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第85話 ギュっとしてね

しつこい様ですが、私(作者)にファッションセンスを期待しないで下さいorzorz

 ある日の昼休み。



 昼食を取って、図書室に向かっていると。


 ある空き教室から、女の子が出て来た。


 手芸部の部長、松橋翠先輩だ。


 いつもだと、背中までの髪を後ろで束ねて、眼鏡を掛けた姿が良く見慣れているけど。


 今日は、枯葉をあしらったワンポイントに、黒いフリルとリボンにこげ茶地のワンピースと、黒のハイソックスと言う出で立ちであり。


 髪は束ねず、ストレートのままでいて、コンタクトにしているのか、眼鏡は掛けてはいなかった。



 「こんにちは、あーちゃん」



 そう言いながら、ニッコリとした。


 先輩は、いつもと違う格好の所為(せい)か、普段の様な、野暮(やぼ)ったい雰囲気が無く。

むしろ、可憐な印象を受ける。


 僕を見る顔も、眼鏡が無く髪を解いたのと、服装の為か。

いつもと違い、可愛く感じられた。


 そんな先輩を、ボンヤリと見ていたら。



 「どうしたの?」



 先輩が、小首を(かし)げて、僕を覗き込む様にしてみている。


 その可愛らしい、仕草に思わず後ずさりをしてしまった。


 

 「変な、あーちゃん」



 そんな僕を見て、苦笑しながら先輩がそう言った。



 「あーちゃん、チョットで良いから、こっちに来ない?」



 そう言って先輩が、出て来た教室に、僕を誘った。



 ****************



 その教室に入ってみると、机の上や教室の角に、色々な道具が置いてある。



 「この教室は?」


 「ん、ここは、幾つかの弱小部活が、共同で部室として使っている教室なの」



 僕が尋ねると、先輩がそう答えた。


 なるほど、道理で教室が雑然としているのか。



 「それで、どうして、ここにいるんですか?」


 「縫っていた服が出来たから、直ぐにでも試着したかったからなの。

どお?」



 そう言って体を回すと、それに合わせてワンピースが翻った。


 僕は、その様子に見惚(みと)れていた。



 「せ、先輩、卒業したらどうするんですか?」



 僕は慌てて、先輩に尋ねた。



 「うん、私は服飾系の、専門学校に行くつもりだからね」


 「部活の引き継ぎの方は?」


 「次期部長は既に決まっていて、私はもう、そっちの方はタッチしていないの」



 そう言う風に先輩が、僕の質問に答えた。


 それから、僕の目の前に近づき。



 「ねえ、どうかなあ、この服?」


 「はい、とても可愛いです」


 「それで、私に似合う?」



 体を少し前に傾け、僕の顔を上目遣いで覗き込む様にして見る、先輩。



 「せ、先輩もとても可愛いです」



 その言葉を聞くと、先輩が頬を染めながら僕を見詰める。


 それから、突然、僕に抱き付いて。



 「ねえ、私がそんなに可愛いなら、ギュってしてえっ・・・」



 潤んだ瞳で僕を見詰めながら、赤い頬で僕におねだりした先輩。


 いつもと違う先輩の言動を見て、僕は気付いた。


 可愛い物好きの女性は、本当は自分がそう言う風に、可愛がられたい内心の裏返しだと聞いた事がある。


 つまり、先輩の僕にやたらに絡んだり、服の趣味とかを考えたら、そんな事だろう。


 それに気付いた僕は、先輩を包み込む様にしながら、それでいてシッカリと抱きしめた。



 「はあっっ・・・」



 そうすると、先輩が(かす)かな声を上げる。


 そんな先輩を抱き締めながら、頭を撫でてみると、先輩が頬を僕の肩に乗せつつ、頬ずりをして来た。


 満足そうな、先輩の様子を見ながら、僕は先輩を抱き締めた状態で、頭を優しく撫でていた。



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不思議な先輩女子と、平凡な後輩男子との不思議な話。
夏の涼風
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