カンビョオーネ! 5 -了-
今回短いです
しばらくして、嵐のような幼馴染達が去り。
夕飯と風呂を経て、洗濯をもう一度行い――それでようやく就寝である。
「疲れた……」
一護はがくりとベッドへ突っ伏す。
半分以上は幼馴染のせいだが、家事も相当負担だった。慣れないことはやるもんじゃない。
「あはは。お疲れ様、お兄ちゃん」
「ああ……しかしお前ってすごいな……」
たまに思うことだが、骨身に沁みた。
一護では学校を休んですら、この体たらく。ちゃんと学校に通い、優秀な成績を収めながら家事を引き受ける――並大抵の労力ではないだろう。
「朝は五時起きだっけ?」
「んーん。お布団でころころしてると時間経っちゃってるし、五時半くらいだよ」
「それでも充分早いが……」
ちなみに一護は七時過ぎである。
優しく朝起こされて、アイロン掛けされた制服を身に纏い、温かな朝食を食べ終わり、兄妹揃って登校――冷静になって考えてみると、完全に雪音へ甘えっ放しだった。
「……俺って恵まれてるのな」
「ふに?」
「いや、いつもありがとう。助かってるぞ。雪音」
「…………えへへ、どういたしまして♪ お兄ちゃんがそう言ってくれるだけで、私はすっごく幸せだよ♪」
一護の礼に微笑む雪音。
誰がどう見ても彼女が引いているのは貧乏くじのはずなのだが、体調を崩した今でさえ恨み言一つも漏らさない。そんな出来た妹です。
(……明日は早起きしよう。うん)
不出来な兄としては、誓わざるを得なかった。
少なくとも病み上がりの間は、家事も手伝うようにしなければなるまい――手伝わせてくれるかどうかは別として。
「さて、早いけどもう寝るか? 病み上がりならぬ病み中だし、明日は普通に学校だし」
「……えぅ。でもお昼寝いっぱいしたから、あんまり眠くないかも……」
「…………まぁ確かに」
雪音の睡眠は長くても八時間程度だが、今日は十二時間以上は寝ていた。病気だから体力も消耗しているだろうが、眠くないといわれれば解らないでもない。
「でもダーメ。今日は徹底的に休ませるぞ。お前には充分な休息が必要だ!」
「え、えっと……もう充分なんだけどなー……?」
「もう一声」
「ぅぅ……お兄ちゃんがそう言うなら……が、がんばる」
「ん。がんばれ」
聞き分けのいい子にはご褒美を。
手を伸ばして頭を撫でてやると、雪音が気持ち良さそうに目を細めた。
「んう~♪」
「よしよし。それじゃ、電気消すぞ」
「は~い」
文明の利器でスイッチオフ。
やれやれと目を閉じようとした一護は、しかし手に触れる感触へ気がつく。
「……雪音?」
「えへへ……」
それは温かく、小さな手のひら。
引っ込めようとした一護の手を、雪音がそっと掴んだのだ。黒々とした闇の中、照れくさそうにはにかむ妹の姿が容易に思い浮かぶ。
「どうした?」
「もうちょっと……このままがいいな……」
「……一応訊こうか。どうしてだ?」
「お兄ちゃんの手、気持ち良いから……こうしてくれてると、安心して早く眠れそう……」
「…………」
嘘――ではないだろう。
事実、雪音の声は既に眠気を帯びていた。気だるげな、だがまどろみの心地よさを感じさせる蕩けた声音。一護の手からα波、ないしは催眠術、もしくは件の万能成分“お兄ちゃん分”が出ていないと納得出来ない即効性である。
「ん……ぅ……えへー……♪」
「……………………」
手の甲へ感じるくすぐったさは、恐らく頬ずりだろう。
昼間の一件で甘え根性極まれり――と思った一護だったが、まだ認識が甘かった。甘すぎだった。甘々だった。
(……俺曰く、“雪音は幼児退行してからが本物である”、と)
わけがわからないと思うが、勘弁して欲しい。
この甘ったるい空気の中にいれば、誰だって情緒不安定になるはずだ。もしならない奴がいたとしたら、それは同性愛者に違いない(失礼。
(……しばらく寝れそうにないな、これ)
疲れているんだけれども、まぁ仕方あるまい。
可愛い妹が明日から元気になってくれるのなら、この程度の辱めは甘んじて受け止めよう――。
己が明日風邪を引くこともしらず、なんとも暢気な一護であった。




