第70話 文化祭の準備1
ある日の放課後。
今日は珍しく、有佐先輩が放課後に来ている。
それで、僕と有佐先輩の二人で、カウンターに座っている所だ。
僕は、数日前に衣替えが済んで冬服になったけど、まだ昼間は暑いので、上着を脱いで座っている。
そうやって、カウンターにいると、誰かがカウンターに近づく気配がする。
そう思い、その方向を見ると、そこには翠先輩がいた。
僕は、翠先輩の姿を見ると、反射的に脱出体勢に入る。
「ああっ、ちょっと待って、あーちゃん。
今日は本当に何もしないわよ。」
「本当ですか?」
「本当に、本当、だから逃げないでね」
逃げようとする僕を、翠先輩が必死で宥める。
「で、今日は何ばしに来たとね?」
「うん、今日は、手芸部部長として、読書部に提案があるから来たのよ」
「じゃあ、私は関係なかね。
あーちゃん、翠と一緒に行かんね」
有佐先輩がそう尋ねると、翠先輩がそう答えたので、関係ない有佐先輩にカウンターの方を頼むと、僕は翠先輩と一緒に準備室に入った。
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中に入ると、恵先輩、静先輩、のどか先輩の3人が本を読んでいた。
「あれ、翠、今日はどうしたのよ」
「うん、今日は、手芸部部長として、読書部に提案があって来たの」
今度は、恵先輩が尋ねて、翠先輩が答えた。
しかし、何かを期待していた、静先輩とのどか先輩の二人は、見るからに落胆した様子だった。
「それで、何かしら?」
「文化祭の出し物を、手芸部と読書部の共同でしない、と言う事をね。
手芸部も読書部も、実働の部員が少ないから、お互い単独でやるのは無理だから」
そうなのだ手芸部も、読書部同様、幽霊部員の巣窟なのだ。
この学校は、建前上は、全生徒が部活に強制的に入らないといけないが。
しかし、実際には、色々と抜け道があるのだ。
その中で一般的なのは、不人気な部活に籍だけ置いて、幽霊部員となる事だ。
これは、受け入れる部活の方も、人数不足により廃部を避ける事が出来るので、両者メリットがあるのだが。
それでも肝心の実働の部員がいなければ、天文部の様に廃部の危機に立つのには、代わりは無いのだけど。
この様な部活は、文化系に多い、運動系は活動をしてるかどうかが、一目瞭然だから
「まあ、それもそうね」
「うちの方は既に、全員の賛成をもらって。
後は、読書部側の返事しだいだね」
と、恵先輩と翠先輩が、そんな事を話している。
「じゃあ、みんなはどうする?」
「私は、別に構いませんよ」
「私も、問題なし(の〜ぷろぶれむ)」
「そうですね、単独でやるのもキツいし、それで良いですよ」
恵先輩がそう尋ねて来たので、静先輩、のどか先輩、僕はそう答えた。
「うちの方も良いわよ」
「じゃあ、決定ね」
恵先輩がそう言うと、翠先輩がニヤリとしながらそう言った。
そして、その笑顔を見て何かを察したのか、恵先輩もニヤリと笑った。
僕はのちに、二人の笑顔の意味を、身を持って知る事になる。




