やはり俺達の青春旅行は間違っている その4
名古屋城。
日本三大名城とされる重要文化財。かの織田信長生誕に関わる地ともされ、黄金の鯱が有名な観光スポット――その最上階、天守閣展望室に。
「じん~せい~……ごじゅう~ねん~……」
青馬鹿がいた。
「お~」
手には扇子、歌声は気持ち渋め、体運びは見よう見真似の敦盛。
ノリノリでテンションMAXの葵は観光客の目も気にせず、実に気持ち良さそうに自分の世界へ入っていた。
「……あいつ、凄いな」
「クソ度胸っつーか、考えなしっつーか……」
「あ、あはは……」
それを近くで見るほどの度量はない。
風見は完全に観客と化していたが、他の幼馴染は遠くの欄干に背を預けていた。流石に高い場所だけあって風が程よく気持ちいい。
「しっかし男の世界は理解出来ねぇとか言ってたくせに、葵が一番楽しんでねぇか?」
「葵だからな。でもみんな楽しんだだろ?」
「うん♪」
「ま、悪くはねぇな……土産物屋で吹いちまったけど」
「アレはなぁ。確かに強烈だった」
先ほどの売店を思い出す。
それこそ葵が扇子を買った場所なのだが、売られている土産物が某BASARAシリーズに便乗したものばかり。食べ物は勿論、しゃもじやトートバッグ、漆器からそろばんに至るまでの戦国乱舞。
「でも買ってた人もいたよ?」
「ああ、女の子が何人かわいわいしながら買ってたなぁ……随分と声が大きいっけ」
「うん。凄い楽しそうだったね」
「普通、無双系のゲームって男の方が楽しむモンじゃねぇのか?」
「アレは特別枠らしいな。前に風見が言ってた」
「あん? そっち系かよ?」
一護のセリフに鷹が軽く苦笑した。
風見の母親は夏冬の一大イベントに出展側で参加する女傑である(壁?とか言うらしい)。手伝いをしているぽんこつ娘が二次元的なサムシングに詳しくなるのも無理からぬところだろう。
「前にゲーム自体はやったことあるぞ。意外と楽しかった」
「へぇ。今度やってみっかな」
「いやぁお前の肌には合わなそうだけど――」
「夢幻の如く也いいいいいいいいい!!!」
唐突に敦盛が襲ってきた!
「危ねぇだろ、バカ」
だが鉄壁に止められた!
「……ぬぅ。流石は鷹……」
アイアンクロー状態で掴まれ、葵が悔しそうに漏らす。先ほどの舞が尾を引きずっているのか、まだ色々とおかしかった。
「お前は何がしたいんだ」
「いやほら、サプライズだょサプライズ。超時空ショッキング的な何か。折角旅行先なんだし、いつもみたいにダベってるだけじゃね?」
「本音は?」
「あたしを無視しすぎだょ! さっきなんて、我に返ったら知らない外人から拍手されたんだょ!?」
「そりゃそうだろ全力バカ」
「全力バカ!? それどんなバカなの!?」
「全身全霊、魂の底からバカって意味だ」
「この完璧なあたしのどこが!?」
「あ、あの……葵ちゃん、とりあえず落ち着いて……ね?」
「落ち着いてるょ!?」
「落ち着いてる奴はアイアンクロー状態でわめきゃしねーよ」
「放せ~!!!」
「今更かい」
暴れだした葵を面倒くさそうに鷹がぺいっと投げ捨てると、無駄にスタイリッシュな動きで着地した。しかもドヤ顔。超ウゼェ。
「風見。お前も見てたんなら止めろよ」
「え~。無理だよ~。めんどくさいし~」
「ちったぁ本音隠せ」
「みーには言っても無駄だょ」
「お前が原因だろうが……ったく。そろそろ次行くか?」
「え~~~! まだシャチホコみてない!」
「いやこっから見れないだろ」
角度的に。忘れてるかもしれないけど、最上階の展望室だぞここ。
「外から見上げるしかないよ? 葵ちゃん」
「やだ! あたしは近くから見たいんだょ! こうなったらもう……昇☆る!」
「鷹」
「うらっ」
「へぶっ!?」
怪しく瞳を光らせた葵を阿吽の呼吸で沈める(物理)。
日本最強の拳を脳天に喰らい、流石の馬鹿も目を渦巻状にして倒れた。
「鷹ちゃん、やりすぎじゃない~?」
「ンな強くやってねぇよ。葵なら大丈夫だろ」
「そうそう。こいつはこんくらいやんなきゃダメだ」
あえてキッパリ断言し、撤収開始。
葵が目を覚ます前に、もっと言えばまたバカなことを言い出す前に――さっさと次の目的地へ行くとしよう。




