やはり俺達の青春旅行は間違っている その8
――しかし、如何に結託しようと覆らないものはあるわけで。
「ねーねー。あーにきー。実際どうなのさー?」
笑えるほどあっさりと男連合は壊滅に追い込まれていた。
全員がふやけるほど温泉へ入り、布団へくるまってから暫し。
予想通りに始まった“恋バナ”は、しかし予想を遙かに超えた進撃速度で男連合を突き崩している。
「………………………………もう知らん。寝る」
鷹は既に東京での出来事を根掘り葉掘り聞かれ、それによる心無いセリフで大撃沈。
青い悪魔から次なるターゲットに選ばれた一護は、呆れながら同じ言葉を繰り返した。
「だから、何もねぇって言ってんだろうが」
「それはつまり、何もないがあると?」
「お前はどこの風香だ」
あおいと!は始まらんぞ。
「いやーだってさぁ、あんだけ色々連れ回されて? 色々遊びまくって? 色々誘惑されて? 何もないとか信じられないよねー?」
「……(じ~」
「一護、ゲロっちゃいなYO~」
「連れ回されてない遊びまくってない誘惑されてない!」
「ちなみにそれぞれBBQ、飲み会、合コンと訳すょ」
「ぐ……」
確かに、参加するにはしたが――それ以上は神に誓って何もない。
そもそも幼馴染で過ごす刺激に慣れた一護が、普通のオリエンテーション如きで満足できるはずもなかった。
「最初は付き合いで行っていたけど、二ヶ月もしたら行かなくなったぞ。てか、お前も一緒になって参加してただろうが」
「参加したから言ってるんだょ。兄貴を落とそうとしてた子、毎回いたし。全部で二十人以上は固いかにゃー。しかもガチ肉食系。流石に墜ちたっしょ?」
「落ちねぇよ!」
まったく失礼な奴である。
そもそも葵や雪音の誘惑を何年も耐えてきた一護が、並大抵の女子のアタックで揺らぐはずがないだろう!
「ゆっき、ホント?」
「何で雪音に聞くんだよ」
「え? だって一番信用出来るじゃん」
「俺自身よりも!?」
「愚問だよ、一護~。ぐもぐも」
まさか風見まで――なんて信頼感だ。流石は俺の妹(負け惜しみ。
「うん……多分だけどね。電話とかあんまりしてなかったし、お出かけも少ないから」
しかし“流石”といえば、雪音の答えこそ流石だった。
本当のことだから当たり前なのだが、一護の求める答えを伝えてくれた妹には褒美があって然るべきだろう。
「その通り。よく言った、雪音。よしよし」
「ふに~……♪」
「ちぇー、つっまんないのー。やり直しを要求する!」
「そんなモンはねぇ」
しかしこれはチャンスだった。
ここまで固い結束を誇っていた女性陣が、葵の暴走で綻んでいる。今が突き崩すチャンス、イメージ映像的にはホラ貝を吹きながら全軍突撃だ!
「てか、お前こそどうなんだよ」
「へ? あたし?」
「そうだ。一応……っていうと失礼だけど、有名人だろ。お前」
きょとんとした顔の葵だが、有名人というのは紛れもない事実である。
あらゆるイベントでリーダーシップを発揮し、持ち前のお祭り体質で大成功させたハイパー新入生。しかもルックスは上々、ついでに男顔負けの運動神経まで持っているともなれば――それが人気者にならないはずがない。
「それこそ色々あったんじゃないのか?」
「いやー、それがさー。どいつもこいつも弱っちくて歯応えないの。つーかチャらいの。ストライクどころかボールですら中々いないの!」
「理想高いの~?」
「そんなことないょ。背が高くてスラっとしてて、顔がカッコよくて、バカじゃない程度に頭が良くて、雰囲気が優しくって――うん、まぁそんなトコ?」
「そんなことないとかよく言えるなお前……」
トッピング全載せじゃねぇか。絶滅危惧種どころか幻想種だぞ。
「……(きゅ」
「ん? どうした雪音? 急に腕掴んで」
「(ふるふる」
「んん???」
珍しく雪音の感情が読み取れなかった。とはいえ不安そうな顔をしているのだけは解ったので、追加でなでなでしておこう。
「つかさー。モテるってなら、どう考えてもゆっきっしょ。入学したてでも有名人だし。赤樹の時と全然変わんないょ」
「そ、そんなことないよ……私、あんまり遊びに行ったりしないし……」
「兄貴が行かないからだょ! ゆっきが誘われまくってるの知ってんだから!」
「雪音の可愛さならその程度は当然だろうが、そういう投げやりなブーメランはやめろ」
どんな投げ方でも俺に返ってくるとか、手塚ゾーンもビックリだ。
「そういや、風見は? 芸能界ってそういうの多そうだけど?」
「え~? そんなことないよ~? ご飯はよく連れてってもらってるけど~」
「みー、みー。それ狙われてる。めっちゃ狙われてる」
「マジか」
驚き過ぎて言葉がない。
人間ブラックホールを飯に誘うとか、正気かそいつら。
「でもさ~、全然お腹いっぱい食べさせてくれないんだよー? 美味しいところ行ってもすぐ済んじゃうしさ~」
「そりゃそうだろ……」
「ちなみにどんくらい食べたん?」
「え~と……なんか入り口に星が三つついてたレストランでね――」
瞬間、一護は確かにその声を聞いた。
“風見のグルメレポート、はっじまっるよー!”
誰も何も嬉しくないタイトルコール。
この後、延々三十分に渡って語り続けた風見だったが、ここから先は正直、聞かない方が良かったと記しておく。
教訓、夜遅くに飯の話はやめよう。マジで腹減るからな。
これにて1日目終了です。もうちょっとだけ続くのぢゃ




