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世界征服を企むニャンコ  作者: 続けて 次郎


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8/13

第八話:新しいカリカリは、革命である

 革命は、いつも静かに始まる。

 音を立てるのは、だいたい後からだ。


 その日、俺は異変を察知した。

 皿の中身が、違ったからだ。


 見慣れた色、見慣れた形、見慣れた匂い。

 それらが、わずかにズレている。

 世界というのは、ほんの少し変わるだけで、不穏になる。


 俺は皿の前で座り、動かなかった。

 これは拒否ではない。

 審議である。


 人間は背後で様子を見ている。

 あの沈黙は、期待と不安が混ざった音だ。

 彼女は今、自分が歴史の転換点に立っていることを、薄々理解している。


 俺は一粒、前脚で弾いた。

 床に転がるカリカリ。

 軽い音。

 重みが足りない。


 革命とは、常に理念の違いから始まる。

 旧体制のカリカリは、粒が均一で、味も安定していた。だが安定とは、停滞でもある。人間はそれを「健康」を理由に変えたらしい。

 よくある話だ。支配者はいつも、民のためだと言う。


 俺は鼻先を近付け、匂いを嗅ぐ。

 悪くない。

 だが、良すぎもしない。


 俺は考える。

 ここで食べれば、この革命は成功として記録される。

 食べなければ、再交渉が始まる。


 俺はゆっくりと一口食べた。

 噛む。

 沈黙。

 人間の呼吸が、少し止まる。


 ……なるほど。


 味は、未来寄りだった。

 今すぐには理解されないが、数年後には評価されるタイプ。噛めば噛むほど、思想が広がる。


 俺は二口目を食べた。

 三口目。

 四口目。


 人間が、小さく息を吐く。


「よかった」


 違う。

 よくしたのだ。


 革命は、成功したように見えた。

 だが俺は、完全には屈していない。


 途中で食べるのをやめ、少しだけ残す。

 これは抵抗の記録だ。

 次の革命が、より慎重に行われるようにするための布石。


 人間は皿を片付けながら、俺を見る。


「気に入った?」


 俺は答えない。

 革命の評価は、時間が決める。


 その後、俺は日向で眠った。

 新しいカリカリが胃の中で、静かに議論を続けている。


 世界征服とは、

 すべてを拒否することでも、

 すべてを受け入れることでもない。


 変化を管理することだ。


 革命は、成功した。

 だが次は、もっと大きな改革が来るだろう。


 例えば――

 皿の位置、とか。


 俺は尻尾を一度だけ動かし、目を閉じた。

 世界は、今日も少しだけ更新された。?

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