第69話 図書室で誘惑1
ある日の昼休み時間。
僕は一人でカウンターに座っていた。
残りのメンバーは準備室で、入荷した新刊本の整理をしている。
最近は、もう空調を入れる事も無く、その為、前程の人影を見る事も無くなって、また以前の様に、ガラ〜ンとした状況に戻った。
そんな中で、備品の整理をしていると。
「すいませ〜ん」
と言う声が聞こえた。
見ると、一人の女生徒がこちらを見ている。
その姿は、ショートカットの髪型で、ややツリ目で八重歯が見える顔立ちをしており、全体的にやや細身の体格と相まって、猫科の動物の印象を与えている。
上靴の色を見ると2年生で、上級生である。
「ちょっと、お願いしたい事があるの。
一緒に来てくれない」
「何が有るんですか?」
「こちらに来たら分かるわよ」
「?」
そんな事を言いながら、妖しい笑みを浮かべる、猫っぽい女の子。
彼女の言うがままに、その後を付いて行く。
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彼女の後に付いて行くと、図書室の奥の、周りからは死角になる場所に来た。
「それで、何があるんですか?」
僕がそう言うと、その猫っぽい女の子が。
「ねえ、私と良い事してくれない」
「えっ!」
その女の子が妖しい笑みを浮かべながら、そう言いながら僕に迫って来た。
「始めて見た時から、食べちゃいたい位に可愛いと思ったの。
それに、あなたは、"読書部のペット”とか、”愛玩動物と書いて、かわいがるいきものと呼ぶ”とか言われてるじゃない」
「噂によると、それ位、上級生達に色々と(・・・)可愛がられているらしいね。
だ・か・ら、私も可愛がっても良いよね。
伊倉秋人・く・ん」
その妖しさに押されて後ずさりをするが、直ぐに背後に壁に突き当たる。
「そんなに、警戒しなくてもいいのに、痛い事はしないよ」
ふふふ、と笑みを浮かべる、女の子。
すると、彼女は右手を上げ、指先を僕の胸板に当てた。
それから、指先を円を描く様にして、僕の胸に滑らせる。
そうされると、くすぐったさと気持ちよさが合わさった様な感覚が、体中に駆け抜けて行く。
「秋人くん、あなたって女の子みたいに可愛い顔をしてるのに、脱いだら凄いのね。
夏のプール授業の時にあなたを見たら、細いのに引き締まった、良い体をしているから驚いたよ」
と言いながら、今度は手の平で、僕の胸板を撫でる。
それは、手の平全体で密着させて、滑らせる様にしてである。
その行為は、僕の筋肉の感触を、そうやって味わうかのような印象を与えていた。
「ふふふっ」
僕を妖しげな光を宿した瞳で見詰めながら、今度は僕に密着してくる。
両手を僕の背中に廻し、頬を僕の首筋に当てる様にくっ付いた。
「お姉さんが、一杯可愛がってあげるね」
そう言って、顔を上げて僕を見詰めていると。
「あーちゃん、ドコにいるの?」
静先輩が僕を呼ぶ声が聞こえる。
「あーあ、良い所だったのに」
それを聞いて、残念そうな口調で女の子が言った。
「それじゃあね、また今度続きをしましょう」
そう言って、その場を立ち去る、女の子。
僕は立ち去る彼女の後ろ姿を、呆然としながら見送った。




