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第66話 不安な天然天使

いつも以上に、良く出来ませんでした。

 ある日の放課後。



 今日は、僕と恵先輩の二人で図書室にいる。


 静先輩、のどか先輩、麗子先輩は、川尻先生を共に職員室で資料の整理を手伝いに行った。


 とりあえず、僕がカウンターで貸出の対応をする事にして、恵先輩は準備室で待機している


 しばらくの間、僕はカウンターで本を読んで、来るかどうか分からない希望者を待つ事にした。




 ****************



 しばらくして僕は、準備室に先輩の様子を見に行くと、先輩が頭を抱えていた。


 いつもは、頭の後ろで揺れているポニーテールが、俯いている為に天井の方を向いている。


 先輩は、普段とは違い、憔悴(しょうすい)しきった雰囲気を漂わせていた。



 「どうしたんですか、先輩」



 僕は心配になって、先輩に尋ねてみた。




 「うんん、何でも無いわ」


 「でも、元気が・・・」


 「何でも無いわ!」



 先輩が感情を向き出しにして、叫んだ。



 「すいませんでした・・・」



 僕は先輩に謝ると、準備室を出る事にした。



 ****************



 また、それからしばらくして、先輩が俯きながら準備室から出て来た。



 「ごめんなさい、あーちゃん。

ちょっと、こっちに来ない、話したい事があるの」



 そう言って、僕を準備室に誘う。


 そう言う先輩に答える様に、僕も先輩と一緒に準備室に入る。



 ****************



 準備室に入ると、先輩がこちらを向いて、話し出した。



 「最近、不安で、不安で(たま)らないのよ」


 「えっ!」



 1学期の頃の、余裕のある状態の先輩を、知っている人間からすると信じられない言葉だった。



 「1学期の時はマイペースでやっていたし、自分のやっている事に何の不安は無かった。

でも、夏休み前に、ちょっと勉強量を増やす出してからおかしくなったのよ」



 そうだ、夏休み前位から、先輩の様子がおかしく成り出したんだ。



 「最初は、ちょっと気になる位の失敗だったけど、克服の為に量を増やしたら、ナカナカ上手く出来なくて、段々不安になって来たの。」


 「それで、不安を払拭(ふっしょく)しようとまた量を増やしたら、自分が思っていた以上には出来なくて、益々不安になって来たのよ。

もう、どうしたら良いのか分からない!」



 そうか、先輩はある意味、生真面目だから。

ちょっとした事から、負の無限ループに落ち込んだんだ。



 「家庭教師からも、押さえる様に言われているけど、自分でも押さえられ無いのよ」



 そう言って、とうとう泣き出してしまった。


 その姿は、普段の先輩の姿からは考えられない程、弱々しく(はかな)い。


 その姿を見かねて、僕は先輩を思わず抱き締めてしまった。


 出来る限り、体全体で包み込む様にして、抱き締めた。



 「あ、あーちゃん」


 「僕では頼りないかもしれないけど、今だけでも、不安を癒せるかもしれません。

だから、このまま泣いても構わないよ、おねえちゃん」



 僕がそう言うと、先輩が僕の首筋に頭を付けて、静かに泣いた。


 そうして、しばらくそうしていると、先輩から(かす)かな泣き声が聞こえ無くなった。


 不思議に思い先輩を見ると、いつも間にか泣き寝入ってしまっていた。


 つまり、僕に抱かれながら眠っているのだ。


 眠った先輩を、お姫様抱っこで抱き上げて。

それから長椅子の方に向かった。


 長椅子に着くと、お姫様抱っこのままで、座り込む。


 すると、丁度、僕の上に横座りで乗っかっている状態になる。


 僕は先輩を抱いた状態で、先輩の背中を擦りながら、その状態で起きるまで待つことにした。



 ****************



 ・

 ・・

 ・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・


 ・・・ん。


 何だか、暖かくて弾力が有る物に包まれていた。


 それは、クッションが利いた、ソファの様だがそれとも違う。


 腫れぼったい(まぶた)を開けると、私を覗き込む、あーちゃんの顔があった。


 しかし、私の状況を良く見てみると。

私は、あーちゃんの上に横座りの状態で抱き締められたまま、眠っていたのだ。


 私はそれに気付くと、頬が熱くなるのを感じた。



 「大丈夫ですか?」



 だが、そんな状況でうろたえてるいると、私を気遣う声が聞こえた。


 その声に反応すると、優しい眼差しであーちゃんが、私を見詰めている。


 私を見詰める、その瞳を見ていると、胸の奥に有った焦燥感(しょうそうかん)が収まって、まるで()いだ水面の様に心が静まって行くを感じた。



 「うん、まだ不安感はあるけど、それを受け止められるだけの余裕が出来たよ。

これも、あーちゃんのおかげだよ、ありがとうね」



 そう言って、あーちゃんに微笑むと、あーちゃんは照れたように視線を外した。


 ん、図書室に誰かが来たみたいだ、多分、3人が帰ってきたのだろう。



 「あーちゃん、3人が帰って来たよ。

ほら、立ち上がって、心配されるからね」



 私は、まだ照れてる、あーちゃんに笑いながらそう言った。


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不思議な先輩女子と、平凡な後輩男子との不思議な話。
夏の涼風
姉弟物の短編を取り揃えていますので、どうか、お越し下さい。
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