表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界征服を企むニャンコ  作者: 続けて 次郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/13

第七話:雷は、天からの警告である

 空が唸り始めた時、俺はすでに理解していた。

 今日は、上位存在が機嫌を損ねている。


 昼過ぎまで澄んでいた空は、いつの間にか分厚い雲で塞がれていた。雲は雲でも、あれはただの水蒸気ではない。怒りだ。溜め込まれた不満が、灰色に凝縮されたものだ。


 俺は窓辺から離れ、部屋の中央で座った。

 高所は危険だ。雷は、目立つものから裁く。


 最初の音は、遠かった。

 ゴロ……。


 まるで天が、咳払いをしているみたいだった。

 俺は耳を伏せる。情報収集だ。恐れてなどいない。


 だが次の瞬間、世界が割れた。


 ドンッ。


 音が、床を叩いた。

 いや、違う。空そのものが、落ちてきた。


 俺は一瞬でソファの下へ滑り込んだ。

 反射だ。訓練の成果である。


 雷というのは理不尽だ。

 理由もなく鳴り、説明もなく去る。人間の政治に似ている。つまり、近付いてはいけないタイプの権力だ。


 外は嵐になっていた。

 雨が窓を叩き、風が家を揺らす。世界が洗い流されている。だが俺は知っている。こういう時、洗われるのは弱いものだけだ。


 再び、雷。


 ドォン。


 今度は近い。

 近すぎる。


 俺は身体を低くし、尻尾を腹の下に巻き込んだ。

 これは降伏ではない。姿勢を整えているだけだ。


 飼い主が部屋に来る。


「大丈夫だよ」


 そう言って、俺の近くにしゃがむ。

 彼女の声は小さく、一定だった。嵐の中で聞くと、奇妙に現実味がある。


 俺は考える。

 雷は、誰に向けられた警告なのか。


 俺か。

 この家か。

 それとも、世界か。


 答えはたぶん、全部だ。


 雷は、人間にも猫にも等しく落ちる。

 それが、あの音の正体だ。

 上下関係を無視した、純粋な力の誇示。


 だが、雷は長くは続かない。

 どんな権力も、永遠には轟けない。


 しばらくすると、音は遠ざかり、雨も弱まった。

 世界が、また形を取り戻す。


 俺はソファの下から出て、伸びをした。

 背骨が一つずつ、現実に戻ってくる。


 窓の外には、水を含んだ街。

 濡れた道路は黒く光り、まるで新しい地図みたいだった。


 嵐の後は、支配が進みやすい。

 皆が疲れ、警戒を解くからだ。


 俺はカーテンの隙間から外を見た。

 雷は去った。

 だが、警告は残った。


 世界征服とは、

 力に逆らうことではない。

 力が通り過ぎるのを、正しい場所で待つことだ。


 俺は静かに座り、次の晴れ間を待つ。

 その間に、世界はまた少しだけ、俺のものになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