第91話 電車の中の天然天使1
ある日の朝。
僕は毎朝、電車通学をしているが、しかし、今日の、この車内の人数はまた多い事・・・。
いつもは、多い事は多いが、ギュウギュウと言う感じでは無い。
だが今日は、別の路線が事故で不通となり、その分の人間が、迂回してこれだけの人数になった。
「(でもなあ、もう少し詰めてくれたらいいのになあ)」
ただでさえ人間が多いのに加え、出入り口から奥の方が余裕が有るのに、そちらの方に詰めてくれないので、出入り口付近がギュウギュウ詰めになっている。
ふと外を見ると、途中の駅に到着した所だ。
停車してドアが開くが、降りる人間は少ない代わりに、乗る人間が多いので更に、ギュウギュウ詰めになる。
その入って来た人間の圧力で、僕は、出入り口付近の壁に押された。
”プシュー”と言う音とともに、ドアが締まると更に圧力が強まる。
すると、”キャッ”と言う声と同時に、女の子が僕にぶつかって来た。
「す、すいません!」
その女の子が謝りながら、こちらを見た。
ぶつかって来た、その女の子は、僕が良く知っている顔だった。
「あれ、麗子先輩!」
「あ、あーちゃん!」
そう、麗子先輩だった。
「先輩は、この駅だったんですか」
「うん、あーちゃんはこの先なの?」
「はい、この二駅先です」
先輩も電車通学なのは知っていたが、この駅から通っていたのは知らなかった。
二人でそんな事を話していると、急に車体が揺れたので。
「うわっ!」
「キャッ!」
周りからの圧力で、僕が壁の方に押し付けられると。
先輩も、周りから押されて、僕の胸元に押し付けられた。
「ご、ごめんなさい・・・」
「い、いえ・・・」
僕の胸元で、先輩が赤くなって俯く。
僕もそれにつられて、顔が熱くなる。
「・・・ん!」
しかし直ぐに、周りの圧力に押されて、先輩が苦しい顔をする。
見かねて、僕は先輩にこう言った。
「先輩、少しだけ、失礼しますね」
と言ってから、僕は先輩を抱くと。
それから先輩を抱いたまま、体を反転させ、先輩が壁側になるようにする。
そして、先輩の頭の両脇に、僕が両手を付いた。
そう、これは、先輩後輩の立場は逆転するが、某CMで有名になった、”壁ドン”の体勢である。
「・・・あーちゃん」
「大丈夫ですか?」
僕がそう言うと、先輩がコクリと頷た。
先輩が頷くと、そのまま、僕に身を寄せる様にくっ付く。
その状態のままで、僕は先輩を周囲の圧力から守っていた。
が、しかし、この状態になった事で、僕は周囲の視線に晒される事になった。
羨ましそうな、羨望の眼差しで見る、女性陣。
”爆発しろ!”という様な、嫉妬の視線で見る、男性陣。
そう言った感情が、入り混じった視線に晒されながら、僕は先輩と一緒に電車に乗っていた。




