。


「雪音~」

「んぅ?」


 呼びかけながら一階へ降りると、ちょうど風呂から出てきた妹――伊達雪音が通りかかった。


 綺麗に整った鼻、小さな桜色の唇、くりくりっとした大きな瞳が奇跡的な配置で並んでいる。適度な水気を含んだ茶髪はしっとりとして触り心地が抜群に良く、身内の贔屓目を抜いても可愛らしい美少女だが――Yシャツ一枚という寝巻きが童顔に似合わずアンバランスで、妖しげな色気を放っていた。


「どうしたの? お兄ちゃん」


 とはいえ、それで内面が変わるわけでもない。

 いつもの通り一護を見た雪音は、心底嬉しそうに微笑んだ。


「ちょうど良かった。上に来れるか?」

「うん、大丈夫。お兄ちゃんのお誘いだもん♪」

「言っとくけど、ロクな話じゃないぞ」


 子犬のような姿に苦笑しながら部屋へ戻る。

 商人の薬が雪音にどう影響するかは未知数だが、少なくとも廊下で試すような類ではないだろう。


「さて、雪音。頼みがある」


 二人してカーペットに座り込み、一護は早々に切り出した。


「これ。ちょっと飲んでくれ」

「……お薬?」

「ああ。なんでも、一時的に性格が変わるとかなんとか……知り合いに頼まれちまってな。怪しいのが解ってるから、お前に頼むのは心苦しいんだけど――」

「うん。飲めばいいんだよね?」

「――どうか頼む……ってそんなあっさりと」

「え? だってお兄ちゃん、そうしないと困るんでしょ?」

「……ああ」

「だったら飲むよ。お兄ちゃんのためだもん」

「雪音……」


 ええ娘や。俺の妹はほんとええ娘や。


 胸に湧き上がる罪悪感から逃れるよう、一護は錠剤を取り出した。そのまま口元まで持っていってやり、ひな鳥のように口を開いた雪音の中へと放り込む。


「……ごくん」


 即効性と言っていたから、薬が本当に本物だったとしたら変化はすぐに現れるだろう。胸中は期待と不安が半々、開けてみるまで解らない楽しみと恐ろしさが混在している。


(さて、どうなるか?)


 無駄にどきどきしながら数秒――真っ直ぐ一護に見つめられて照れていた雪音が、不意に表情を曇らせた。


 はにかむような笑顔から一転、悲しんでいるような、怒っているような、ふてくされているような、そんな微妙な表情である。


(お? ひょっとして来たか?)


 少なくとも珍しい表情には違いない。


 一護が話しかけるかどうか迷っていると、雪音が先に動いた。

 沈みがちだった表情を厳しく引き締めて、あちらから声をかけてくる。


「……兄さん」

(兄さん?)


 初めて聞く呼び方だった。

 十年以上も一貫して“お兄ちゃん”だった呼び方を変えさせるとは、薬効が現実味を帯びてくる。


 そう素直に感心していた一護だったが――続く雪音の一言で、それどころじゃないと理解することになった。


「正座」

「へ?」

「正座。するの」


 有無を言わせない声音である。

 反射的にとりあえず正座した一護だったが、心中は哀れなくらいに狼狽していた。


(ちょっと待て。これはまさか……)


 最悪の想像が胸を掠める。


 自他共に認める雪音最大の特徴は“ブラコン”――ならば、反転するのはそこではないか?

 兄を慕う可愛い妹から、兄を嫌う冷ややかな妹にジョブチェンジしたのではないか?


(……やばい。俺、死ぬかもしれん)


 主に寂しさで。

 反抗期に入った娘を持つ父親ってこんな気分なのか……想像だけでも嫌だぞおい。


「兄さん」

「は、はい」


 びくりと身を竦ませる。


 普段のことを考えれば、どれほどの罵詈雑言が飛び交うことか。仁王立ちする妹の前で、正座で震える兄という情けなさ極まる構図が、今伊達家に――。


「私のこと、嫌い?」

「は?」

「答えて。嫌い?」

「い、いや……大好きだけど?」

「っ!?」

(やべ、口が滑った!?)


 思っていたのと違いすぎる言葉だったから、つい素直に答えてしまった。


 このままでは、“シスコンありえない”と口撃の機会を与えてしまう――と思ったのだが、意外にも雪音は赤くなってそっぽを向いた。


「ふ、ふーん。そうなんですか……じゃ、じゃあ……あのお薬、普段の私が嫌いだから飲ませたわけじゃないんですね?」

(……あれ? なんか話の流れが思ってたのと違うぞ?)


