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外伝 - 続・問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その1

 今回のイベントが注目されていたのは間違いない。


 情報はなかった。それまでのイベントに比べても、情報量は限りなく少ないと言わざるを得ない――何しろ、解っていたのはたった二つ。


 一つ、ギルドによる対抗戦であること。

 一つ、クエストの名称。


 これらが事前に告知された情報の全てである。


 だがその二つの情報にプレイヤー達は歓喜した。


 王道MMO-RPGであるEGFにとって、ギルド対抗戦は前代未聞。まったく未知のイベントに心躍らせたプレイヤーは決して少なくない。


 そしてもう一つ。

 注目されるようになったのは実際、こちらの理由なのだろうが――。


「さてさて、どんな神話級(ごほうび)があるのかな~♪ もう振り分け決めとこうょ!」

「気が早いっつーの」

「甘いょ兄貴。こういうのは最初が肝心、さぁいつ決めるの? 今でしょ!」


 ――調子に乗りまくった葵のように、イベント報酬に惹かれた連中が多いのだ。


 なにしろイベント名は『唯一つの神宝』


 キーワードは“神”。

 そこから連想される最上級装備“神話級”の存在が、葵を筆頭とする即物的なプレイヤーを惑わせていた。


 結果、参加者はどんどん膨れ上がり、ロビーにおける顛末と相成ったわけである。


 ちなみに場所はロビーから『キズナ』のギルドホームへ移っている。

 あの後、ロビーで参加登録を済ませたところ、開始まで時間があると解ったので戻ってきた次第だ。流石にロビーで暴れられると色々困る。世間体とか。一護の心臓とか。


「それより予選のお題だろ。いい加減、詰めようぜ」

「む! でっかいの! あたしとやりあう気!」

「まぁまぁ葵ねぇ。落ち着いてくださいっす」

「あはは……」

「あいつは放っておこう……さて、と」


 暴走娘をとりあえず鷹達に預け、一護はクエストの依頼書に目を落とした。


『神代から現代まで使命を伝える一族。守護者を自認してきた彼らはしかし、時の流れと共にその役目は自分達に相応しくないと考えるようになる。この世界を護るに値する組織へ使命を伝え、かつて神より賜った宝を授けよう――』


 という設定らしが、流石にこれだけでは解り辛いので、その下に概要が載っていた。


 ・チームによる対抗戦

 ・チームは同ギルドに所属していると作成可能

 ・1チームは10人まで

 ・1人が複数のチームに所属することは出来ない

 ・ギルドで複数のチームを作ることは可能

 ・クエスト中、参加者の離脱はNG。用意した待機ルームに滞在すること


 そして、1回戦(よせん)のお題は――。


「……うーん。どうしたもんか」

「流石の大殿も悩みますか?」

「まぁな。人数はちょうどで良かったし、お題自体も解りやすいのはいいんだけど……逆にそれが悩ましい。ウチは特化型が多いしな」


 予選リーグのお題は単純明快である。

 バトルロイヤル――ハンデなしのルール無用、一触即発残虐ファイト。


 なにしろ『EGF』の世界はバトルに満ちている。討伐クエストだけではなく、探索や素材集めでも戦闘は起こるのだ。極々一部の特殊なプレイヤーを除けば、“冒険者”にとって戦闘力は必須項目といえる。


 このためお題としては納得出来るのだが、今回、運営より提示された人数は各チーム4名。メンバー選出が最初の分岐点だった。


「雪音。お前は誰がいいと思う?」

「ふぇ?」

「1回戦。悪いが俺はギブアップだ。考えてくれ」

「う、うん。がんばる」

「流石はご主人。見事な丸投げっぷりですね」

「うるさい。適材適所だ」


 別に丸投げしたわけではない。ギルドマスターとして、参謀に意見を求めただけである。


 そもそも一護より雪音の方が遙かに頭はいいし、詰め将棋的に考えさせたら彼女は『キズナ』ナンバーワンなわけで、無理に一護が考えた方がヤケドするってものだ。(正当化


「……うん。一応考えたけど、いいかな? お兄ちゃん」


 という言い訳はともかく、宣言通り雪音はがんばって考えてくれたらしい。


「メンバーは鷹さん、レイちゃん、葵ちゃん、それからお兄ちゃん。この4人がいいと思う」

「え? あたし?」

「いよっしゃーっす!」

「ま、当然だな」

「回復いなくて大丈夫~?」

「なるほどなるほど」

「……あ、えっと、その」

「落ち着け。いっぺんに言うなっての。雪音が困るだろうが」


 わたわたし始めた雪音に代わり、バカ共を止める。

 みんなに反応に少しまだ戸惑っていたが、一護が一つ頷くと、彼女は己の考えを披露し始めた。


「まずメンバーは“単独の強さ”と“速さ”を基準に選びました。“チーム戦”じゃなくて、“バトルロイヤル”って表現してるから、多分、転送後はバラバラに配置されます。そうなったら、私や小雪ちゃんじゃ合流前にやられちゃうと思うので」

