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外伝 - 問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その5

 結論からいえば、ゴーレムの殲滅はほぼ予定通りに完遂した。


 まずは戦力の集中運用にて、一体を即時制圧。その間に鷹が相手をしていたもう一体は、最終的に全員で時間をかけて体力を削り取った――戦闘開始となってもカウントダウンが始まらなかったため、短期決戦からHPとMPを温存・回復する作戦へと切り替えたのである。


「うし。全員フルステータスだ。葵、そろそろ決めてくれ」

「りょうか~い!」


 一護の声と共に放たれる一矢。


 既に体力を極限までこそぎ取られていたゴーレムは、葵の弓矢を眉間に喰らって力尽きた。心なしかほっとしているように見えるのは、体力1の状態で五分以上もおちょくられていたからだろうか。『キズナ』マジ鬼畜。


 ――という冗談はさておき。


「さて、ここからだな」

「ハ。楽しみだぜ」


 ゴーレムが轟音と共に倒れ付すのと同時、金色の門が動き出した。


 荘厳とすら感じる音色を響かせながら、人間界と天界を隔てる扉がゆっくり開いてゆく――その先に待つのは天使か悪魔か。間違いなく天使だ。EGFでも悪魔だったら基本魔界だし。


「あ。カウント出てきたよ?」

「ふむ。扉に連動して作動開始ですか……お姫様は何かご存知で?」

「え? えっと……よく解らないです……」

「気にしないでいいっすよ! 目的地とはいえ、別世界のことですし!」

「はい……ごめんなさい」

「まぁ時間制限があるってのとフロレス云々は関係ないしな」

「そんなことよりさっさと行こうょ。時間もないんだし!」

「同意。急ぎましょう、お歴々」


 葵主従が風を切って天界の門へと進む。

 些か性急過ぎる気もしたが、言ってることはもっともだ――肩をすくめつつ、結局は全員で門を潜ることと相成った。


「………」


 タウンポータルと同じ、空間を渡る一瞬。


 奈落へと至る浮遊感のような、なんともいえない体感を通り過ぎ――たどり着いたのは、百メートル四方はある空間。大理石に似た純白の聖石をこれでもかと使った、石造りの大部屋である。


 超巨大なパルテノン神殿といった風情は見応え充分で、これがもし観光だったら一護はまず感嘆のため息を漏らしただろう。なんだったら写真でも撮ってギルドホームに飾るのも吝かではない。


「な」


 だが、そうはならなかった。


 観光どころではない。

 空間渡航から五感が回復した一行が目撃したのは、その荘厳な神殿を埋め尽くさんとする敵の姿だったのだから。


 獣がいた。天使がいた。精霊がいた。


 その全てが戦闘態勢にあり、一護達は先手を取られたことを否応なしに理解する。


「百六十七!!」


 『探索』のスキル『カウントアップ』で敵の数を伝えながら、葵が駆け出した。


 遠距離の精霊と天使群――発動秒読み段階の魔法攻撃を、少しでも引き付けようという目論見だろう。機動弓兵アクティヴ・スナイパーと自らを称する葵の本領発揮、射撃を続けつつも巧みなステップと抜きん出た敏捷性で、敵の間をすり抜けてゆく。


「続くぜ、レイ!」

「押忍! 師匠!」


 それを追い、格闘師弟も動き出した。

 葵の陽動に引っかからなかった前衛の精霊獣どもを二人が引き受ける。三人の機転により、物量で押し潰そうとした相手の出鼻こそ挫けたが、乱戦は止められなかった。


「ぎゃー! なんかめっちゃ多いょ! どっかの笛吹きみたいなー!?」

「ハッハァ! 楽しくなってきやがったぜ! レイ、ぶっ倒れたら承知しねぇぞ!」

「わ、解ったっすー!」

「砲撃多数っ!」

「ゼロ、アカ! 止めろ!」

「解ってますよ!」

「承知!」


 綺羅星のように迫る数十発もの魔法攻撃。

 マトモに喰らえば総HPの半分以上は持って行くであろう砲撃に、ゼロとアカ――頼もしい二人のフェローが多重防壁展開で応戦する。それだけで相殺できるほど甘い攻撃ではなかったが、それでも大部分は減退して威力が鈍った。


「この程度なら問題ないですねぇ!」


 聖堂騎士(カテドラルナイト)の面目躍如。

 ラン、及び二人の後衛に着弾しそうだった全ての魔法はゼロが総身で引き受ける。


 明滅するHPバーは彼に伝わるダメージを示していたが、その進みは明らかに遅かった。仮に全て喰らったとしても、精々総HPの一割程度だろう。


「~~~っ!!!(きりっ」


 ゼロという名の鉄壁に護られた小雪が、高らかに火線を撃ち放つ。

 いつも通り声は小さすぎて聞こえないものの、何の技能を使ったかはすぐに解った。


 『プロミネンス・シャワー』――上位火魔術技能によって生み出された巨大な火球が天空で分散し、高密度の炎弾と化して戦場へ降り注ぐ。広範囲・高威力を兼ね備えた火雨が、容赦なく敵のHPをこそぎとっていった。


(くそ、硬いな……!)


 炎の嵐を横目で見ながら、一護は上空より飛来した敵と斬り結んで歯噛みする。


 『キズナ』随一の火力を誇る小雪の攻撃を受け、一護の二刀に幾度となく斬られて尚、敵は健在だった。『プロミネンス・シャワー』は言うに及ばず、『明星弐連』とて双剣では神話級に位置する最強クラスの武装である。固有名称(ネームド)でもない連中にこれほど苦戦するなど、正直言って考えていなかった。


(推奨Lv285、か!)


