第89話 ぬくぬく天然天使3
ある日の放課後
今、僕は準備室で、静先輩と一緒に本を読んでいる所だ。
今日は、恵先輩は推薦の関係で職員室に行っていて、のどか先輩と麗子先輩がカウンターで待機している。
「最近、部屋の中にいても寒いわよね」
「そうですね」
「もうそろそろ、図書室に暖房を入れた方がいいわよね」
などと、先輩と僕がそんな事を話していた。
この学校の図書室では、夏は冷房が入っていた様に、冬は暖房が入るのだ。
一応、そのタイミングは校則で決まっているのだが、実際は、図書委員の判断で入れている。
「はあ、これからは本を読むのも辛くなる季節かあ」
「どうしてですか?」
「素手を外に晒しているだけで、手が冷えて来るから」
「確かにそうですね」
と先輩が愚痴ると僕は同調した。
これからの季節は、よほど暖房が掛かった部屋で無い限り、多少、暖かい位では、手を外に出していると指が冷えて来る。
「手袋をはめないと、いけなくなるかな」
「手袋をはめて、読めるの?」
「はい、指先が無い奴で、これだけでも違いますよ」
「なるほど」
そう、手首と手の甲を保温しているだけでも、全然違うのだ。
手首の血管と肉の薄い手の甲から、体温が逃げて行くからである。
「ふうっ」
先輩が手を擦りだした。
「あれ、先輩、寒いのですか?」
「うん、手が冷えちゃって」
先輩が手を擦ったり、自分の手を反対の手で握り込んだりした。
僕はそれを見かねて、椅子から立ち上がり先輩の側に行った。
そして、丸椅子を取りだし、先輩を脚の間に入れる様に座り。
それから、先輩の後ろから手を伸ばし、先輩の手を握った。
「・・・あーちゃん」
「先輩、手がこんなに冷えてますよ」
先輩の指先を握ると、細くて柔らかい指が、本をめくるのが辛い位に冷えているのが分かる。
しばらくの間、僕は、先輩の指先を握りながら、体温を送り込む。
しかし、それでもナカナカ暖かくならなくて、僕は先輩の手を揉んだり、擦ったりした。
「う〜ん、あと少しだけどなあ」
ある程度、暖かくなったけど、この位だと、すぐに冷えてしまう。
まだ温める為に、僕は先輩の右肩から顔を出し、先輩の手を取って、自分の頬に先輩の手を当てた。
「あっ・・・」
冷えた先輩の手を頬に当てると、プニプニ柔らかく、ヒンヤリとした手が、むしろ心地良く感じられる。
「あーちゃん、冷たくない?」
「むしろ気持ち良いくらいですよ、先輩、暖かいですか?」
「うん、気持ちいい・・・」
しみじみと言った感じで、僕に答える先輩。
しばらくの間、そうやって、冷えた先輩の手を温めてやった。




