ある行商人の手記
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今回は第三者視点のお話です(^^)
その日、俺は上機嫌だった。
首都での商売がことごとくうまくいき、持ち込んだ商品が完売した。
こんなことは初めてだ。
空になった荷車を清々しい気分で眺めながら帰路についた。
今思えばなんであんな目にあったのかとも嘆いたが
結果的にあの日の俺は運が良かったんだ。神に感謝しないとな。
首都を出てから丁度1週間。ミロットと首都の中間地点辺り。
いつもなら多少時間は早くても、無茶はせずに広場に入るのだが
あの時はいつもと違い、荷車は軽く気分も高揚していた。
もう少し歩を進めて次の広場まで行ってしまおう。
俺は広場を1つ素通りし、歩き続けた。
その判断が悲劇を生むとも知らずに。
しばらく歩いていると街道脇の茂みがガサガサと音を立てた。
俺は警戒態勢に入った。
こう言っちゃなんだが、俺はある程度腕に覚えがある上に
護身用に魔道具も一通りは揃えてある。
例え相手が複数でもそこらの野盗や野生動物なんぞには負けない自信があった。
街道周辺には魔獣除けの結界が張ってあるはずだから
音を立てて近付いてくるのは大抵の場合は野生動物だ。
今回もきっとウサギか何かだろうとタカを括っていた。
さあ来い。しっかり仕留めて今晩のメシにしてやる。
そんな風に軽く身構えていた俺の前にそいつは姿を現した。
動物などではない、完全な人型。
額から突き出している2本のツノ。
黒い髪に生気のない虚ろな黒い瞳。
半開きの口から覗くのは人間のそれより少し長い犬歯。
見上げるほど大柄な体躯。
そしてその手にしっかりと握られている少しカーブのかかった細身の剣。
鬼だ。
直接見るのは初めてだったが、話に聞いていた特徴と一致する。
ウサギだろうなどとタカを括っていた自分を呪ってやりたい。
思わず一歩後退ってしまった。
それが失敗だった。
鬼は自身の目に映る動くものに、見境なく斬りかかる。
だからもし遭遇してしまったら、微動だにしてはいけない。
知っていたはずなのに、咄嗟に逃げてしまったのだ。
しまったと思うも時すでに遅し。鬼は勢いよく斬りかかってきた。
俺はギリギリで躱したが、バランスを崩し尻もちをついてしまった。
視界に入ったのは切り落とされた荷車の持ち手。
嘘だろ。
あの部分は金属でできてるんだぞ。
それがあんなにスッパリと・・・。
その剣の切れ味とパワーを前に、俺はすっかり腰を抜かしてしまった。
その時点で大人しくしておけばよかったものを
俺は混乱していたせいもあり、もがいてしまった。
それを見て、俺を仕留め損ねた鬼がこちらへ向かって来る。
あぁ、もうダメだ。
足に力が入らず、立ち上がれずに諦めた。
鬼の剣が振り上げられる。
俺は間もなく訪れるであろう痛みに備えて
歯を食いしばり、硬く目を瞑った。
しかし予想に反して痛みに襲われることはなく
代わりに聞こえてきたのは金属がぶつかり合う音と、不思議な女の声だった。
「大丈夫?怪我してない?動けるなら早く逃げて!」
何者かは知らないが、鬼のあの攻撃を難なく受け止めるなど只者ではない。
混乱していた俺は助けてもらった礼も言わずに、一目散に逃げ出した。
走っている最中にようやく少し冷静になれた俺は
一番近い広場に飛び込み、そこにいた人達に鬼の出現を知らせ避難を促した。
突然鬼出現の知らせを受け、混乱してしまった旅人達で
途中街道が混み合い、いつも以上に時間を要したが
どうにかこうにか首都まで戻った。
そこで王国騎士団に事の次第を説明し、ようやく人心地つけたのであった。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
次回更新は13日、木曜日を予定しております。
よろしくお願い致しますm(_ _)m




