第96話 初雪と天然天使
ある日の放課後。
今日は準備室で本を読んでいる。
カウンターの方は、恵先輩、静先輩が待機していて。
準備室には、のどか先輩と僕がいるのである。
有佐先輩はやはり家事の関係で、麗子先輩は家の用事で今日は来ていない。
準備室で本を読んでいて、ふと窓の外を見ると、外の風景が何か白っぽい。
結露とも違う白さに、窓の側に行くと。
「あれ、雪が降ってますよ」
雪が降っているのが見えた。
「あ、ホントだ(ゆきだ〜)」
僕の声に反応した、のどか先輩が僕の側に来てそう言った。
それから、僕は準備室のドアを開けて、カウンターの方に向かった。
「恵先輩、静先輩、雪が降ってますよ!」
「え、あっ、本当だ」
「どうりで、今日は寒いはずだよね。
だから図書室が、どうやっても冷えたままなんだね」
僕がそう言うと、恵先輩と静先輩が、そう答えた。
そうなのだ、只でさえナカナカ温まらない図書室が、特に今日は冷えたままなのだ。
「おかげで、手がカジカンで、カイロが手放せないよ」
と言って、静先輩が使い捨てカイロを揉んでいた。
「それじゃあ、静先輩、交代しませんか?」
「あーちゃん、ありがとう」
そう言って、僕がカウンターの方に行く。
「恵先輩は大丈夫ですか?」
「私はこれをしているから、大丈夫」
僕に、指なし手袋をはめた手を見せて、僕にそう言った。
恵先輩は大丈夫そうだから、取りあえず、隣に座って待機した。
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「あーちゃん、もうそろそろ帰りましょう」
恵先輩がそう言ってきた。
時計を見ると、もう少しで全校生徒下校の時間になっている。
「じゃあ、準備しましょう」
恵先輩がそう言うと、一緒に入って準備をする。
静先輩とのどか先輩は、既に準備を終えていた。
恵先輩はコートを着込んで、カバンを持ってたが、僕はカバンを持っただけだった。
「あれ、あーちゃん、上に着るのは?」
「はい、今日、遅刻しそうになって急いで来たら、着るのを忘れたんですよ」
「寒くない?(どお)」
「寒いけど、電車に入るまでは、我慢するしかないですね」
恵先輩が尋ねたのに僕が答え、のどか先輩が言ったのにはそう返した。
そうしたら、恵先輩が、静先輩とのどか先輩を手招きして、ヒソヒソ話をしだした。
そうして3人が僕を見て、ニヤリと笑う。
何か、嫌な予感がする。
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僕らは、図書室の戸締りをした後、職員室に鍵を返したのち、玄関先に出ると。
「やっぱり、寒いなあ」
と言うと、突然、3人が僕にくっ付いて来た。
静先輩が、カバンを持った僕の左肘付近を、自分のコートの中に入れて。
カバンを持ってない方の手で、僕のカバンを持った手の上に、手を乗せた。
のどか先輩は、僕の右腕を自分のコートの中に全部入れて。
恵先輩は、自分のコートの前を全開にして僕の後ろに抱き付くと、僕の胴体をコートの中に入れた。
「「「あーちゃん、これで寒くないよね」」(ねえ〜)」
3人が同時でそう言った。
その言葉を聞くと、僕は、寒いのにも関わらず、冷や汗をかいた。
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もう周囲が暗くなっているから、周りから分からないだろうと、自分に言い聞かせていたが。
時折、部活帰りだろう、男子が集団でいる所に遭遇すると。
「「「「「(爆発しろ! ハーレム野郎!)」」」」」
と言う、憎しみの籠もった視線を浴びせられる。
結局、僕は、駅に付くまでの間、集団からの痛い視線に何度も晒される事になった。




