第73話 お姉ちゃんの進路
ある日の昼休み時間。
今日は、有佐先輩と二人でカウンターに座っている。
「へえ〜、読書部はそぎゃんか事ばするとね」
僕は昨日、決まった、手芸部との共同の出し物の内容を、先輩に話した。
「でも、楽しみやね〜、あーちゃんが、どぎゃんか風になるとか」
「???」
僕を見ながら、ニヤニヤする先輩。
僕は意味が分からずに、?マークを頭に浮かべた。
「先輩の方はどうなんですか? 部活の方は」
「うん、結局は幽霊になったけん、もう参加出来んね」
先輩の方が気になって、尋ねてみた。
この学校では、別に幽霊部員が悪い訳ではないが、一旦、幽霊に認定されると、その部活の試合や出し物などに出られ無くなる、不文律があるのだ。
先輩は、最初から幽霊になるつもりは無かったのだが、家事が忙しい上に、開いている時間を図書委員の方を優先した為に、料理部の方が幽霊になってしまった。
「所で最近、恵んの方はどげんね、一時は、何か追い込まれたごたるけん」
急に、恵先輩の話になった。
有佐先輩の目から見ても、かなり追い込まれた様に見えたみたいだ。
「はい、僕が慰めたら、何か吹っ切れたみたいで、今は以前の状態に戻りました。
どうやら、チョットした事から、マイナスのスパイラルに入ってたみたいですね」
「そぎゃんやったとね、完璧主義のあん娘らしかねえ〜。
まあ、あん娘も私んごつ、あーちゃんに慰められたとかあ。
私も、あーちゃんに弟ん事で慰められたけんね」
(そうだったの、完璧主義のあの娘らしいねえ〜。
まあ、あの娘も私の様に、あーちゃんに慰められたのかあ。
私も、あーちゃんに弟の事で慰められたからね)
そう言って、納得した先輩。
「そう言えば先輩って、卒業したら、どうするんですか?」
僕は、気になっていた事を聞いてみた。
「うん、私はね、卒業したら就職するけんね。
もう、父親の紹介で、就職先も決まっとるけん」
「へえ、そうなんですか」
そうなのか、先輩は就職するのか。
「先輩は、将来何になりたいんですか?」
そうすると、先輩の将来の夢が聞いてみたくなった。
「そうね、自分の事よりか弟が将来、一人前になって貰いたかね。
その為に、あん子がよか学校に行って貰いたかったけん、その学費が稼ぐのが、就職する理由の一つたい。
それば見届けた後、誰か貰ってくれる人がいたら、お嫁に行こうかと思〜とっとたい」
(そうね、自分の事よりも弟は将来、一人前になって貰いたいね。
その為に、あの子が良い学校に行って貰いたいので、学費を稼ぐのが、就職する理由の一つだよ。
それを見届けた後、誰か貰ってくれる人がいたら、お嫁に行こうと思っているよ)
・・・先輩。
骨の髄まで、お姉ちゃんなんですね。
「でも、先輩、少しは自分の事を考えて下さいよ」
「ふふふっ、あーちゃんは、やっぱり優しいかねぇ」
そう言って、先輩は僕の頭を掴むと、自分の方に引き寄せて胸に抱き締めた。
「心配せんでもよかよ〜、お姉ちゃんは、必ず幸せになるけんね〜」
更に、抱き締める力を強める、先輩。
その言葉を聞いて、僕は少し安心した。
でも、先輩、息が苦しいんですけども・・・。




