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第57話 遠い昔の天然天使3

 夏休みのある日。



 一人でカウンターで本を読んでいると、目が疲れてので、目を(つむ)りながら顔を上げる。


 それから目を開けると、目の前に人の顔があった。



 「ガタン」



 僕は思わず、後ろの方に後ずさりをする。


 

 「うふふ、ビックリした?」



 カウンター越しに見えた顔は、良子先輩だった。



 「もお、先輩、ビックリさせないでください」


 「ふふふっ、ごめん、ごめん。

あーちゃんを見ていると、つい悪戯したくなるの」



 僕がそう抗議すると、先輩は微笑みながらそう言った。


 後ずさりした状態から、カウンターの方に前進して、カウンターに肘を付くと、僕は先輩にこう言う。



 「先輩、満足しましたか?」


 「うん、そうね・・・」




 途端に、歯切れが悪くなる先輩。



 「結構、満足してきていて、この夏で思い残す事は無いだけど。

昔にはいなかった、こんな可愛い男の子と、別れるのは惜しいかなあ。

でも、今の状態が良いとは思わないけどね」



 それから、先輩は僕の頬に両手を当てながら。



 「永遠にこの学校で、さ迷い歩くのはもうゴメンだから。

だから、協力してね、あーちゃん」



 そう言って、笑う先輩。


 そうだよね死んだ人間が、いつまでもココにいてはイケナイよね。


 僕は、そんな事を思いながら、先輩を見詰めていた。



 ***************



 「普段はどうしているんですか?」



 僕の後ろで、首に抱きつきながら、僕の頭に自分の右頬を付けている先輩に、そう聞いてみると。



 「普段って?」


 「だから、僕がいない時とか、学校が授業中とかですよ」



 ”う〜ん”と(うな)った後で、先輩がこう言った。



 「そうね、誰にも見えないから、色々と徘徊したり。

授業中は、後ろで授業を聞いていたりしてた。

そうそう、私、何回も同じ事を聞いているから、テストで確実に100点を取る自信があるわ。」



 そんな事を、自信たっぷりと言う先輩。



 「後ね、昔、夜中に口裂け女とか人面犬とか、トイレで花子さんにも出会った事もあったね。

でも、不思議な事に、ブームが過ぎると見なくなるのよ」



 ええっ、そうなんですか!



 「どうやら、人々の思いが作った、一種の念の集合体みたい。

だから、誰もその事を考え無くなると、その存在が薄らぐようね」



 へえ〜、なるほど。



 「それから、この学校には、私を同じような物が何体がいるけど。

私と同じで、人畜無害で、それどころか人間に干渉しようとする気は無いみたい。」


 「ひょっして、それが学校の七不思議の元ですか?」


 「多分そうだと思うけど、基本的に私達は、お互い不干渉と言うのが暗黙の了解になっていて。

聞くことが出来ないし、聞いても答えてはくれないね」



 この学校って、そんな事になっているのか・・・。



 「ん、どうしたの、そんな事を聞いて。

そんなに、おねえさんの事が気になるのかな」



 僕の頭に乗せていた頬を下ろして、僕の左頬にくっ付ける先輩。


 それから先輩が、僕の頬に頬ずりをした。



 「ん〜、あーちゃんのほっぺたは、ツルツルすべすべで気持ちいいね。

でも、これで男の子の肌だから、本当にズルいよね」



 そう言いながら、ほっぺとほっぺを、ピッタリと密着させる先輩。


 それからの時間は、ずっと、こんな調子でベタベタしながら、会話をしていた。



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不思議な先輩女子と、平凡な後輩男子との不思議な話。
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