第83話 天然天使と登校
ある日の朝。
僕は改札を抜けて、駅前に出た所で。
「おはよ〜、あーちゃん」
後ろから声を掛けられた。
振り返ると、そこには有佐先輩が僕に笑顔を向けていた。
「あ、先輩、おはようございます」
慌てて、僕も挨拶を返す。
「偶然やね〜、こぎゃんか所で合うとか。
ねえ、一緒に行かん?」
「はい、一緒に行きましょうか」
と言う事で、僕らは一緒に学校に向かう事になった。
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二人並んで、学校への道を話ながら歩く。
「はあ、すっかり寒くなりましたね」
「ホントやね、ここ一、二週間で急激ん寒む〜なったけんねぇ〜」
「真っ昼間は、暑い位なんですけどね」
「朝夕は、結構、寒かもんね〜」
そう言いながら、先輩がカバンを小脇に抱え直して、手を擦り出した。
「洗い物ばして、手が水気ば含んどるけん、これからの時期は、朝が辛かね」
よほど冷たいのか、今度は手を揉みだした。
「先輩、そんなに冷たいんですか」
「うん、元々が暖かかか地方の生まれ育ちん上、結構、冷え性やけんね〜」
(※暖かかか:誤字じゃありません、本当にかを三回言います)
う〜ん、先輩の方言を聞いていると、如何にも、暖かい地方の出身だから、寒さに弱いのが分かるなあ。
「確かに、先輩の地元は暖かそうですもんね」
「うん、こっちん方に比ぶっと、暖かとばってん、せやけど、市内ん方は盆地やけん、けっこう寒かし、山ん方もかなり雪が積もるけんね」
(うん、こっちの方に比べると、暖かいけど、だけど、市内の方は盆地だから、けっこう寒いし、山の方もかなり雪が積もるからね)
(※市内は最近、政令市になった某県庁所在地、山はカルデラで有名な山です)
「そうなんですか」
「そうたい、山ん方は積もるとやけど、下ん方(平地)は、毎年、何回かは雪が振るとばってん、積もるとは何年かに一回かな」
「へえ〜」
二人でそんな事を話しながら、学校への道を進んでいた。
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学校に着いて、僕は靴を履き替えているが、先輩が下駄箱の所で手を擦っている。
それを見て僕は、可哀想に思えたので、何とかしてやりたかった。
どうしたら良いか考えていたら、ある事を閃いた。
周りを見回すと、階段を見つけたので、先輩に。
「すいません、先輩、こっちに来てくれませんか」
「?」
と言って、階段の方に誘うと、先輩が不思議そうな顔をしたが、素直に僕に付いて来てくれた。
階段下の死角に着くと僕は、先輩の手を取って、自分の制服の下に先輩の手を入る。
「あ、あーちゃん・・・」
普段は、照れたりする表情を見せない先輩が、顔を赤くした。
「先輩、暖かいでしょ」
僕がそう言うと、先輩が頷いてくれた。
僕は自分の手を、先輩の手の上に乗せ、それから自分の体の方に押し付ける。
「あーちゃん、暖かかかね・・・」
顔を赤くしながら、僕の顔をジッと見詰める、先輩。
僕は、先輩の手が温まるまで、そうしていた。
有佐先輩の出身は、K県の北部と言う設定で。
同じK県でも、地域が変わると、気候も変わります。
実は、K県は北部よりも南部の方が物凄く寒いのです。




