第82話 入試に望む天然天使
ある日の昼休み時間。
僕は昼食を済ませ、図書室に向かう途中。
校舎の裏手で、建物の基礎の所に、見たことがある女生徒が座っているのを見かけた。
良く見ると、それは、恵先輩だった。
確か、しばらくは大事を取って、部活動や図書委員も休んでいるはずだ。
先輩を見てみると、遠くを見てボンヤリとしている。
気になった僕は、先輩の所に行ってみる事にした。
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下に降りて来たが、相変わらず、先輩がボンヤリとしている。
「先輩、何をしているんですか?」
僕はそう言いながら、先輩に近づく。
「はっ! あー、あーちゃんか」
僕が声を掛けた瞬間、ビックリしたみたいだが、僕を見ると安堵の表情を見せた。
「ビックリさせてスイマセン、でもこんな所で何をしているんでしか?」
僕がそう言って、先輩の左隣に座る。
「今週、X大の推薦試験があるの。
筆記は最低限の学力を見る為だから、問題ないけど。
同時に、面接があるのよね」
「一応、面接の想定問題は考えているけど。
それも、大筋は決まっているけども、細かい所はアドリブで通すね。
余り細かい所まで決めると、予想外の事に対応出来なくなるから」
「それも準備が済んで、後は当日を待つだけなんだけど。
ただ待つのも何だか、落ち着かなくて。
それで、一人になれる所で、気分を落ち着けているの」
苦笑しながら、先輩がそう言った。
なるほど、焦っている訳では無いが、気分が落ち着かないので、落ち着けているだけなのか。
一時は、ちょっとした事で追い詰められていた事があったので、心配していたが、一応は安心した。(第66話参照)
「所で、あーちゃんの方は、図書室に行かなくても良いの?」
「あー、後で、他のメンバーには謝って置きます」
「ゴメンね、また心配かけさせて」
先輩が、済まなそうな表情でそう言った。
「でも、あーちゃんに話したら、少しは楽になったかな」
先輩が、チョット無理をして、笑顔を作った様に見えたので、僕はそんな先輩を楽にしてあげたくて。
「お姉ちゃん、もっと楽にしてあげるからね」
そう言って立ち上がると、先輩を抱き締めた。
「あ、あーちゃん・・・」
先輩が、ささやく様な声を出した。
ポニーテールがあるから、頭を撫でられないけど。
その代わりに、背中を優しく擦ってあげた。
そうしていると、先輩の腕が僕の背に廻されていく。
「お姉ちゃん、気持ち良い?」
「うん、気持ち良いよぉ・・・」
僕がそう言うと、先輩が夢見心地にいる様な声で答えた。
そうやってしばらくの間、先輩を包み込む様にして抱き締めながら、優しく背中を擦っていた。
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「先輩、もうすぐ、授業が始まりますよ」
時間が無いのに気づいて、先輩にそう言うと。
先輩が、スッキリとした顔で、僕を見た。
「ありがとう、また、あーちゃんに助けられたね」
照れた様な笑いを見せながら、先輩が僕に礼を言った。
「キ〜ン、コ〜ン、カ〜ン、コ〜ン」
二人でその様な話しをしていると、午後の予鈴が聞こえてきた。
「げ、早く戻らないと」
「あーちゃん、急ぎましょう」
僕たちは手を繋ぎながら、慌てて、校舎の方に向かった。




