第71話 落ち着いた天然天使
ある日の昼休み時間。
いつもの様に、図書室のカウンターに座って待機している。
今日は、隣に恵先輩が座っている。
あれから(第66話参照)、先輩も落ち着きを取り戻して、無理をしなくなった。
一時の様な、疲れ切った様な表情も無くなり、むしろ、何か吹っ切れた様な感じだ。
「ふふん、ふふ〜ん」
先輩は鼻歌を歌って、機嫌が良さそうだ。
「どうしたんですか、先輩、機嫌が良さそうですね」
「お姉ちゃん!」
「はい、お姉ちゃん」
あの時から(第39話参照)、相変わらずに二人きりの時は”お姉ちゃん”と呼ばせている。
「どうして機嫌が良いの? お姉ちゃん」
「うん、あーちゃんと一緒にいるからよ」
「?」
先輩の答えに、僕は頭に?マークを浮かべた。
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「それで、今は勉強の方はどうなんですか?」
僕は、先輩の勉強の状況を尋ねた。
「そうね、今は、一学期と同じ感じに戻ったかな。
あの頃は、なぜか変に焦っていたのよね。
周囲の空気に当てられたのもあったのだけど、今、考えるとオカシイよね」
先輩が笑いながら言った。
僕はその言葉を聞いて、安心した。
少なくとも、以前の自分を取り戻した様だ。
「あの時、私の心が追い詰められた時に、あーちゃんが私の心に寄り添ってくれて、私の心を癒してくれたからなの。
ありがとう、あーちゃん」
潤んだ瞳で、僕の事を見詰めている、恵先輩。
そうして、しばらくの間、僕の事を見詰めていた先輩が。
「私、あーちゃんに、こんなに癒されたから。
今度は、私があーちゃんの事を癒してあげたいな」
そう言うと、椅子から立ち上がり僕の背後に回ると、僕の頭を抱き締めた。
「ねえ、あーちゃん、前にあーちゃんのお姉ちゃんになりたいって、言った事があったけど。
今ほど、こんなに思った事は無いよ」
「だから、私に甘えてちょうだい」
と、言いながら、僕の頭を包み込む様に優しく抱き締めて、先輩が髪を撫でる様に梳く。
そうして撫でられている内に、僕はいつの間にか、安心感から微睡んでいた。
そんな夢見心地になったせいで。
「おねえちゃん、もっと撫でて」
思わず、先輩に甘えた声を出した。
そんな僕を見て、先輩が”ふふふっ”と小さく笑いながら。
「やっぱり、あーちゃんは甘えんぼだね。
でも、そんなあーちゃんは可愛いなあ」
そう言って、僕の頭をギュっと抱き締めた。
「あーちゃんが、本当の弟なら良かったなあ。
そしたら、有佐に負けない位のブラコンになれる自信があるよ」
僕の頭を抱き締めたまま、左右に小さく揺れる先輩。
先輩は上機嫌で、僕は夢見心地のままで、昼休み時間を送った。




