中二病でも名が欲しい! 後編
で、結局どうなったかというと。
「どうも~! “蒼き伝説”、神楽葵でーっす!」
そういうことになった。
可愛い感じという希望にはまるっきり応えておらず、それどころかサッカー漫画的な何かの二つ名だったが、一応は満足してくれたらしい。TVだったら下にテロップが出そうな程度には喜ぶ葵である。
本当は“蒼白き伝説”とオチを付けたかったが一護は断念していた。本気の葵を向こうに回しては、鷹みたいに逃げ切れる自信がない。
「……で、次は誰にすんだ?」
「んーと……それじゃ、みーにしよう! 時計回りで!」
「逆だ逆。風見じゃ反時計回りだろ」
「じゃあそれで!」
だめだ。テンションあげすぎで周りが見えてない。
まぁ細かくツッコミ入れる部分でもないし、とりあえず放っておこう――差し当たり、今は次のターゲットに集中すべきだ。
「んに~?」
八重葉風見。
母親譲りのダイナマイトバディ(巻き舌)を持つものの、それを失って余りある幼馴染のぽんこつ担当。ステータスは体力E 筋力E 敏捷E 学力E――ただし幸運A+++。
数々の伝説を打ち立てた彼女のキャッチコピーといえば、勿論――。
「“大食い女王”!」
「“胃袋ブラックホール”」
「“人間ポリバケツ”」
「“食べ盛り”」
この辺に終始する。
「ひどい~!」
本人は大層不満そうだが、仕方なかった。
風見といえば食欲、大食い、バイキング。巷のファミレスで暴食女帝と呼ばれているのは伊達ではない。二つ名もうあるじゃん。
「わたしそんなに食べないよ~? お利口さんだし~」
「大きく出たね、みー……じゃ、問題。2+4×3÷2は?」
「紙に書いて~」
「少しは暗算する努力しろよ……」
超簡単な数字だろうが。
「(さらさらさら)はい、風見ちゃん」
「ありがと~、雪音ちゃん~。えっとね~、えっとね~……ここがこうで、こうなって……出来た! きゅ~!」
「8だよ!」
「(゜д゜)?」
「ムカつく反応だなおい」
「え~? だって2+4で6になって、3かけて18でしょ~? それを半分にすれば9だよ~?(ドヤァ」
「ドヤ顔でバカの回答された!?」
もうだめだコイツ。掛け算割り算の優先順位忘れてやがる……。
「はい。“バカ”」
「あ、葵ちゃん!? ストレートすぎるよ!」
うん雪音。それフォローのようで全然フォローしてないからな?
「じゃ“アホ”で」
「そ、それもちょっと……」
「関西の方だと褒め言葉だょ?」
「ここ関西ちゃうもん……」
何故に関西弁。可愛いから全面的に許すけど。
「でもまぁ諦めろ風見。どう頑張ってもお前はそういう方向だ」
「え~~~~~~~」
「テメェだけ解ってねぇんだよな……“KY”とかどうだよ?」
「KY――Kooking Yeah?」
「か、風見ちゃん……お料理はKじゃなくてCだよ……?」
せんせー! 風見のボケにフォロー係の雪音が泣きそうでーす!
「混沌としてきたな。このままじゃ埒があかないし、今まで出た中の多数決で決めるか?」
「え~~~~~~~~~~~! やだ~、悪口ばっかだもん~!」
「そうでもないだろ。えーっと確か“大食い女王”、“胃袋ブラックホール”に“ポリバケツ”……あとは“食べ盛り”、“バカ”、“アホ”、“KY”――すまん。確かにロクなのがないな」
「でしょ~?」
「やれやれ……しょーがないなぁ、みーは。あたしがとっておきを出してあげるょ」
そんな風見に同情してか、自信満々で葵が頷く。
鼻歌交じりで殴り書き、口でドラムロールを鳴らしつつ頭上へ掲げた。出張鑑定団みたいなノリである。
「じゃじゃじゃん! “ピンクの悪魔”~!」
ただし、それは紛れもなく地雷だった。
言うまでもなく。
あえて言うまでもなく。
カー○ィである。
なんでも吸い込むデデデの大敵、つまりはただのパクリだった。
「……お前な……」
確かに共通点はある。ピンク色(髪)とか、丸みを帯びたフォルムとか、某掃除機を軽く凌駕する吸引力とか。
ある意味では、先ほどよりもよっぽど酷いネーミング。いくらなんでも風見が承知するはずが――。
「あ、ちょっといいかも~」
「「いいのかよ!?」」
一護と鷹の声がシンクロした。
予想外デス。あんなお父さんが欲しい(現実逃避中。
「だってピンクって可愛いし~」
「そんな理由か……」
「ほーら、みーだってノリノリっしょ?」
いや最終的には本人の自由のわけだが――ピンクはともかく“悪魔”ってモロ悪口じゃないのか。なんかもうこれで手を打とうとしている感がハンパないぞ。
「じゃ、みーはけってーい。次は兄貴ね!」
「はいはい……」
もう突っ込むのも疲れた。自分のターンになると余計に疲れそうだし、風見はもう“ピンクの悪魔”でいいや。うん、節約節約。悪魔さいこー(棒読み。
「それじゃシンキングタイムに――」
「はい! “ミスターパーフェクト”!」
「はやっ!?」
そして重っ!?
「いや、あのな雪音……俺にそんな大それた称号は似合わないから」
「そ、そう? お兄ちゃんなんでも出来るし、全然合ってると思うけど……」
「買いかぶりだ。お前と違って俺のは器用貧乏が精々だっての」
「自信あったんだけどなぁ……」
「いきすぎだ。反省しなさい」
「……む~」
納得いかないのか、僅かに膨れる雪音。
高く見積もってくれるのはもちろん嬉しいが、“パーフェクト”の称号なんて相応しいのはお前くらいだからな?
