表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/136

第55話 遠い昔でお散歩

 「・・・うんん」



 いつの間にか眠っていた様だ、冷房が効いてて気持ちが良かったみたいだ。


 ん、何だか部屋の様子がおかしいな。


 まだ、夢の中だろうか。



 「ふふふ、起きた?」



 寝起きの顔を覗き込みながら、良子先輩が可笑(おか)しそうにそう言った。


 周りを見て、僕は驚いた。


 まわりは木造の、まるで昔の学校みたいだ。


 それも、木の本棚が沢山並んでいて、そこは図書室の様である。



 「あれ、まだ夢の中なの?」



 僕がそう言ういうと、先輩が。



 「そうね、半分そうで、半分違うとでも言うかな」



 そんな事を言った。



 「ちょっと説明しにくいけど、簡単に言うと、魂だけを過去の世界に連れて行ったと、言えば良いのかな。

あ、でも、あーちゃんは死んだ訳じゃないのよ」



 慌てて手を振って否定する、先輩。



 「そうですか? それでここはドコですか?」


 「うん、ここは40年前の、この学校の図書室だよ」



 あ、やっぱり昔の学校だったのか。



 「どうして、ここに連れて来たのですか?」


 「あのね、私が生きていた頃を知ってもらいたくて、ここに連れてきたの」



 そうなのか、周りをもう一度見る。


 当然、冷房が無い時代なので、窓が全て開け放たれていたけど、今みたいに物凄く熱くなく。

また、外から吹いてくる風だけでも、それなりに涼しい。


 それに、風に乗って、木造特有の木の香りがする。



 「それじゃあ、一緒にお散歩に行こうか」



 そう言いながら、僕を引っ張って椅子から立ち上がらせる。



 「ほらほら、早く立ちましょう」



 モタモタしている僕に、先輩が()れったさそうに言う。


 そして、僕がようやく立ち上がると。



 「あーちゃん、行きましょうよ」



 先輩が、僕の手を引いて図書室の外に向かった。



 ****************



 先輩に手を引かれて、僕は木造校舎の廊下を歩いて行く。


 歩きながら周囲を眺めて行くと、木造校舎は二階建ての様だ。


 

 「で、あれは・・・なの」



 僕を引っ張りながら、目に見える周りの物を指差して、説明して行く先輩。


 その顔は、何が嬉しいのか、ずっとニコニコしていた。


 先輩のその表情をボンヤリ見ていたら、突然、先輩が僕の顔を覗き込んできた。



 「どうしたんだあ? あーちゃん。

私をそんなに、ジッと見て」



 先輩の顔が僕の目の前、ホンの数センチ程まで接近した。


 思わず、僕は後ろに仰け反ってしまう。



 「ビックリした、ごめんね」



 そう言って、ぺろっと舌を出した先輩。


 それから先輩は、僕の手を引いて散歩を再開した。



 ****************



 気が付くと、いつも間にか校舎を出て、運動場の片隅にいた。


 もう夕方になっていた様だ、空が赤く染まっている。



 「あ〜、良い夕日だね」


 「本当ですね」



 先輩が西の空を見てそう言ったから、僕もそう答えた。


 僕が夕日を見入っていると、イキナリ先輩が僕に抱きついて来た。


 突然の事に僕が驚いていると、先輩が。



 「イキナリ抱きついて、ごめんね。

私、夕方の校庭で、男の子と二人で抱き合う場面に憧れていたの。

だから、あーちゃん、私を抱き締めて」



 先輩がそう言うので、僕は先輩を抱きしめた。



 「はあ、気持ち良いよ」



 抱きつきながら、頬ずりをする先輩。


 僕も、先輩の柔らかく暖かな体の感触と、甘い匂いに快感を覚える。


 そして、僕は目を(つぶ)ってその快感に集中する。


 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・

 ・


 ***************



 「・・・ちゃん、あーちゃん」


 「・・・うんん」



 気が付くと、いつも間にか眠り込んだみたいだ。


 僕を揺すって起こす、静先輩。



 「ほら、もう帰る時間だよ」



 時計を見ると、もうこんな時間だ。


 何か夢を見ていたみたいだけど、・・・でもあれは本当に夢なのか?


 あの風の心地良さ、木造の木の匂い、そして良子先輩のあの柔らかさ、暖かさ、甘い匂い。


 目覚めてもハッキリと覚えている。



 「あーちゃん、もう何時間も寝ていたんだよ。

起こしたら悪いと思って、そのまま寝かせていたの。

でも、あーちゃんのかわいい寝顔見れて良かった。」



 そう言って笑う、静先輩。


 僕は首を振って、意識を切り替えると、僕の事を気遣ってくれた静先輩にこう言った。



 「先輩、一緒に帰りませんか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不思議な先輩女子と、平凡な後輩男子との不思議な話。
夏の涼風
姉弟物の短編を取り揃えていますので、どうか、お越し下さい。
星空プロフィール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