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第71話 落ち着いた天然天使

 ある日の昼休み時間。



 いつもの様に、図書室のカウンターに座って待機している。


 今日は、隣に恵先輩が座っている。


 あれから(第66話参照)、先輩も落ち着きを取り戻して、無理をしなくなった。


 一時の様な、疲れ切った様な表情も無くなり、むしろ、何か吹っ切れた様な感じだ。



 「ふふん、ふふ〜ん」



 先輩は鼻歌を歌って、機嫌が良さそうだ。



 「どうしたんですか、先輩、機嫌が良さそうですね」


 「お姉ちゃん!」


 「はい、お姉ちゃん」



 あの時から(第39話参照)、相変わらずに二人きりの時は”お姉ちゃん”と呼ばせている。



 「どうして機嫌が良いの? お姉ちゃん」


 「うん、あーちゃんと一緒にいるからよ」


 「?」



 先輩の答えに、僕は頭に?マークを浮かべた。



 ***************



 「それで、今は勉強の方はどうなんですか?」



 僕は、先輩の勉強の状況を尋ねた。



 「そうね、今は、一学期と同じ感じに戻ったかな。

あの頃は、なぜか変に焦っていたのよね。

周囲の空気に当てられたのもあったのだけど、今、考えるとオカシイよね」



 先輩が笑いながら言った。


 僕はその言葉を聞いて、安心した。

少なくとも、以前の自分を取り戻した様だ。



 「あの時、私の心が追い詰められた時に、あーちゃんが私の心に寄り添ってくれて、私の心を癒してくれたからなの。

ありがとう、あーちゃん」




 潤んだ瞳で、僕の事を見詰めている、恵先輩。


 そうして、しばらくの間、僕の事を見詰めていた先輩が。



 「私、あーちゃんに、こんなに癒されたから。

今度は、私があーちゃんの事を癒してあげたいな」



 そう言うと、椅子から立ち上がり僕の背後に回ると、僕の頭を抱き締めた。



 「ねえ、あーちゃん、前にあーちゃんのお姉ちゃんになりたいって、言った事があったけど。

今ほど、こんなに思った事は無いよ」


 「だから、私に甘えてちょうだい」



 と、言いながら、僕の頭を包み込む様に優しく抱き締めて、先輩が髪を撫でる様に()く。


 そうして撫でられている内に、僕はいつの間にか、安心感から微睡(まどろ)んでいた。


 そんな夢見心地になったせいで。



 「おねえちゃん、もっと撫でて」



 思わず、先輩に甘えた声を出した。


 そんな僕を見て、先輩が”ふふふっ”と小さく笑いながら。



 「やっぱり、あーちゃんは甘えんぼだね。

でも、そんなあーちゃんは可愛いなあ」



 そう言って、僕の頭をギュっと抱き締めた。



 「あーちゃんが、本当の弟なら良かったなあ。

そしたら、有佐に負けない位のブラコンになれる自信があるよ」



 僕の頭を抱き締めたまま、左右に小さく揺れる先輩。


 先輩は上機嫌で、僕は夢見心地のままで、昼休み時間を送った。

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不思議な先輩女子と、平凡な後輩男子との不思議な話。
夏の涼風
姉弟物の短編を取り揃えていますので、どうか、お越し下さい。
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