第58話 天然天使とお弁当4
夏休みのある日。
今日は、有佐先輩と一緒に、貸出の応対をする当番の日だ。
有佐先輩は、普段から家の家事を一人でやっているが。
夏休み中は、特に弟さんが家にいる為に、ナカナカ図書室に出て来れない。
けど、ここ数日は、弟さんが小学校のサマーキャンプで、どこかの山奥に行っているそうだ。
なので、先輩の当番は、この数日に集中して組まれている。
「あーちゃん、今日のお昼、どぎゃんするとね」
「はい、今日も、外のコンビニに、買いに行こうかと思っています」
夏休みに学校に出て来た時は、いつも、コンビニでパンでも買っているけど。
なぜか、来るときに買うのを忘れて、いつも昼に買いに出るのが多かった。
だから、もう最初から、昼に買いに出ることにしている。
「んふふ、こぎゃんか事もあろうかと思ーて、あーちゃんの分も作って来たったい」
「え、本当ですか!」
「どぎゃんね、食べん?」(どう、食べる?)
「食べます、食べます、ありがとうございます」
僕は、先輩に手を合わせてお礼を言った。
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昼休み時間になった。
僕たちは、図書室の扉を詰めて、扉の標識を"閉館中”のプレートと入れ替える。
それから、お昼を食べに、外へと向かった。
玄関で靴を履き替えると、校庭に隅にある大木の下に向かう。
そこは日陰であるのに加え、涼しい風が吹いていた。
「さあ、ここで食っかね」
準備が良い事に、先輩はレジャーシートを用意していた。
それを敷くと、先輩と僕は、向かい合わせで座った。
「はい、どうぞ」
そう言いながら、大きめの弁当箱を僕に渡した。
「いただきます」
弁当箱を開けると、だし巻き玉子、ミニハンバーグ、ポテトサラダ、一口カツなど、割とオーソドックスだけど。
先輩が普段は、前の日の残り物を使う事が多い事を考えると、今日はかなり気合を入れたようだ。
「今日は、気合が入ってますね」
「うん、今日はあーちゃんに食べさするけん、いつもよりも早起きしたったい」
そう言って笑う、有佐先輩。
箸を取って、その中から、だし巻き玉子を摘んで口の中に入れると、塩辛過ぎず、甘過ぎず、丁度いい加減の味だった。
「とても、おいしいですよ」
「ありがとうね」
その言葉を聞いて、とても嬉しそうにした先輩。
僕はその美味しさに、箸が進んだ。
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「ごちそうさま、とてもおいしかったですよ」
「ふふふ、その言葉ば聞けて、ほんなこつ嬉しかね」
そう言って、空の弁当箱を先輩に返した。
それを先輩がニコニコしながら、受け取る。
弁当箱を受け取った後、先輩が言った。
「あーちゃん、ちょっと背中ば見せてんね」
「?」
奇妙に思いながら、僕は先輩に背中を見せる。
先輩に背中を見せると、先輩が。
「それっ!」
「わっ!」
僕の頭を掴んで、後ろに引っ張る。
そうすると僕の頭が、先輩の正座している脚の間に、置かれた。
それは誰がどう見ても 膝枕の状態である。
「・・・先輩」
「ビックリした、ゴメンね。
ちょっと、悪戯ばしたったい」
そう言いながら、微笑みながら僕の顔を覗き込み、同時に頬を撫でる先輩。
「時間が来たら起こすけん、このまま寝とらんね」
「・・・すいません、お願いします」
満腹の胃袋、吹く風の涼しさ、頭の下に感じる柔らかさ、そして、頬を撫でる手の優しさ。
これらを感じていると、安心感と共に眠気が襲って来た。
お言葉に甘えて、僕はこのまま先輩の膝枕で寝る事にする。
そして僕は、安らぎの海に、そのまま沈んで行った。




