第88話 あーちゃんありがとう
ある日の昼休み時間
僕はカウンターに、麗子先輩と一緒に座っていた。
すると、図書室の扉が急に開き、誰かがカウンターに向かい足音を立てて来る。
見ると、恵先輩が興奮した様子で、こちらに来ている。
普段、冷静な先輩にしては珍しい。
「はあ、はあ、はあ」
恵先輩がこちらに着くと、カウンターに手を付いて息を調えている。
「恵先輩、どうしたんですか?」
「そうそう、そんなに急いで」
麗子先輩と僕がそう言うと、恵先輩が。
「やった、やったのよ、X大の推薦が決まったの!」
興奮した声で、そう答えた。
「本当ですか!」
「おめでとうございます!」
僕がそう言うと、麗子先輩は、恵先輩の手を取って喜んだ。
それから、麗子先輩が準備室に飛び込むと、中から有佐先輩、静先輩、のどか先輩が飛び出して来た。
「恵、やったね!」
「おめでとうございます!」
「おめでとうございます!(やりましたね)」
有佐先輩、静先輩、のどか先輩が、恵先輩を取り囲んで、お祝いの言葉をそれぞれ言った。
そして図書室は、昼休み中、喜ぶに包まれた。
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その日の放課後。
「あっ、あーちゃん」
僕は図書室に向かう途中の廊下で、恵先輩と出会った。
「ねえ、あーちゃん、ちょっと良いかな」
「はい、良いですけど?」
僕の顔を見ると、先輩がそう言って、僕を一緒に来る様に誘う。
そう言う、先輩の後に付いて行くと、校舎の裏手に出た。
「ふうっ、風が冷たいねえ」
校舎の裏手に出ると、風が吹いてきて、先輩の髪をなびかせる。
先輩が風で乱れた髪を整えると、振り返り僕を見詰めた。
僕を見詰めるその瞳は、涙に揺れている。
「あーちゃん、ありがとう・・・」
そして、先輩が笑顔を見せながら、涙を流した。
それから、僕の両手を握って。
「私、あーちゃんがいたから、受かる事が出来たんだよ」
「私が不安で押し潰されそうなった時も慰めてくれて。
私が、推薦を受ける前にも元気づけてくれた・・・。」
「あーちゃんには、感謝しても、し尽せないの・・・」
涙に濡れた笑顔を見せながら、先輩がそう言った。
「そんな、僕は大した事はしてないですよ」
僕はそう言うが、先輩は首を横に振って。
「うんん、私に取っては重要な事なの」
そう言うと先輩が、今度は僕に抱き付く。
僕は、冷たい風が先輩に当たらない様に、少し動いて、背中を風上に向ける。
「ふふふっ、やっぱり、あーちゃんは優しいなあ」
そう言って、僕を抱き締める力を強めた。
抱き付いた先輩の背中を、僕は優しく撫でてやる。
そうやって先輩の涙が乾くまで、二人で、冷たい風が吹く中、そのままの状態でいた。




