第78話 天然天使と秋風
ある日の放課後。
今日はカウンターで、麗子先輩と一緒に座っていた。
静先輩とのどか先輩は、予約があったので、予備校に行っている。
恵先輩は、推薦入試の面接の対策を立てる為に、いまは部活は休止中。
なので、二人っきりで図書室にいたのだ。
今、麗子先輩はカウンターに座りながら、文庫本を読んでいる。
「・・・」
その、清楚な雰囲気を湛えた、横顔を何となく眺めていると。
「ん、どうしたの、あーちゃん」
先輩がそんな僕を見て、少し困った様な微笑みを浮かべていた。
「あ、いえ、先輩がきれいだったから」
「え、そんな・・・」
その先輩の表情に、思わず言葉が詰まると。
先輩が顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
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そうして俯いていた先輩が、しばらく経ってから、おもむろにつぶやいた。
「そう言う、あーちゃんだって、可愛いんだからね」
先輩が、僕の方を、恨めしそうに見ながらそう言った。
「えっ!」
「だって、あーちゃんの女装しているのって、物凄く可愛かったよ」
「先輩、見てたんですか・・・」
そう言いながら、してやったりといった笑顔を見せる先輩。
「うん♪ 特に、アリスの時の、ゴスロリ姿が良かったね。
思わず、モフモフしたくなっちゃうよ」
先輩がニコニコしながら、そう言う。
「え〜、先輩、忘れてくださいよ」
「やだ、しっかりと覚えておくもん♪」
いつの間にか、先輩に弄ばれていた。
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そうやって、二人でジャレていたら、もう学校が閉鎖される時間だ。
「先輩、もう帰りましょうか」
「うん、帰ろっか」
「・・・先輩、一緒に帰りませんか?」
「うん、良いよ」
二人でジャレていたら、先輩と別れるのが惜しくなって、誘ってみたら快く返事してくれた。
そう言う訳で、先輩と一緒に駅まで帰る事になった。
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秋も深まり、すっかり陽が暮れてしまった帰り道。
僕と先輩は、二人並んで歩いていた。
そうして歩いていると、突然、突風が吹いて来た。
「キャッ」
先輩が可愛らしい、叫び声を出した。
その声を聞いて、先輩の方を見てみると。
先輩が風で煽られた髪を、掻き上げていたのが見えた。
その仕草を見た途端、僕の心臓の鼓動は激しくなった。
「ん、どうしたの、あーちゃん?」
そんな僕の心の内を知ってか、知らずか、僕の顔を覗き込む様にして、そう言う先輩。
そんな先輩に僕は、頬を熱くしてしまう。
「変な、あーちゃん」
先輩が、口に手を当てながら、クスクスと笑う。
先輩のそんな様子に、僕は何も出来ずに固まってしまった。
「ほら、もう急がないと、時間が無いよ」
しばらくその状態でいたら、そんな僕の様子に焦れてしまい、先輩が僕の手を握ってしまう。
「ほら〜! 急げ、急げ〜!」
そう言いながら、僕の手を引いて走り出す先輩。
こうして、日が暮れた通りを、先輩に手を引かれながら、僕は走っていった。