 改めてその意味をかみ締める。予想以上の難敵揃いだ。


「雪音!」

「うん!」


 躊躇う余裕もない。一護が呼びかけると、雪音は即座に最適解で応えた。


 揺らめく炎のエフェクト。敵を燃やし尽くす劫火ではなく、味方を守護する優しい揺らめき――フィールドに散らばった味方全員が纏う赤い煌きは『祈祷術』と『神聖術』の二元技能(デュアル・アーツ)、『烈火の加護』による攻撃力ブーストである。


「破ァァァァァァァァ!!!」


 一閃。

 先ほどまでとは段違いの威力で振るわれた二刀が、今度こそ宙を舞うグリフォンを斬り裂いた。


 ラグと共に揺らぐ敵を足場に『アクロバティック』スキル『八艘跳び』で接敵し、並み居るモンスターを斬る斬る斬る斬る斬りまくるッ!


「落……ちろぉ!」


 飛行ユニットが少ないのが幸いした。幾らか反撃を受けながらも、雪音のバフ効果が切れる前に全ての敵を叩き落とすことへ成功する。


(戦況は……!)


 上空の脅威がなくなり、ようやく下を見る余裕が出来た。


 基本的な配置は変わっていない。敵の奥深くで縦横無尽に駆け巡る葵、敵の津波に圧倒的な戦闘力で食い下がる鷹とレイ、その後ろで奮戦するゼロとアカ、最後列で援護に防御に攻撃にと目まぐるしく呪文を唱える雪音と小雪、そしていきなりの激戦に立ち竦んだ様子のラン。


 どこも劣勢だったが、まずは――。


「いくぞ!」


 『格闘術』スキル『地龍脚』を発動。

 現実では有り得ない急激な方向転換と共に、体が大地へと引っ張られた。


「おう一護!」

「一護にぃ! ありがたいっす!」


 飛び蹴りにて敵をふっ飛ばしながら、一護が割り込んだのは激戦区。


 いくら鷹達が精鋭でも、その武勇は無限ではない――ただの雑兵が相手なら無双出来たかもしれないが、今回は無双で言うと一般武将が群がっているようなもの。攻撃力に優れた鷹でも一撃では倒せず、敵は次々と補充される有様で、徐々にではあるが圧されていたのだ。


「相手の数どんなもんだよ!」

「さぁな! でも間違いなく減ってはないぞ!」

「おかわりっすか! おかわりっすねっ!」

「なんで嬉しそうなんだお前の弟子は!」

「嬉しいんだろ! 頼もしいじゃねぇか!」

「限度があるわ!」


 会話しながらも手は止めない。

 一護が本格的に参戦したことで戦況は拮抗した。敵側が圧倒的な数的優位は変わらないものの、トップレベルの前衛三人が連携することで、相手の進撃が完全に止まる。


 こちらの武勇と同じく、敵も無限ではない。後は突発的な遠距離攻撃さえ注意すれば乗り切れる――。


「ふひゃああああああ!!!」


 そう思っていたのだが、なんか敵の奥地が酷いことになっていた。


「やばい、やばいってこれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 悲鳴の発生源は葵。

 ちょっと目を離した隙に調子に乗ったらしい。先ほどまでの倍近く、一護らが三人で捌いているのとほぼ同数の敵に追い立てられていた。


「……あんのバカ!」


 葵のHPは既に半分を割っている。

 流石に逃げへ徹していたが、敵の攻勢は明らかに彼女の回避能力を上回っていた――このままでは遠くない未来、あえなく力尽きるだろう。


 だが葵を見殺しにする、あるいはただ退かせるというのは論外だ。


 あちらで引きつけている戦力がこちらに集中すれば、戦線はいずれ崩壊する。誰かが彼女と同じ役割を負うしかないわけで、それには一護自身がベターな選択だった。


「鷹!」

「行って来い、一護! あんのアホをさっさと引っ込ませて、雪音ちゃんに癒してもらえ!」

「ここは耐えれるか!?」

「誰の心配してんだテメェはよ!」

「大丈夫っすよ! いってください、一護にぃ!」

「――解った! 頼んだぞ!」


 みなまで言わずとも理解する二人に胸中へ感謝。


 己の務めを果たすため、一護は敵陣へ突入した。一気に密度を増した敵の只中を、『身体能力』、『アクロバティック』、『心眼』スキルの三本柱で、なんとかすり抜けてゆく。


「葵!」


 言うほど簡単な道のりではなかったが、一護とてAGIに特化した剣士だ。手痛い打撃を喰らうことなく、玉砕覚悟で反撃しようとした特攻娘までたどり着くことに成功する。


「無理すんな、バカ!」

「うぇぇぇぇん! あ、兄貴~っ!」

「交代だ、下がれ!」

「お、オッケー! 後は頼んだぜ、とっつぁぁぁぁぁん!」


 助けに来て後悔した。

 しかし、跳ねっ返りの葵が反駁せずに退いたのはそれだけ追い詰められていた証ともいえる。


 ふざけた捨て台詞は、彼女なりの照れ隠しという辺りか。


「ったく、おかげでこっちが大変だ!」


 やり場のない怒りはモンスターへプレゼント。

 癒しの脈動を全身で感じながら、囮役を果たすべく一護は奮戦を開始した。

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