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外伝 - 問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その4

今回ちょっと短めです。

 それから暫し。

 話がまとまった後、再度出現したタウンポータル――今度こそダンジョンへ続く道を抜けた『キズナ』の面々は、鬱蒼とした森の中を突き進んでいた。


「へー。さっきの爺ちゃんは後見人なんだ?」


 否。もう一人。


「は、はい! そうです!」


 今回のクエスト『歌声よ、天上に還れ』におけるキーパーソン・ランが一緒である。


 ちなみに保護者兼護衛だったリルドとは宿屋で別れた。

 天界の襲撃で彼らの騎士団は三分の一が戦闘不能らしく、大将軍たる老兵も可能な限り指揮を執らなければならないらしい。


『……後は全てお任せいたしまする』


 過保護らしく、最後まで着いて来たそうだったのは愛嬌だが。


「……お兄ちゃん。今回のクエスト、どうかな?」

「ん?」


 顛末を思い返していると、最後列で小雪と歩いている雪音が耳打ちしてきた。


 吐息がくすぐったいぞ、雪音にゃん――というのは置いといて。


「そうだな……正直、大分厳しいだろ」


 予想されるクエスト情報は以下の通り。


 勝利条件――天界を駆け抜け、『天の祭壇』にてランがその歌声を響かせる。

 敗北条件――パーティー全滅、制限時間超過、ランの戦闘不能。


 ただでさえ推奨Lvが上のクエストだ。ゲスト1名のハンデはかなりの不利には違いない。


「でもまぁ、やるしかないしな。がんばれるか? 雪音」

「うん。いつものダンジョン探索とかより、がんばりたいなって思ってるよ」

「~~~(こくこく」

「そっか。まぁあんだけお願いされちゃうとなぁ……多少は感情移入しちゃうだろ」


 悲劇を背負った歌姫――ベタだが王道だ。まして人間と見分けがつかないほどの感情を見せられては、奮起しない方が嘘だろう。


「いい子だしな。鷹も珍しく気に入ってるみたいだし」

「あ、あはは……一回酷かったもんね……」

「そうだな。葵もだけど、嬉々としてたもんな……」


 今回と似たシチュエーションで、鷹が依頼者を殴って失敗したことがある。

 これでランが性格最悪な高飛車お姫様だったのなら、その焼き直しになったことだろう――そういう意味ではついてるのかもしれなかった。


(……やれやれ)


 苦笑と共に嘆息をして、一護は陣形に思考を移す。


 『キズナ』の進軍陣形はRPGのように、ほぼ一列だった――最前線には索敵能力に長けたアカ。二列目に単体最強の鷹を置き、さらに参列目に護衛対象のランと状況判断に優れた葵、防護能力のゼロを並べる。四列目の一護が全体への指示出しを行い、最後列に魔法使いの雪音と小雪――こういった配置でまとめている。


 他にも色々と試した経緯はあるが、今ではこれが一番と満場一致で決定していた。


「お歴々」


 故に。


「「「「「「「っ!」」」」」」」

「ほぇ?」


 アカの声が響いた瞬間、メンバーは即座に戦闘態勢へ移行した。


 ランをからかうような会話を繰り返していた葵でさえ、愛用の弓を持ち出していつでも発射できるようにしている。


「あ、あの……?」

「しっ。お静かにお願いしますよ、お姫様」


 状況についてこれていない姫様をゼロに任せ、一護は視界を強化――百メートルほどの先、森を抜けた部分に凄まじい威容を讃えた“何か”を発見する。


「アレが天界の門か……」

「おい一護。もっとしっかり見ろよ。面白ぇモンがいるぜ」

「なに?」


 樹木に飛び乗った鷹の興奮した声。

 敵に見つかる可能性も考えたが、アカが警告をしない以上、危険はないと判断し、残りのメンバーも彼に倣った。


 視界さえ確保されれば問題はない。

 先だけ見えていた天界への入り口の全容が詳らかになる。


「――――――――」


 その門扉は全て純金製。カンストした『細工師』でも不可能な意匠が掘り込まれており、しかも自ら発光している。恐らく金額的にも学術的にも天文学的な価値があるだろう。


 だが一護達が押し黙ったのは、そのせいではなかった。


 門の横。天界の入り口を護るように、二つの巨大な影が起立していたのである。


「あ、あれって……」

「うわ。ハイ・ゴーレムじゃん……めんどくさいなぁ。もう」


 20メートルはあろうかという巨体へランが絶句し、葵がぼやいた。


 ゴーレムという種族は金属、あるいは岩石を利用して作られた人形の総称だ。一般的に防御力と耐久力が図抜けて高く、逆に俊敏性は劣るとされる。


 ハイ・ゴーレムとはゴーレム種の中でも最高級の代物――失われた古代の秘法が用いられた人形である。普通のゴーレム以上のスペックに加え特殊能力を持つ可能性が高く、風見の『魔法人形創造』スキルでも作り出せない存在だ。


