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やはり俺達の青春旅行は間違っている その11 -了-

これにて、旅行編は閉幕。色々と消化不良な部分ありますが、やり切れました。

 “祭りの後の静けさ”。

 言いえて妙なことわざだろう。極限まで騒がしく、熱気に満ち溢れ、限界まで凝縮したような楽しさの後――。


「……あっちゅー間に終わったな」


 物悲しいのは仕方ない。

 例えそれが普通だったとしても、日常なのだとしても、そう感じてしまうのが正常な人間の思考だろう。


「気が早ぇな、一護。こっちはまだ運転(しごと)中だってのによ」

「ああ、悪い悪い」


 横で運転する鷹が笑った。

 とっぷり暮れた深夜、幼馴染一行を乗せた車は家路を絶賛進行中。行きの時より気持ち緩やかな速度で人の消えた車道を走っている。


「でもま、確かに終わっちまった感はあるな。しかもハンパねぇレベルで」

「ああ。あいつらもおねむだし」


 ルームミラーで後部座席を見ると、三人娘は仲良く夢へ旅立っていた。


 体力のない他二人はともかく、葵までダウンしているという現状が本日のはしゃぎ具合を端的に表している。熟睡というのも憚られる爆睡、前での会話に反応することもなく、可愛い妹分達は安らかな世界にいた。


「そういや鷹。いつ帰るんだ? 東京」

「あん? 帰って一眠りして……まー夜にゃ出るつもりだぜ?」

「そうか……それじゃ休んで起きて、最後にみんなで飯でも食うか」

「お。雪音ちゃんの手料理か?」

「おう。とびきりのやつを頼んでやる」

「いいねぇ。テンションあがるぜ」

「雪音にはちょっと負担かけちゃうけどな……俺も食いたい。旅館の飯も美味かったけど、雪音の料理のが正直好みだったし」

「そりゃそうだろうよ。雪音ちゃん、お前好みの味付けしかしないだろーが」

「……そんなことないだろ」

「あるんだよ」


 一護の反駁に鷹がため息をついた。


「まだ赤樹の時代だけどな。お前の好みと違う味付けになっちゃったから――って料理を結構、貰ってたんだよ。新メニューとか相当練習してたみたいだぜ?」

「そう……なのか?」

「そうだよ。ま、高ぇ旅館の料理よか上ってこたぁ、その甲斐はあったみてぇだな?」

「……そうだな」


 素直に認める。

 鷹に語ったのは紛れもなく本心だ。メキメキと腕を上げ続ける雪音の料理に、一護の胃袋はとっくに捕獲されている。


「てか鷹。それ言っていいのか?」

「あ? どういう意味だよ?」

「いや、俺が知らないってことは……多分、雪音は俺に知らせたくなかったってことじゃないのか? 努力とかあんまり見せたくないって思ってる節があるし」

「……あー。まー……そう言われりゃそうか。つっても雪音ちゃんが努力してるのは誰が見てもバレバレだし、今更じゃね?」

「いや、そこは見て見ぬフリをしてやるのが優しさというか、デリカシーというか――」

「……そうですよ。鷹さんにはデリカシーが足りません」

「「っ」」


 聞こえてきた声に動揺し、車が一瞬だけ不安定に振れた。慌ててルームミラーを見やると、いつの間にか眠り姫の一人が目を開けている。


「……雪音。お前、いつ?」


 そう。

 噂をされていた当事者、雪音がいつの間にか起きていたのだ。


「えっと……ついさっきだよ。お兄ちゃんに呼ばれた気がして……」

「……まぁ確かに雪音って何回か言ったけど」


 それで起きるってどうなんだ。感度センサー高過ぎじゃありませんかね。


「……お兄ちゃんには知られたくなかったのに」

「あー……」

「知られたくなかったのに」

「あーっと……」

「知られたくなかったんです」

「……言い訳は聞いてもらえるモンか?」

「聞きません(ぷいっ」

「……一護。頼む、助けろ」


 うろたえる鷹というのは新鮮だった。

 泰然自若にして豪放磊落、自信の塊である世界最強の男が雪音の機嫌を損ない、本気で動揺している。


「これ以上ないくらい自業自得だが、安心しろ鷹。別に雪音は怒ってないぞ?」

「あ?」

「……もう。簡単にバラしたらダメだよ、お兄ちゃん」


 ちょっとむくれた表情の雪音は、抗議するよう一護の首に腕を回した。助手席の座席越しではあるが、後ろから抱きつかれた形である。


「知られたくなかったのは本当だけど……今回だけは許してあげます。この旅行で、いっぱいお世話になっちゃったから」

「……そりゃ助かる」

「でもデリカシーが足りないのは本当ですからね? 乙女心を察してください」

「…………乙女心、ねぇ」

「雪音。それは難易度高過ぎる。俺も無理だ」


 流石に擁護した。本気ではないにしても、そんな複雑怪奇な代物を理解しろとは随分な無茶である。


「で、雪音。そろそろ離れないか?」

「……やだ。もうちょっとこのままがいい」

「…………また唐突に甘え症になりおって」


 ため息をついて、しかし一護は雪音の為すがままに任せた。


 そもそも車の中じゃ逃げられないし、先ほどまで知らなかった料理の件もある――些か遅過ぎたきらいはあるが、このくらいのご褒美はあって然るべきだろう。


「♪」

「……なに笑ってんだよ、鷹」

「あー、いや。いつも通りだと思ってよ。俺ららしいじゃねぇか」


 にやりと笑う悪友に、一護もまた苦笑が漏れた。


 場所が変わっても。

 あれから時間が経っても。

 くだらないことに一喜一憂して、つまらないことに騒いで、疲れ果てるまで遊んで――。


(……確かに、やってることは同じだよなぁ)


 変わりようがないほどに、同じサイクルである。

 それがいいか悪いかはともかく、これが俺達の完成形ということなのだろう。


 もうちょっと何かがあれば、違った姿になっていたのかもしれないが――これはこれで最高に最強に楽しいから始末に終えない。


 ……やはり。

 俺達の青春旅行は間違っている。

今回の話は誰とも結ばれなかった未来です。次回から本来の時間軸(学園時代)に戻りますので、よろしくお願いします。拝読感謝いたします。

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