とはいえ、根が素直でいい子の雪音だ。これで次からはまともな案を――。
「じゃあ、“ナンバーワンでオンリーワン”」
「反省が見られない!?」
「こ、これもダメなの? ……えっと、“輝く貌”は?」
「ディルムッド!?」
「……“光の御子”」
「ランサー好きだな!?」
「じゃ、じゃあ“太陽神”、とか?」
「アポローン!」
「……おい一護、ちったぁ落ち着け」
「はぐっ!?」
呆れた声と共に後頭部をはたかれる。
手加減はしたのだろうが、それでも一護を畳へ頭突きさせるのに充分な衝撃だった。
「お、お兄ちゃん!? 大丈夫!?」
「痛い。シンプルにただ痛い」
「自業自得だ。いつまで面白コントやってんだよ。アホ」
「……俺は突っ込んでただけだろ」
「何言ってんだ。お前、途中からノリノリだっただろ」
「ぐ」
確かにちょっと楽しくなってきてたけど! ちょっとだ! ちょっとだけだ!
「う~ん。でも雪音ちゃん! って感じだよねぇ~」
「ここまで行くと、完全に崇拝だょね。宗教だ。兄貴教、兄貴教」
「人を勝手に神にするな」
「太陽神とか呼ばれてたじゃねぇか」
「……ゆ~き~ね~」
「ご、ごめんなさい……」
「こうして教祖様に八つ当たりする神様であった」
「あ~お~い~!」
くそう、予想以上にいじられてる。
まさか一番の安牌だと思った雪音が発生源とは……完全に見誤っていた。
「とりあえず、ゆっき以外で案ある人ー?」
「ナチュラルに俺の妹をハブるな。可哀想だろ」
「お兄ちゃん……(じーん」
「この期に及んでっか! 兄貴も相当だょ!」
「いや、そう言われても……」
よく考えてみて欲しい。
全員で遊んでいて参加出来ないなんて、寂し過ぎるだろ。少なくとも一護なら絶対嫌だし、言っている葵にしても間違いなく暴れだすレベルである。
「どうする~葵ちゃ~ん。処す? 処す?」
「処す!」
「浮世絵風に迫ってくるんじゃない。どうやってんだそれ」
一発芸の多い奴だな。
「落ち着け葵。一護の猫っかわいがりは昔っからだろ。今更騒ぐんじゃねぇよ」
「そりゃそーだけどさー!」
「つーわけで、俺ぁこれがいいと思う。“シスコン”」
「「それだ(~)!!!」」
「ちょっと待てー!」
葵と風見はハモったが、一護としては不名誉な呼ばれ方だった。
シスコン――シスター・コンプレックス。
女姉妹に対して強い愛着・執着を持つ状態のこと。同性同士の場合は勿論、異性の兄弟姉妹間でも使われる、コンプレックスの一種。
「俺がシスコンなわけないだろ!?」
「そんなことないよ~?」
「周知の事実だょね。むしろ羞恥」
「諦めな。否定出来ねぇよ」
「なん……だと……?」
驚愕の事実。一護としては公正明大、妹にも厳しく接してきたつもりだったのだが、幼馴染には一切合財伝わっていなかったようだ。
「ゆ、雪音。お前はどう思う?」
「あはは。お兄ちゃんはシスコンじゃないよ」
これで雪音にまで肯定されたら死ねる――そう思い問いかけた一護だったが、可愛い妹は見事に真実を言い表してくれた。(※一護視点)
「ほら見ろ。当の本人が言ってるんだぞ。俺はシスコンじゃない(なでなで」
「えへへ~♪」
「言ってる側から甘やかしてるょ……ゆっき。ゆっきのシスコンってちなみにどんな?」
「ふぇ? えっと、雪希ちゃんとか……火憐ちゃんのお兄さんみたいな……」
「……誰だそりゃ?」
「深く触れるな」
消されるぞ。
「と・に・か・く! 雪音が反対している以上、その二つ名は無効! 決定!」
「え~~~~~~~~。一護、ワガママ~~~~~~~~」
「最初のルール通りだろ!」
「おい葵。なんとかなんねぇか」
「任せてよ」
だが往生際の悪いことに、幼馴染達は諦めなかった。
爛々と目を輝かせたトラブルメーカーが、うそ臭い笑顔ですすすと近づいてくる。
「……なんだよ」
「まぁまぁ、そんな警戒しないでょ。傷つくなぁ。あ、ゆっき。ちょっとこれ持ってみ?」
「ふぇ?」
「兄貴はこっち。ほらほら並んで」
「…………」
渋々だが葵の誘導に一護は従った。
ここさえ切り抜ければ、不名誉な呼ばれ方は払拭される――そう考えての行動だったのだが。
「ほら。お揃いっぽくない?」
「……………………えへへ♪」
「騙されるな雪音~!」
結果から言うと大失敗。
“シスコン”――伊達一護。
“ブラコン”――伊達雪音。
そう書かれたホワイトボードを客観的に見た雪音は、えらくあっさり陥落したのだった。
【命名ゲーム:最終結果発表】
・“蒼き伝説”――神楽葵。
・“ピンクの悪魔”――八重葉風見。
・“怪物”――月都鷹。
・“ブラコン”――伊達雪音。
・“シスコン”――伊達一護。
…………
……………………
………………………………納得いかねええええええええ!!!!!




