第68話 天然天使とお弁当5
ある日の昼休み。
「キ〜ンコ〜ン、カ〜ンコ〜ン」
4時限目終了の鐘が鳴った。
いつもの様に、教室を出て食堂へと向かう。
「ん、あれは?」
食堂へ向かう途中で、良く見た事がある姿を見かけた。
前髪を切り揃えて、髪を肩まで伸ばしたその後ろ姿は、麗子先輩だった。
「麗子先輩!」
「あれ、あーちゃん!」
僕が先輩を呼ぶと、先輩がそれに答える。
先輩は、可愛い包の小さな弁当箱を持っていた。
「今から、食事ですか」
「うん、食堂にね。
あーちゃんこそ、どこに行くの?」
「はい、購買でパンを買って、食堂で食べようと思ってます」
「じゃあ、一緒に食べない?」
「良いんですか」
「うん、私は構わないわよ」
そう言う訳で、先輩と一緒に昼食を取る事になった。
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「スイマセン、お待たせしました」
パンを買っている間中、待っていてくれた先輩に、お礼を言った。
「ううん、良いのよ、さあ食べましょうか」
そう先輩が言うと、僕は先輩の向かいの席に座った。
先輩が弁当の包を解いて、弁当箱の蓋を取る。
そして、”いただきます”と言った後で、箸を付ける。
先輩の弁当を見てみると、中身は、だし巻き玉子、ミニハンバーグ、ウインナー、ベーコン巻など、弁当としてはオーソドックスである。
「先輩、自分で作っているですか」
「うん、冷凍食品が多いから、別に大した事は無いよ」
「それでも、自分で作っているのだから、偉いですよ」
「そんな事無いよ」
先輩が照れたように言った。
そして自分は、パンの包装を破いて、それを両手で持って”モグモグ”と頬張って食べていると。
なぜか、先輩がニコニコしながら僕の事をみている。
「先輩、どうしたんですか」
「うん、あーちゃんの食べる姿がかわいいから見ていたの。
静とのどかの言う通り、両手で持って頬張って食べていると、本当にリスみたい。」
・・・僕は赤くなりながら、パンを食べた。
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「先輩って、部活はどこですか?」
この学校は、建前上は一応、全生徒が部活に必ず入っていなければならない。
しかし、成績との絡みで、塾などに行かないとイケナイ場合も多いので、実際は色々と抜け道があるのだ。
ちなみに、有佐先輩は料理部に席を置いているが、家の家事を一手に引き受けている上、その合間に図書委員もしているので、事実上、幽霊になってしまっている。
「私は天文部だけど、あそこは・・・」
先輩が言いよどんだのは、天文部は読書部と同じ幽霊だらけだけど、真面目に活動しようとする人間が全くいない為、部活としては全然、機能していない部だからである。
現部長が一人で頑張っているが、来年は存続しているかどうか、全く分からない。
「今は、私が行ってみても、誰もいないし」
最近では、その部長も心が折れたらしく、部活に全く出てこない様だ。
「でも、読書部が羨ましいな。
あんなに楽しそうだから」
本当に羨ましそうに言う、先輩。
「ごめんね、話し込んでしまって」
見ると、二人共食べ終わって、先輩は弁当箱も片付けたところだ。
「じゃあ、図書室に行きましょうか」
そう言って、先輩が立ち上がった。
それと同時に、僕も立ち上がる。
「少し急ぎましょう、時間を喰っちゃたんで」
僕は、そう言いながら、二人で図書室へと急いだ。