 怒るかと思ったら照れてるし。


「兄さん。聞いてますか?」

「き、聞いてる聞いてる」

「じゃあ答えてください」

「あ、ああ。普段のお前に不満なんてないよ。健気でいじらしくて可愛らしくて控えめで穏やかで……いや、ホントこれ以上ないってくらい完璧だ」

「ふ、ふ~ん……そ、そうなんですか。完璧ですか。そうですか……えへ♪」


 目に見えて雪音の機嫌が良くなっていく。鼻歌まで奏でそうな雰囲気だ。


(ひょっとして俺、とんでもない勘違いしてる?)


 光明が見えた。冷静になってよくよく観察してみると、雪音の態度も拒絶じゃなくて拗ねてる感じだし、ここは一歩踏み込んでみよう。


「えーっと……雪音。俺からも聞いていいか?」

「はい? なんですか、兄さん」

「俺のことどう思う?」

「大好きですよ?」


 即答キタコレ。


「好きです。大好きです。愛しています。世界中の誰よりも、この世の全てよりも。自分でも重たいとは思いますけど、本当に好きなんです。そのくらい愛してるんです……って兄さん。私の愛を疑うなんて酷いですよ」

「あ、ああいや。すまんすまん」


 なんて熱烈なラブコール。聞き慣れている一護でも、そこまで言われると流石に照れるわ。


(……なるほど。色々見えてきたな)


 普段と違うところがつまり、薬で変化した部分なのだろうが――今の雪音は“消極的”が“積極的”に、“従順”が“攻撃的”に変わったように見えた。いつもは恥ずかしくて言えない、もしくは言い出せないことが前面に押し出せるようになっている。


(とりあえず一安心か)


 思ったほどの変化ではない。

 これが一時間程度というなら、どうとでも乗り切れるだろう。


「それで雪音。誤解が解けたなら、正座やめていいか?」

「え? ダメですよ?」

「……おいおい。勘弁してくれ」


 断られるとは思わなかったので、お手上げのポーズでアピール。普段の雪音なら、間違いなくこれで許してくれるはずだが――。


「ダーメ♪」


 やはり“従順”さが反転している妹は、天使の笑顔で兄の懇願を断った。


 否。それどころではない。


「だって、そうしたら……こういうこと、出来ないじゃないですか」

「え?」


 こちらを立たせるどころか、その逆。

 雪音は正座する一護の至近でゆっくりと腰を下ろした。


「な……」


 柔らかい感触が太ももに伝わる。

 あろうことか雪音は、正座する一護の太ももを跨ぐように腰掛けたのだ。


「えへ~♪」


 本当に嬉しそうな笑顔は真正面。それは数センチもない至近距離で――誤解を恐れず簡単にいうならば、今の二人は“対面座位”の形だった。


「ゆ、雪音にゃん? 悪ふざけはそのくらいにしてだな……ど、どきたまえよ?」

「……えへへ。兄さん、真っ赤だよ?」

「真っ赤にもなるわ!?」

「かわいい~♪」

「恥ずかしがり屋はいつ廃業した!?」

「んぅ? そりゃ私だって恥ずかしいけど、でもそれ以上に嬉しいし……それにね、これ以上のこともするつもりなんだよ?」

「こ、これ以上ですって?」


 やばい。キャラ崩壊が止まらない。


 一護もだが雪音が特に深刻だった。

 期待に潤んだ瞳、桜色に色づいた頬、首に回された両腕――男を魅了するために生まれてきたような魔性が、一護の耳元で言葉となる。


「子作り……したいな」

「ごぶっ!?」


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおい!?


「兄さんからして欲しいな~……かぷっ」

「うはう!? 耳たぶを噛むな耳たぶを!」


 積極性が倫理的にも道徳的にもおかしな方向に発揮されてるううううううううう!?


「落ち着け雪音、変なテンションで発情するな! 今のお前は薬でおかしくなってる! いや、俺のせいだけど、一回、落ち着いてだな――」

「お薬のせいじゃないよぉ……私、落ち着いてるもん」

「え?」

「今日だってそうだよ? 兄さんが大好きだとか、完璧だとか言うから……たまらなくなっちゃったんだもん」

「え? いや……えぇ?」

「兄さんが優しく囁いてくれたりとか、しょうがないなぁって頭を撫でてくれたりとか、よくやったって笑顔で褒めてくれたりとか……そういう時にね、すっごく嬉しくて私の体が反応するの。本当に好きだなぁって実感して……好きにして欲しいなぁって思っちゃうんだよ?」


