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熊令嬢は婚活中  作者: 金原 紅
番外編
24/25

おまけ3_5歳児の観察眼

ベティたちの結婚から数年後の小話です。

 久しぶりに夫婦そろっての休みの日。長閑な昼下がりは貴重な一家団欒の時間だった。

 とはいっても、ベティ息子ゼオンに剣の稽古中。自分キールリィラと読書中。と各々の時間を楽しんでいた。


「ねぇ、お父さま」

「ん? どうしたんだい、リィラ」


 5歳児が読むには大分難しい本を一人で淡々と読んでいたリィラが、隣に座るキールの服をちょん、と引っ張る。

 何か分からない言葉でもあっただろうか、と愛らしい顔を覗き込むと、真剣な表情でキールの顔を見上げる。


「ゼオンは、とっても走るのが早いし、剣の上たつも早いの」

「ああ、そうだね。将来がとても楽しみだよ」

「うん、お母さまも、おじいさまも言ってたわ。すごい、きし、になるって」

「そうだね。父様もそう思うよ」


 弟の将来を語り、何やら深刻そうに頷くリィラに、キールは小さく首を傾げる。

 ちらり、とリィラの手元を見るが、彼女が読んでいるのは至って普通の物語。読んでいるのが5歳児、ということが少し普通ではないが、内容自体は騎士がお姫様を助けて結ばれる、というよくあるものだ。


「リィラは、ゼオンがお姫様を助けに行くことになる、と思ったのかい?」

「ううん。ご本みたいなことなんて、そんなに、おきないもの」


 なんだか呆れたような目で見つめられて、少し傷付く。

 リィラは、とてもリアリストだ……。


 悲しみを誤魔化すように微笑みを浮かべ、リィラの話を聞く。


「それじゃあ、ゼオンがどうかしたのかい?」

「ゼオンは、お母さまにそっくりでしょう?」

「ああ、そうだね。でも、リィラも目とかはベティにそっくりだよ」

「うん、それはうれしいの。だけど、もんだいは、そういうことではないの。ゼオンが、あと取りだっていうことだわ」

「あぁ…………」


 真剣な表情で、5歳の娘に提起された問題ことにキールは苦笑する。


 何故、そんなことを急に思い至ったのか。

 そして、さり気なくキールやシェイラが頭を悩ませていたことに、気付いてしまったのか。


 ベティやゼルバは純粋に、ゼオンの剣の腕を喜んでいる。

 しかし、このジュッツベルク辺境伯領の舵取りをしているキールとシェイラは、将来が不安で仕方なかった。

 なんせゼオンは、ベティやゼルバとよく似て脳筋だったのだ。


 勉強嫌いではないし、馬鹿でもない。

 しかし、何かあればとりあえず剣で解決を試みようとする。

 まごうことなく、脳筋だ。


「だからね、お父さま」

「うん?」


 息子の頭脳に考えを飛ばしていたキールの服が再びちょん、と引かれる。


 視線をリィラに向けると、にっこりと笑う。

 花が咲いたような、とても可愛らしい笑顔だ。

 しかしその口から飛び出るのは、とんでもない発言だった。


「長男はゼオンだから、しゃく位はゼオンがつぐので仕方ないわ。でも、りょう地のことは、わたしがやるの」

「リィラ!?」

「おむこさんをもらえば、およめに行かなくてもいいもの。ちゃんと、ジュッツベルクをはん栄させるわ。だから、お父さまとおばあさまは安心してね?」


 可愛らしく首を傾げながらそう告げるリィラに言葉もない。


 爵位と騎士団をゼオンが継ぎ、領政はリィラが取り仕切る。

 それはキールとシェイラがそうなったら安泰だけど、と考えたことではある。

 しかしそれをリィラたちに告げたことも、そうなるように導いたこともない。


 それなのに、リィラは5歳にして状況を理解し、打開策を思い付いてしまったらしい。

 ゼオンとは真逆で、リィラは本当に、キールにそっくりだった。


「おむこさんのこうほも、もう考えているの!」

「そうか……。でも、流石にまだ早いんじゃないかな?」

「ううん、何ごとも、早いうちに手をうつべきでしょう? ご手に回らないように、じゅんびはしっかりしなくちゃ」


 目をキラキラと輝かせて語るリィラに、似すぎるのも考え物だ、とため息を吐くのだった。

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