第八話:新しいカリカリは、革命である
革命は、いつも静かに始まる。
音を立てるのは、だいたい後からだ。
その日、俺は異変を察知した。
皿の中身が、違ったからだ。
見慣れた色、見慣れた形、見慣れた匂い。
それらが、わずかにズレている。
世界というのは、ほんの少し変わるだけで、不穏になる。
俺は皿の前で座り、動かなかった。
これは拒否ではない。
審議である。
人間は背後で様子を見ている。
あの沈黙は、期待と不安が混ざった音だ。
彼女は今、自分が歴史の転換点に立っていることを、薄々理解している。
俺は一粒、前脚で弾いた。
床に転がるカリカリ。
軽い音。
重みが足りない。
革命とは、常に理念の違いから始まる。
旧体制のカリカリは、粒が均一で、味も安定していた。だが安定とは、停滞でもある。人間はそれを「健康」を理由に変えたらしい。
よくある話だ。支配者はいつも、民のためだと言う。
俺は鼻先を近付け、匂いを嗅ぐ。
悪くない。
だが、良すぎもしない。
俺は考える。
ここで食べれば、この革命は成功として記録される。
食べなければ、再交渉が始まる。
俺はゆっくりと一口食べた。
噛む。
沈黙。
人間の呼吸が、少し止まる。
……なるほど。
味は、未来寄りだった。
今すぐには理解されないが、数年後には評価されるタイプ。噛めば噛むほど、思想が広がる。
俺は二口目を食べた。
三口目。
四口目。
人間が、小さく息を吐く。
「よかった」
違う。
よくしたのだ。
革命は、成功したように見えた。
だが俺は、完全には屈していない。
途中で食べるのをやめ、少しだけ残す。
これは抵抗の記録だ。
次の革命が、より慎重に行われるようにするための布石。
人間は皿を片付けながら、俺を見る。
「気に入った?」
俺は答えない。
革命の評価は、時間が決める。
その後、俺は日向で眠った。
新しいカリカリが胃の中で、静かに議論を続けている。
世界征服とは、
すべてを拒否することでも、
すべてを受け入れることでもない。
変化を管理することだ。
革命は、成功した。
だが次は、もっと大きな改革が来るだろう。
例えば――
皿の位置、とか。
俺は尻尾を一度だけ動かし、目を閉じた。
世界は、今日も少しだけ更新された。?