 薬で反転しても、羞恥が消えるわけではない。

 恥ずかしそうにはにかみながら、零距離で愛を呟きながら、だが雪音は止まらなかった。


「お、おまえ……物凄いこと言ってるぞ……?」

「えへへ、解ってるよ……恥ずかしいし、どきどきが止まんないもん。でも折角だから、普段出来ないこと全部やっちゃおうかなぁって」


 普段出来ないこと――それが何かなど、問うまでもない。


 言葉よりも雄弁に、雪音は一護への愛情表現を実行していた。


「にいさ~ん……♪」


 一護の頬に頬ずりし、顔中にキスの雨を降らせ、両手は背中を優しく擦り、胸から太ももから全身の柔らかい部分を余すところなく密着させてくる。


 それはまるで――性格が反転しようが、自分の愛は変わらないのだと。

 変わることなどありえないのだと、一護へ伝えようとしているかのようだった。


(まずい、まずい、まずい、まずい、まずいぞおおおおおおおおお!!!!)


 声に出ていれば悲鳴となっただろう。


 濃密な求愛を受けながら、彼は己を呪っていた。安易に雪音へ薬を飲ませたこともそうだが、何よりも彼女の愛を受け入れも拒絶も出来ない弱さが腹立たしい。


(どうする、どうする、どうする、どうする、どうする俺!?)


 情状酌量の余地なく自業自得だったが、当人にとっては一大事だった。


 鉄の自制心を持つ一護といえど、今の雪音には抗し得ない。

 このままでは、これまで必死でぼかして来たあらゆる感情が溢れ出してしまう――!


 ――その願い(いのり)が通じたわけでもないだろうが。


「ゆ、雪音?」


 扇情的に体を擦り付けていた雪音が、不意に止まった。


「っ」


 いや、止まったというよりこちらの肩に頭を預け、くてっと脱力した感じである。荒く息を吐く様子はまるで高熱のようで、たまらず一護は雪音を起こした。


「おい、雪音!」

「*○☆■△×※!?」


 果たしてそれは何語だったのだろうか。

 真正面から顔を覗き込むと、雪音は哀れなほど真っ赤になっている。


「ち、ちが!? ちが、ちがちがちがちが、違うの! わ、わわたし、そ、そそそそ、そんな違うの!?」


 涙目で首を振り、無駄に両手をばたばたと動かし、何かが違うと訴える妹。


 あまりの落差に呆然としている一護を見て勘違いしたのか、ずいっと身を乗り出して雪音は大声で叫んだ。


「私……そんなにえっちな娘じゃないからねっ!?」


 ないからね、ないからね、ないからね――。


 叫びの末尾がエコーのように響く中、言い終えた雪音はこてりと転倒する。ぎりぎりで抱き留めてはみたものの、完全に目を回していた。


(……そういや、効果が切れたら眠っちまうって言ってたな。商人の奴)


 効くのも切れるのも即効性とは、その極端さが何とも“らしい”。


(……危なかった)


 まぁ今回はそのお陰で助かった――後は雪音を寝かしつけた上ですっとぼければ、今回のは夢で終わらせられる。一護の記憶に蓋をしてしまえば、いつもの日常へ戻れるのだ。


「……はぁ」


 心底から安堵のため息をつき、雪音を抱きかかえたまま後ろへと倒れこむ。


 冗談抜きで、今日は一護史上最大のピンチだった。


 好かれているのは知っていたが、まさかあれほど直接的に――精神的にも肉体的にも迫られる日が来るとは思っても見なかった。


 未だに止まらない心臓の鼓動が、一護の受けた衝撃と動揺の大きさを物語っている。


(……雪音)


 可愛く、よく出来た妹だ。容姿端麗、成績優秀、家事万能、気心が知れている上に、一護へ惜しみなく注がれる情愛はきっと天上天下で並ぶものがいないだろう。


 彼女の愛を受け入れさえすれば、きっと誰もが羨む恋人になってくれる。


「……我ながら意気地がないな」


 容易に想像できてしまう未来に、一護は苦笑した。


(お前には悪いけど、それでもやっぱり……しばらくは今のままでいたいんだよ)


 幼馴染達が騒がしくて、でもとんでもなく楽しくて、何をするわけでもなく、ただただ日常を過ごせる今――掛け値なく好きだと胸を晴れる日々を壊す勇気は、とても持ち合わせていない。


「……ごめんな、雪音」


 せめてもの侘びに、髪の毛を優しく梳いてやった。

 ありえない夢を見た後なら、少しくらいのサービスタイムは許されるだろう。


「ん……ぅ……おにい、ちゃん……♪」


 少し苦しげだった寝顔が、あっという間に安らいだものへと変わったのが――とても印象深かった。

深刻なネタ不足です。なにかシチュエーションのアドバイスあればお願いします。

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