「……なるほど。あえて回復役等は捨てて、個々で戦い抜くようにってことですね?」

「基本はそうですけど、合流出来るならそれに越したことはありません。ですから、個々で戦いながら、出来るだけ早く合流する――そういう形が取れるメンバーを選びました」

「それで速さ、ですか」

「はい」

「なるほどな……」


 雪音が挙げたメンバーは『キズナ』最速の4人だ。

 “生き残る”ことを最優先にすれば葵じゃなくてゼロが入るが、合流を最優先にしたいと考えるなら、確かにこのメンバーがベストだろう。


「つまり転移後は全力で集まって、他のギルドが集合する前に叩き潰すんでしょ? いいね、攻撃的であたし好みだょ! くふふ、ゆっきも悪だね~!」

「あ、あはは……」

「となると、後は合流の手段ですか? 姫君」

「はい。それでイカヅチさん、相談なんですけど、『通信石』は人数分ありますか?」

「おや? あるにはありますが……お使いに?」

「お願いします」


 『通信石』とは読んで字の如く、パーティーメンバー同士で通信を可能とする秘石だ。簡単にいうと音声版のグループチャットである。電話感覚で使えるため文字情報で伝えるより便利だが、そこそこお値段が張る上に、ダンジョン単位で使い捨てが必要な金食い虫でもあった。


「『通信石』で合流っすか……伝達力が鍛えられそうっすね! ぶっちゃけ自信ないっすけど!」


 しかしレイの言う通り、『通信石』で伝えられるのは音声だけだ。


 スキルを使えば自位置が確認できる葵はともかく、他の面々は自分の位置すら把握出来ない。合流するには周囲で目印を上手く見つけ、メンバーに伝える必要が出てくる。


 あれば便利なのは間違いないにしても、結構なコストをかけて装備しなければならない理由はないと思うのだが――。


「あ、そこは大丈夫だよ。レイちゃん。合流までの道筋は私が連絡するから」


 優秀な妹は言われるまでもなく、そんなことは計算に入れていた。


「どういうことだよ? 雪音ちゃん」

「1回戦は4名先発ですけど、残った人は待機ルームで待たなきゃいけない――だよね? お兄ちゃん」

「ああ。クエスト要綱にも書いてあるな」

「ということはバトルロイヤルの間、待っているメンバーは拘束されることになりますよね? 外に出ることも出来ないから、本当の意味で手持ち無沙汰。EGFのGMさんが、それで良しとすると思いますか?」

「……いやぁ。多分、暇つぶしは用意するでしょうねぇ。1チーム10人である以上、過半数は待ち時間になってしまいますし」

「私もそう思います。だから――私達はお兄ちゃん達のモニター観戦することになるんじゃないかって」

「おお~」


 メタ的な発言になるが、EGFの運営はかなりマメだ。


 今までの経験上、これだけ大々的なイベントをしておいて、過半数を暇にすることは考えにくい。雪音はそれをモニターによる試合観戦と読んだらしいが、それなりに納得出来る仮説だった。


「もちろん違うかもしれませんけど……もし私の推測通りだったら、こっちからはみんなの位置が把握出来ます。それで私からお兄ちゃんに連絡すれば、全員への伝達が出来る」

「なるほど……ですが雪音様。肝心の一護様へはどう伝達されますか? 普通のチャットでの伝達では全てのギルドが等条件ですし、そこはGM様も心得ておられるのでは?」


 イカヅチの疑問はもっともである。

 チャット機能は基礎機能であるが故に、当然、運営側も対策しているだろう。


「――いや、いける」


 だがそれが解っていても尚、一護はイカヅチの疑問を退けた。


 理由は単純。チャット機能は対策されているとしても、他の通信手段は手をつけられていない可能性が高いからである。


「他のギルドは無理でも、俺と雪音には――」

「うん。ペアリングがあるもんね」


 雪音掲げた左手。当然のように、その薬指に嵌められた指輪は『連なる絆のペアリング』という伝説級のアイテムだった。


 その名の通り単独では意味をなさず、一護の保有するリングとセット運用して、初めて真価を発揮する特殊装備である。


「今までのクエストで、ペアリングが通信不可になった例はありませんでした。多分、今回も効力を発揮してくれると思うんだけど……どう? お兄ちゃん」

「……なるほど」


 上目遣いでおずおずと聞いてくる雪音に、一護は深く頷いた。

 仮説だらけの推論と言えばそれまでだが、当たっていた場合のメリットは計り知れず、仮に外れたところで他のギルドと同じ条件になるだけだ。


「みんな。反対意見は?」

「あるわけないょ。てか、ウチのギルドでこんだけ考える人いないし」


 葵の発言通り、反対意見はまったくのゼロ。

 即ち満場一致。全員が諸手を挙げて、雪音の提案を受け入れた。


「よし」


 となれば話は早い。クエストの開始時間に遅れないためにも、一護はさっさと指示を出す。


「雪音。悪いけど、後で必要になりそうなものを見繕っておいてくれ」

「うん、解った」

「ゼロと小雪は雪音をサポート。イカヅチとアカは雪音が選んだアイテムの品出しを頼む」

「仰せのままに。がんばっちゃいますよぉ」

「……っ(こくこく」

「承りました」

「御意」

「風見はアイテムを『戦隊』に装備すること。忘れるなよ?」

「は~い。ご飯もたっぷり持ってくね~っ」

「出陣組は装備点検な。俺らが負けた瞬間に終わりだ。気合入れてくぞ」

「へいへい。わーってるよ」

「全力で行くっす!」

「リーダーっぽいじゃーん。あ・に・き」

「うるさい。とっとと準備しろ」


 茶化してくる葵に反論しながら、一護もまた武装をチェック。


 先ほど言ったことは冗談ではないのだ。

 選抜メンバーになった以上、最初のステージで負けたら全てが終わってしまう。


(……気をつけよう、うん)


 とりあえず全力で戦い抜くことだけは誓いつつ。

 ギルド『キズナ』は、こうしてお祭りクエストへ出陣した。

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