第66話 不安な天然天使
いつも以上に、良く出来ませんでした。
ある日の放課後。
今日は、僕と恵先輩の二人で図書室にいる。
静先輩、のどか先輩、麗子先輩は、川尻先生を共に職員室で資料の整理を手伝いに行った。
とりあえず、僕がカウンターで貸出の対応をする事にして、恵先輩は準備室で待機している
しばらくの間、僕はカウンターで本を読んで、来るかどうか分からない希望者を待つ事にした。
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しばらくして僕は、準備室に先輩の様子を見に行くと、先輩が頭を抱えていた。
いつもは、頭の後ろで揺れているポニーテールが、俯いている為に天井の方を向いている。
先輩は、普段とは違い、憔悴しきった雰囲気を漂わせていた。
「どうしたんですか、先輩」
僕は心配になって、先輩に尋ねてみた。
「うんん、何でも無いわ」
「でも、元気が・・・」
「何でも無いわ!」
先輩が感情を向き出しにして、叫んだ。
「すいませんでした・・・」
僕は先輩に謝ると、準備室を出る事にした。
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また、それからしばらくして、先輩が俯きながら準備室から出て来た。
「ごめんなさい、あーちゃん。
ちょっと、こっちに来ない、話したい事があるの」
そう言って、僕を準備室に誘う。
そう言う先輩に答える様に、僕も先輩と一緒に準備室に入る。
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準備室に入ると、先輩がこちらを向いて、話し出した。
「最近、不安で、不安で堪らないのよ」
「えっ!」
1学期の頃の、余裕のある状態の先輩を、知っている人間からすると信じられない言葉だった。
「1学期の時はマイペースでやっていたし、自分のやっている事に何の不安は無かった。
でも、夏休み前に、ちょっと勉強量を増やす出してからおかしくなったのよ」
そうだ、夏休み前位から、先輩の様子がおかしく成り出したんだ。
「最初は、ちょっと気になる位の失敗だったけど、克服の為に量を増やしたら、ナカナカ上手く出来なくて、段々不安になって来たの。」
「それで、不安を払拭しようとまた量を増やしたら、自分が思っていた以上には出来なくて、益々不安になって来たのよ。
もう、どうしたら良いのか分からない!」
そうか、先輩はある意味、生真面目だから。
ちょっとした事から、負の無限ループに落ち込んだんだ。
「家庭教師からも、押さえる様に言われているけど、自分でも押さえられ無いのよ」
そう言って、とうとう泣き出してしまった。
その姿は、普段の先輩の姿からは考えられない程、弱々しく儚い。
その姿を見かねて、僕は先輩を思わず抱き締めてしまった。
出来る限り、体全体で包み込む様にして、抱き締めた。
「あ、あーちゃん」
「僕では頼りないかもしれないけど、今だけでも、不安を癒せるかもしれません。
だから、このまま泣いても構わないよ、おねえちゃん」
僕がそう言うと、先輩が僕の首筋に頭を付けて、静かに泣いた。
そうして、しばらくそうしていると、先輩から微かな泣き声が聞こえ無くなった。
不思議に思い先輩を見ると、いつも間にか泣き寝入ってしまっていた。
つまり、僕に抱かれながら眠っているのだ。
眠った先輩を、お姫様抱っこで抱き上げて。
それから長椅子の方に向かった。
長椅子に着くと、お姫様抱っこのままで、座り込む。
すると、丁度、僕の上に横座りで乗っかっている状態になる。
僕は先輩を抱いた状態で、先輩の背中を擦りながら、その状態で起きるまで待つことにした。
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・・・ん。
何だか、暖かくて弾力が有る物に包まれていた。
それは、クッションが利いた、ソファの様だがそれとも違う。
腫れぼったい瞼を開けると、私を覗き込む、あーちゃんの顔があった。
しかし、私の状況を良く見てみると。
私は、あーちゃんの上に横座りの状態で抱き締められたまま、眠っていたのだ。
私はそれに気付くと、頬が熱くなるのを感じた。
「大丈夫ですか?」
だが、そんな状況でうろたえてるいると、私を気遣う声が聞こえた。
その声に反応すると、優しい眼差しであーちゃんが、私を見詰めている。
私を見詰める、その瞳を見ていると、胸の奥に有った焦燥感が収まって、まるで凪いだ水面の様に心が静まって行くを感じた。
「うん、まだ不安感はあるけど、それを受け止められるだけの余裕が出来たよ。
これも、あーちゃんのおかげだよ、ありがとうね」
そう言って、あーちゃんに微笑むと、あーちゃんは照れたように視線を外した。
ん、図書室に誰かが来たみたいだ、多分、3人が帰ってきたのだろう。
「あーちゃん、3人が帰って来たよ。
ほら、立ち上がって、心配されるからね」
私は、まだ照れてる、あーちゃんに笑いながらそう言った。