「さて、どうしますか?」


 それなりの難敵を前にパーティーの足が止まった。幸いにも敵の感知範囲には入っておらず、ゴーレムは起動待ちの状態。作戦を考える時間は充分にあった。


「勝てない相手じゃねぇだろ。さっさとぶっ倒そうぜ」

「さんせ~い。ただでさえ長丁場なんだし、さっさと進もうょ」

「まぁ負けないってのは同意だけど、まだスタート地点だしな……どう思う? 雪音」

「私は……慎重にいきたいな。隠し玉があるかもしれないし、お兄ちゃんの言う通り、まだ天界に入ってもいないし。出来るだけ温存した方がいいと思う」

「ふむ……鷹」

「あん?」

「しばらくソロで引き受けられるか?」


 意見は五分。


 『キズナ』のルールでは同数意見だとギルマスが優先されるため、少し黙考した一護は独断で作戦を決めた。


「鷹が引き受けている間に全員でもう一体を潰す。鷹が下手さえ打たなきゃ、一番消耗が少ない作戦だろ」


 否、作戦と呼べるような話ではない。


 単純な数式だ。

 7対2よりも6対1の方が有利なのは子供でも解るだろう。


「誰に口利いてんだよ。お前らが手間ぁ食ってたら、二匹とも俺がもらっちまうぜ」


 あとは1対1(タイマン)となってしまう方が問題だが――好都合とばかりに、戦闘狂は極めて嬉しそうな笑みを浮かべていた。相手にとって不足あり、とばかりの不敵な面構えである。


「だ、大丈夫ですか?」


 鷹の悪い癖に他のメンバーが苦笑する中、ランだけは心配そうに鷹を見上げていた。


 だがそれも当然だろう――あの巨体とタイマンを張るなど普通なら考えもしない。特にNPCでは英雄クラスでも不可能だろうし、一護とて十全にこなせる自信はなかった。


「ま、見てなって。姫さん。あんたを護るギルドの強さって奴をよ」


 しかし鷹は笑う。見せる付けるような、ふてぶてしい獰猛な獣の笑顔で。


「うっし。行くぜ! レイ!」

「押忍!」


 そうして一護の指示から充分以上のものを引き出し、格闘師弟が駆け出した。


 身体能力の超絶強化、さらには『気功拳』まで会得した超級の前衛二人が、風よりも速く彼我の距離を詰めてゆく。


『――――――――』


 対する敵の反撃は、雄弁かつ簡単だった。


 鷹とレイが一定距離へ迫った瞬間に起動――二手に分かれて迫る襲撃者へ向け、それぞれ蹴りで応戦する。


「っ」


 たかが蹴りとはいえ、ビルが振り回されたかのような巨大質量に、ランが押し殺した悲鳴を漏らした。


「うわっと!」


 だが、当人達はその程度では怯みもしない。

 レイが攻撃をサイドステップで回避。風圧に闘衣をはためかせつつ、ギリギリの見切りで突き進む――前衛に相応しい驚嘆の反応速度だったが、彼女の師匠はさらに上をいっていた。


「ハ!」


 鷹は――弾丸のような跳躍で、蹴りを飛び越えたのだ。


 それどころか三角飛びの要領でゴーレムの体を駆け上がってゆく。

 軽やかな身のこなしは猿のようで、しかし放たれる殺気は肉食獣の凶悪さを秘めていた。


 襲来する悪鬼。未だ蹴りの姿勢から回帰しきれていないゴーレムだったが、本能的に迫り来る危険を察知して手を振るう――。


「遅ぇ!」


 だがそれよりも一瞬速く、一際大きく鷹が跳躍した。

 迎撃を急加速ですり抜けて、ゴーレムの下顎辺りに飛び蹴りを叩き込む。元々の助走も加わった『格闘術』スキル『天龍脚』の大威力が、石の巨体を僅かに浮き上がらせた。


「ウラァ!!!」


 しかしそれで終わりではない。


 空中で反転した鷹は即座に『格闘術』スキル『地龍脚』を発動。

 再度の飛び蹴りがのど元へと突き刺さり、浮き上がっていたゴーレムは森林をなぎ倒しながら吹っ飛んだ。


「す、すごい!」


 流石の手並みである。作戦通りゴーレムが分断されたのを見届け、すかさず一護は叫んだ。


「雪音、小雪!」

「うん!」

「っ(こくり」


 呼びかけからタイムラグなしで『火魔術』――『イグニス・ジャベリン』が二重で降り注ぐ。足元で奮闘するレイにヘイトを取られていたゴーレムは、遠距離から殺到する炎の雨に対応出来ずにあっさりと着弾を許した。


「よし。出るぞ、アカ!」

「承知!」


 瞬間、待機していた前衛二人が遅まきながら動き出す。


 作戦は――今のところ、非常に順調に推移していた。

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