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第88話 あーちゃんありがとう

 ある日の昼休み時間



 僕はカウンターに、麗子先輩と一緒に座っていた。


 すると、図書室の扉が急に開き、誰かがカウンターに向かい足音を立てて来る。


 見ると、恵先輩が興奮した様子で、こちらに来ている。


 普段、冷静な先輩にしては珍しい。



 「はあ、はあ、はあ」



 恵先輩がこちらに着くと、カウンターに手を付いて息を調えている。



 「恵先輩、どうしたんですか?」


 「そうそう、そんなに急いで」



 麗子先輩と僕がそう言うと、恵先輩が。



 「やった、やったのよ、X大の推薦が決まったの!」



 興奮した声で、そう答えた。



 「本当ですか!」


 「おめでとうございます!」



 僕がそう言うと、麗子先輩は、恵先輩の手を取って喜んだ。


 それから、麗子先輩が準備室に飛び込むと、中から有佐先輩、静先輩、のどか先輩が飛び出して来た。



 「恵、やったね!」


 「おめでとうございます!」


 「おめでとうございます!(やりましたね)」



 有佐先輩、静先輩、のどか先輩が、恵先輩を取り囲んで、お祝いの言葉をそれぞれ言った。


 そして図書室は、昼休み中、喜ぶに包まれた。



 *****************



 その日の放課後。



 「あっ、あーちゃん」



 僕は図書室に向かう途中の廊下で、恵先輩と出会った。



 「ねえ、あーちゃん、ちょっと良いかな」


 「はい、良いですけど?」



 僕の顔を見ると、先輩がそう言って、僕を一緒に来る様に誘う。


 そう言う、先輩の後に付いて行くと、校舎の裏手に出た。


 

 「ふうっ、風が冷たいねえ」



 校舎の裏手に出ると、風が吹いてきて、先輩の髪をなびかせる。


 先輩が風で乱れた髪を整えると、振り返り僕を見詰めた。


 僕を見詰めるその瞳は、涙に揺れている。



 「あーちゃん、ありがとう・・・」



 そして、先輩が笑顔を見せながら、涙を流した。


 それから、僕の両手を握って。


 

 「私、あーちゃんがいたから、受かる事が出来たんだよ」


 「私が不安で押し潰されそうなった時も慰めてくれて。

私が、推薦を受ける前にも元気づけてくれた・・・。」


 「あーちゃんには、感謝しても、し尽せないの・・・」



 涙に濡れた笑顔を見せながら、先輩がそう言った。



 「そんな、僕は大した事はしてないですよ」



 僕はそう言うが、先輩は首を横に振って。



 「うんん、私に取っては重要な事なの」



 そう言うと先輩が、今度は僕に抱き付く。


 僕は、冷たい風が先輩に当たらない様に、少し動いて、背中を風上に向ける。



 「ふふふっ、やっぱり、あーちゃんは優しいなあ」



 そう言って、僕を抱き締める力を強めた。


 抱き付いた先輩の背中を、僕は優しく撫でてやる。


 そうやって先輩の涙が乾くまで、二人で、冷たい風が吹く中、そのままの状態でいた。



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不思議な先輩女子と、平凡な後輩男子との不思議な話。
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