第57話 遠い昔の天然天使3
夏休みのある日。
一人でカウンターで本を読んでいると、目が疲れてので、目を瞑りながら顔を上げる。
それから目を開けると、目の前に人の顔があった。
「ガタン」
僕は思わず、後ろの方に後ずさりをする。
「うふふ、ビックリした?」
カウンター越しに見えた顔は、良子先輩だった。
「もお、先輩、ビックリさせないでください」
「ふふふっ、ごめん、ごめん。
あーちゃんを見ていると、つい悪戯したくなるの」
僕がそう抗議すると、先輩は微笑みながらそう言った。
後ずさりした状態から、カウンターの方に前進して、カウンターに肘を付くと、僕は先輩にこう言う。
「先輩、満足しましたか?」
「うん、そうね・・・」
途端に、歯切れが悪くなる先輩。
「結構、満足してきていて、この夏で思い残す事は無いだけど。
昔にはいなかった、こんな可愛い男の子と、別れるのは惜しいかなあ。
でも、今の状態が良いとは思わないけどね」
それから、先輩は僕の頬に両手を当てながら。
「永遠にこの学校で、さ迷い歩くのはもうゴメンだから。
だから、協力してね、あーちゃん」
そう言って、笑う先輩。
そうだよね死んだ人間が、いつまでもココにいてはイケナイよね。
僕は、そんな事を思いながら、先輩を見詰めていた。
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「普段はどうしているんですか?」
僕の後ろで、首に抱きつきながら、僕の頭に自分の右頬を付けている先輩に、そう聞いてみると。
「普段って?」
「だから、僕がいない時とか、学校が授業中とかですよ」
”う〜ん”と唸った後で、先輩がこう言った。
「そうね、誰にも見えないから、色々と徘徊したり。
授業中は、後ろで授業を聞いていたりしてた。
そうそう、私、何回も同じ事を聞いているから、テストで確実に100点を取る自信があるわ。」
そんな事を、自信たっぷりと言う先輩。
「後ね、昔、夜中に口裂け女とか人面犬とか、トイレで花子さんにも出会った事もあったね。
でも、不思議な事に、ブームが過ぎると見なくなるのよ」
ええっ、そうなんですか!
「どうやら、人々の思いが作った、一種の念の集合体みたい。
だから、誰もその事を考え無くなると、その存在が薄らぐようね」
へえ〜、なるほど。
「それから、この学校には、私を同じような物が何体がいるけど。
私と同じで、人畜無害で、それどころか人間に干渉しようとする気は無いみたい。」
「ひょっして、それが学校の七不思議の元ですか?」
「多分そうだと思うけど、基本的に私達は、お互い不干渉と言うのが暗黙の了解になっていて。
聞くことが出来ないし、聞いても答えてはくれないね」
この学校って、そんな事になっているのか・・・。
「ん、どうしたの、そんな事を聞いて。
そんなに、おねえさんの事が気になるのかな」
僕の頭に乗せていた頬を下ろして、僕の左頬にくっ付ける先輩。
それから先輩が、僕の頬に頬ずりをした。
「ん〜、あーちゃんのほっぺたは、ツルツルすべすべで気持ちいいね。
でも、これで男の子の肌だから、本当にズルいよね」
そう言いながら、ほっぺとほっぺを、ピッタリと密着させる先輩。
それからの時間は、ずっと、こんな調子でベタベタしながら、会話をしていた。




