第60話 最初で最後のデート、そして別れ
今回は、いつもの二倍以上も疲れました。
夏休みのある土曜日。
約束の時間は、10時だから、10時10分前に着く予定で学校に向かう。
学校に着いて玄関に向かうと、ん、あれ、あそこで待っている人影は?
ひょっとしたら、遅れたのかと慌てる。
「すいません、遅れました」
「うんん、私も今着いた所だから」
僕が謝ると、良子先輩がそう答えた。
「うふふ、昔から憧れていたの、こんな場面に。
“彼が遅れて来たから謝るの、それで私も今着いたからいいの"って言うのに」
「先輩・・・」
「実は、あーちゃんは遅れていませんでした。
私がこうしたいから、ワザと早く出て来たのよ」
「もお、先輩は〜」
僕のその言葉を聞いて、先輩が笑った。
また、先輩に遊ばれたなあ。
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二人で校内を歩く。
この間の散歩と同じようだが、しかし、先輩が僕と腕を絡ませて、頭を僕の肩に乗せたり、この密着感が全然違う。
そうして二人で歩いていると、ちょっと休憩しようと思い、先輩に言ってみた。
「先輩、ちょっと休憩しませんか」
「うん、いいわよ」
と先輩が答えてくれたので、適当な所を探すと、渡り廊下の校舎側にある休憩所にベンチがある。
二人でそこに座ると、近くにある自販機を指差して言う。
「先輩、何か飲みませんか?」
「ごめんね、私、こんな体だから、飲み食いが出来ないの」
申し訳なさそうに言うので、僕は一人だけ、紙コップに入ったジュースを買って飲んでいると、先輩がその姿をジッと見詰める。
先輩から見詰められながら、居心地の悪さを感じつつジュースを飲む。
ジュースを飲み終えると、先輩が。
「あーちゃん、それ頂戴」
と、空の紙コップを指差すので、先輩に渡すと。
その紙コップの自分が口を付けた所に、唇を持って行き、それからその部分を口に含んだ。
「うふふ、間接キス」
その言葉を聞くと、頬が熱くなった。
「本当は、あーちゃんとキスしたかったけど。
でも、あーちゃんは生きている女の子とした方が良いよ。
私はこれで十分だから」
・・・先輩。
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それからまた、ふたりで密着しながら歩いた。
お昼になり、空腹になったけど、昼の事を考えていなかったので。
僕は、先輩に断ってから、外にパンを買いに出た。
結局その間、先輩を一人で待たせる事になり、雰囲気を壊したが、先輩は。
「仕方がないね」
微笑みながら、許してくれた。
それから、校庭の隅にある木の下に向かう。
木陰に入ると、コンビニで買ったレジャーシートを広げて、その上で買って来たサンドウイッチを食べようとしたら。
「あーちゃん、ちょっと待って」
と、先輩が言いながら、サンドウイッチを僕から取り上げる。
それから、そのサンドウイッチを僕に向けて。
「はい、あーん」
先輩がそう言った。
僕は照れながら、そのサンドウイッチにパクついた。
「おいしい?」
「はい、おいしいです」
先輩がそう言うので、僕はそう答えた。
それを聞いて、先輩が嬉しそうにしていた。
でも先輩、これ店で買って来た物なんですが・・・。
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昼を食べた後、レジャーシートの上で、先輩に膝枕をしてもらったり、逆に先輩に腕枕をしてやったりして。
しばらくの間、二人でゴロゴロしていた。
それから、土曜なので文化部は休みだけど、運動部で練習しているのを二人でくっ付きながら、見物して。
(でも、先輩が見えないから、一人で見ている様にしか見えないだろうな)
そうこうしている内に、もう夕方になった。
運動部も撤収して、誰もいなくなった運動場の片隅で、先輩の肩を抱きながら僕は一緒に夕日を見ていた。
二人共、口にしなくても、何となく別れの時が近づいたのを、感じている。
「ねえ、あーちゃん、最後に抱き締めて。
夕方の校庭で、男の子と二人で抱き合う場面に憧れていたから。
あーちゃんの腕の中で、天に上りたいの」
「せんぱい・・・」
「本当は、キスしてもらいたかったけど、でも、あーちゃんは生きている女の子とした方が良いからね」
その言葉を聞いた途端、僕は先輩をキツく抱きしめていた。
「・・・あーちゃん」
それから、先輩も負けない位に力で抱き返す。
いつの間にか、知らない内に二人は涙を流していた。
しばらくそうしていると、急に、先輩の感触が段々無くなっていく。
見ると、先輩の姿も段々薄らいで見える。
「もう、お別れの時ね、それじゃあ、あーちゃん元気でね。
あの世から、あなたの事を見守っているから」
「せんぱい!せんぱい!」
僕は涙を流しながら、叫んだ。
先輩の姿は、もう殆ど消えかかっている。
「あーちゃん、今度生まれ変わったら、あなたの近くに生まれるから」
「せんぱーーい!」
その叫びを最後に、先輩は消えてしまった。
その後、僕はしばらく呆然としていたが、気がつくと空を見上げて一言言った。
「どうか、あの世でも幸せになって下さい」
こうして、僕の奇妙な夏休みは終わったのだった。




