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第58話 天然天使とお弁当4

 夏休みのある日。



 今日は、有佐先輩と一緒に、貸出の応対をする当番の日だ。


 有佐先輩は、普段から家の家事を一人でやっているが。

夏休み中は、特に弟さんが家にいる為に、ナカナカ図書室に出て来れない。


 けど、ここ数日は、弟さんが小学校のサマーキャンプで、どこかの山奥に行っているそうだ。


 なので、先輩の当番は、この数日に集中して組まれている。



 「あーちゃん、今日のお昼、どぎゃんするとね」


 「はい、今日も、外のコンビニに、買いに行こうかと思っています」



 夏休みに学校に出て来た時は、いつも、コンビニでパンでも買っているけど。


 なぜか、来るときに買うのを忘れて、いつも昼に買いに出るのが多かった。


 だから、もう最初から、昼に買いに出ることにしている。



 「んふふ、こぎゃんか事もあろうかと(おも)ーて、あーちゃんの分も作って来たったい」


 「え、本当ですか!」


 「どぎゃんね、食べん?」(どう、食べる?)


 「食べます、食べます、ありがとうございます」



 僕は、先輩に手を合わせてお礼を言った。



 *****************



 昼休み時間になった。


 僕たちは、図書室の扉を詰めて、扉の標識を"閉館中”のプレートと入れ替える。

それから、お昼を食べに、外へと向かった。


 玄関で靴を履き替えると、校庭に隅にある大木の下に向かう。


 そこは日陰であるのに加え、涼しい風が吹いていた。



 「さあ、ここで(たぶ)っかね」



 準備が良い事に、先輩はレジャーシートを用意していた。


 それを敷くと、先輩と僕は、向かい合わせで座った。



 「はい、どうぞ」



 そう言いながら、大きめの弁当箱を僕に渡した。



 「いただきます」



 弁当箱を開けると、だし巻き玉子、ミニハンバーグ、ポテトサラダ、一口カツなど、割とオーソドックスだけど。

先輩が普段は、前の日の残り物を使う事が多い事を考えると、今日はかなり気合を入れたようだ。



 「今日は、気合が入ってますね」


 「うん、今日はあーちゃんに食べさするけん、いつもよりも早起きしたったい」



 そう言って笑う、有佐先輩。


 箸を取って、その中から、だし巻き玉子を摘んで口の中に入れると、塩辛過ぎず、甘過ぎず、丁度いい加減の味だった。



 「とても、おいしいですよ」


 「ありがとうね」



 その言葉を聞いて、とても嬉しそうにした先輩。


 僕はその美味しさに、箸が進んだ。



 ****************



 「ごちそうさま、とてもおいしかったですよ」


 「ふふふ、その言葉ば聞けて、ほんなこつ嬉しかね」



 そう言って、空の弁当箱を先輩に返した。


 それを先輩がニコニコしながら、受け取る。


 弁当箱を受け取った後、先輩が言った。



 「あーちゃん、ちょっと背中ば見せてんね」


 「?」



 奇妙に思いながら、僕は先輩に背中を見せる。


 先輩に背中を見せると、先輩が。



 「それっ!」


 「わっ!」



 僕の頭を掴んで、後ろに引っ張る。


 そうすると僕の頭が、先輩の正座している脚の間に、置かれた。


 それは誰がどう見ても 膝枕の状態である。



 「・・・先輩」


 「ビックリした、ゴメンね。

ちょっと、悪戯ばしたったい」



 そう言いながら、微笑みながら僕の顔を覗き込み、同時に頬を撫でる先輩。



 「時間が来たら起こすけん、このまま寝とらんね」


 「・・・すいません、お願いします」



 満腹の胃袋、吹く風の涼しさ、頭の下に感じる柔らかさ、そして、頬を撫でる手の優しさ。


 これらを感じていると、安心感と共に眠気が襲って来た。


 お言葉に甘えて、僕はこのまま先輩の膝枕で寝る事にする。


 そして僕は、安らぎの海に、そのまま沈んで行った。



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不思議な先輩女子と、平凡な後輩男子との不思議な話。
夏の涼風
姉弟物の短編を取り揃えていますので、どうか、お越し下さい。
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