第59話 遠い昔の天然天使4
夏休みのある日。
今日の当番は、一人の予定である。
もう、8月も後半で、残り少なくなったなあ。
そう思いながら、勉強で疲れた目を休ませてようと、目を閉じながら、準備室の長椅子に寄りかかる。
そうして、リラックスしていると、突然、何かが膝の上に乗って来た。
ビックリして見てみると、そこには、良子先輩が背中を見せて、乗っていたのだ。
「ごめんなさい、ビックリした?」
悪戯が成功した子供の様な笑顔を見せながら、先輩がこちらを見て、そう言う。
流石にいつも、からわれている居たのでムッとしてしまい、そのお返しに先輩を後ろから抱きしめる
「キャッ!」
先輩が、可愛らしい叫び声を上げた。
「いつも、ビックリされられているので、お返しですよ」
そう言いながら、僕は先輩の右肩に顎を乗せる。
「もお〜、あーちゃんは」
そうは言っているが、僕の乗せた頭に左手を持って行き、それから僕の頭を撫で出した。
その手の気持ち良さに、僕は先輩の右頬に自分の左頬をくっ付けて、そして、抱きしめる腕の力を強めたり緩めたりを繰り返す。
これには先輩もまんざらでも無さそうで、こんどは先輩が左手を僕の右頬に当てて、それから押し付けるようにして、お互いの頬をもっと密着させた。
「あーちゃんて、意外に甘えん坊だね」
先輩がそう言って、僕の頬に頬ずりをする。
頬ずりと言っても、頬同士を密着させながら動かして、お互いの頬のプニプニ感を味わっていた。
「でも、そんなあーちゃんは可愛いなあ」
そう言いながら、先輩が右手を廻した僕の腕に添える。
こんな風にして、二人でお互いの感触を、しばらく楽しんだ。
****************
そうして、二人でマッタリしていると、先輩がイキナリこう言った。
「ねえ、あーちゃん、今度の土曜日に、デートしない?」
「え、一体どこに行くんですか?」
突然の内容に、僕は思わず聞き返した。
「デートって言っても、私はこの学校から出られないから、この学校でね」
「それって、この間の散歩(第55話参照)と違うのですか?」
「この間のは、ただ二人で歩いただけじゃない、こんどのは、二人で歩きながら、イチャイチャラブラブするのよ」
しかし、この人?は、変な所だけは今風なんだから・・・。
「でも、なんで急にそんな事を言うんですか?」
「・・・もうすぐ、天に上りそうなの」
「何か急ですね・・・」
「うん、あーちゃんと関わっている内に、私の心残りがほとんど無くなって、後はデートするだけなの」
そうなのか、何だか寂しくなるけど、この人は本来ここにいてはイケナイ人なんだから。
せめて、安らかに成仏できるようにしないと。
「それで、あーちゃんは私とデートするのかな?」
黙っていたら、先輩が不安そうに聞いてきた。
「はい、当然、デートをしますよ。
それで、何時に待ち合わせればいいんですか?」
「うん、ありがとう。
そうね、朝の10時に玄関の所で良い?」
「はい、それでいいですよ」
「それじゃあ、朝の10時に玄関の所で合いましょう」
そう言いながら、先輩が僕にもたれ掛かって来た。
こうして、先輩と最初で最後の、デートをする事になった。




