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第60話 最初で最後のデート、そして別れ

今回は、いつもの二倍以上も疲れました。

 夏休みのある土曜日。



 約束の時間は、10時だから、10時10分前に着く予定で学校に向かう。


 学校に着いて玄関に向かうと、ん、あれ、あそこで待っている人影は?


 ひょっとしたら、遅れたのかと慌てる。



 「すいません、遅れました」


 「うんん、私も今着いた所だから」



 僕が謝ると、良子先輩がそう答えた。



 「うふふ、昔から憧れていたの、こんな場面に。

“彼が遅れて来たから謝るの、それで私も今着いたからいいの"って言うのに」


 「先輩・・・」


 「実は、あーちゃんは遅れていませんでした。

私がこうしたいから、ワザと早く出て来たのよ」


 「もお、先輩は〜」



 僕のその言葉を聞いて、先輩が笑った。


 また、先輩に遊ばれたなあ。



 ***************



 二人で校内を歩く。


 この間の散歩と同じようだが、しかし、先輩が僕と腕を絡ませて、頭を僕の肩に乗せたり、この密着感が全然違う。


 そうして二人で歩いていると、ちょっと休憩しようと思い、先輩に言ってみた。



 「先輩、ちょっと休憩しませんか」


 「うん、いいわよ」



 と先輩が答えてくれたので、適当な所を探すと、渡り廊下の校舎側にある休憩所にベンチがある。


 二人でそこに座ると、近くにある自販機を指差して言う。



 「先輩、何か飲みませんか?」


 「ごめんね、私、こんな体だから、飲み食いが出来ないの」



 申し訳なさそうに言うので、僕は一人だけ、紙コップに入ったジュースを買って飲んでいると、先輩がその姿をジッと見詰める。


 先輩から見詰められながら、居心地の悪さを感じつつジュースを飲む。


 ジュースを飲み終えると、先輩が。



 「あーちゃん、それ頂戴」



 と、空の紙コップを指差すので、先輩に渡すと。


 その紙コップの自分が口を付けた所に、唇を持って行き、それからその部分を口に含んだ。



 「うふふ、間接キス」



 その言葉を聞くと、頬が熱くなった。



 「本当は、あーちゃんとキスしたかったけど。

でも、あーちゃんは生きている女の子とした方が良いよ。

私はこれで十分だから」



 ・・・先輩。



 ****************



 それからまた、ふたりで密着しながら歩いた。


 お昼になり、空腹になったけど、昼の事を考えていなかったので。


 僕は、先輩に断ってから、外にパンを買いに出た。


 結局その間、先輩を一人で待たせる事になり、雰囲気を壊したが、先輩は。



 「仕方がないね」



 微笑みながら、許してくれた。


 それから、校庭の隅にある木の下に向かう。


 木陰に入ると、コンビニで買ったレジャーシートを広げて、その上で買って来たサンドウイッチを食べようとしたら。



 「あーちゃん、ちょっと待って」



 と、先輩が言いながら、サンドウイッチを僕から取り上げる。


 それから、そのサンドウイッチを僕に向けて。



 「はい、あーん」



 先輩がそう言った。


 僕は照れながら、そのサンドウイッチにパクついた。



 「おいしい?」


 「はい、おいしいです」



 先輩がそう言うので、僕はそう答えた。


 それを聞いて、先輩が嬉しそうにしていた。


 でも先輩、これ店で買って来た物なんですが・・・。



 ***************



 昼を食べた後、レジャーシートの上で、先輩に膝枕をしてもらったり、逆に先輩に腕枕をしてやったりして。

しばらくの間、二人でゴロゴロしていた。


 それから、土曜なので文化部は休みだけど、運動部で練習しているのを二人でくっ付きながら、見物して。


 (でも、先輩が見えないから、一人で見ている様にしか見えないだろうな)


 そうこうしている内に、もう夕方になった。


 運動部も撤収して、誰もいなくなった運動場の片隅で、先輩の肩を抱きながら僕は一緒に夕日を見ていた。


 二人共、口にしなくても、何となく別れの時が近づいたのを、感じている。



 「ねえ、あーちゃん、最後に抱き締めて。

夕方の校庭で、男の子と二人で抱き合う場面に憧れていたから。

あーちゃんの腕の中で、天に上りたいの」


 「せんぱい・・・」


 「本当は、キスしてもらいたかったけど、でも、あーちゃんは生きている女の子とした方が良いからね」



 その言葉を聞いた途端、僕は先輩をキツく抱きしめていた。



 「・・・あーちゃん」



 それから、先輩も負けない位に力で抱き返す。


 いつの間にか、知らない内に二人は涙を流していた。


 しばらくそうしていると、急に、先輩の感触が段々無くなっていく。


 見ると、先輩の姿も段々薄らいで見える。



 「もう、お別れの時ね、それじゃあ、あーちゃん元気でね。

あの世から、あなたの事を見守っているから」



 「せんぱい!せんぱい!」



 僕は涙を流しながら、叫んだ。


 先輩の姿は、もう殆ど消えかかっている。



 「あーちゃん、今度生まれ変わったら、あなたの近くに生まれるから」


 「せんぱーーい!」



 その叫びを最後に、先輩は消えてしまった。


 その後、僕はしばらく呆然としていたが、気がつくと空を見上げて一言言った。



 「どうか、あの世でも幸せになって下さい」



 こうして、僕の奇妙な夏休みは終わったのだった。


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不思議な先輩女子と、平凡な後輩男子との不思議な話。
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