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第70話 文化祭の準備1

 ある日の放課後。



 今日は珍しく、有佐先輩が放課後に来ている。


 それで、僕と有佐先輩の二人で、カウンターに座っている所だ。


 僕は、数日前に衣替えが済んで冬服になったけど、まだ昼間は暑いので、上着を脱いで座っている。


 そうやって、カウンターにいると、誰かがカウンターに近づく気配がする。


 そう思い、その方向を見ると、そこには翠先輩がいた。


 僕は、翠先輩の姿を見ると、反射的に脱出体勢に入る。



 「ああっ、ちょっと待って、あーちゃん。

今日は本当に何もしないわよ。」


 「本当ですか?」


 「本当に、本当、だから逃げないでね」



 逃げようとする僕を、翠先輩が必死で(なだ)める。



 「で、今日は何ばしに来たとね?」


 「うん、今日は、手芸部部長として、読書部に提案があるから来たのよ」


 「じゃあ、私は関係なかね。

あーちゃん、翠と一緒に行かんね」



 有佐先輩がそう尋ねると、翠先輩がそう答えたので、関係ない有佐先輩にカウンターの方を頼むと、僕は翠先輩と一緒に準備室に入った。



 ***************



 中に入ると、恵先輩、静先輩、のどか先輩の3人が本を読んでいた。



 「あれ、翠、今日はどうしたのよ」


 「うん、今日は、手芸部部長として、読書部に提案があって来たの」



 今度は、恵先輩が尋ねて、翠先輩が答えた。


 しかし、何かを期待していた、静先輩とのどか先輩の二人は、見るからに落胆した様子だった。



 「それで、何かしら?」


 「文化祭の出し物を、手芸部と読書部の共同でしない、と言う事をね。

手芸部も読書部も、実働の部員が少ないから、お互い単独でやるのは無理だから」



 そうなのだ手芸部も、読書部同様、幽霊部員の巣窟(そうくつ)なのだ。


 この学校は、建前上は、全生徒が部活に強制的に入らないといけないが。

しかし、実際には、色々と抜け道があるのだ。


 その中で一般的なのは、不人気な部活に籍だけ置いて、幽霊部員となる事だ。


 これは、受け入れる部活の方も、人数不足により廃部を避ける事が出来るので、両者メリットがあるのだが。


 それでも肝心の実働の部員がいなければ、天文部の様に廃部の危機に立つのには、代わりは無いのだけど。


 この様な部活は、文化系に多い、運動系は活動をしてるかどうかが、一目瞭然(いちもくりょうぜん)だから



 「まあ、それもそうね」


 「うちの方は既に、全員の賛成をもらって。

後は、読書部側の返事しだいだね」



 と、恵先輩と翠先輩が、そんな事を話している。



 「じゃあ、みんなはどうする?」


 「私は、別に構いませんよ」


 「私も、問題なし(の〜ぷろぶれむ)」


 「そうですね、単独でやるのもキツいし、それで良いですよ」



 恵先輩がそう尋ねて来たので、静先輩、のどか先輩、僕はそう答えた。



 「うちの方も良いわよ」


 「じゃあ、決定ね」



 恵先輩がそう言うと、翠先輩がニヤリとしながらそう言った。


 そして、その笑顔を見て何かを察したのか、恵先輩もニヤリと笑った。


 僕はのちに、二人の笑顔の意味を、身を持って知る事になる。



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