第54話 夕立の天然天使
夏休みのある日の夕方。
今日は、僕と静先輩が当番だった。
ふと時計を見てみると、もう帰る時間になったので、先輩に尋ねてみる。
「先輩、もうそろそろ時間なので、帰る準備をしませんか」
「ええ、分かったわ。
ねえ、あーちゃん、今日は一緒に駅まで行かない?」
「はい、じゃあ一緒に帰りましょうか」
二人でそう話した後、図書室の窓の戸締りと空調を止め、それから図書室と準備室を一通り見廻る。
別に何も無い事を確認した後、扉の鍵を詰めたら、二人で一緒に職員室に鍵を返却しに行く。
そうして二人並んで廊下を歩いていると、窓の外に見える遠くの空が、暗くなっているのに気付く。
「あれ、夕立が来るのかな?」
僕がそう言うと。
「早く、帰った方が良いかも」
先輩もそう言った。
僕らは、急ぎ足で職員室に行って、鍵を返却すると、急いで玄関へと向かった。
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玄関で靴を履き替えると、二人一緒に玄関を出て、駅へと急ぐ。
「先輩は傘を、持って来ましたか?」
「いいえ、あーちゃんは?」
「今日は、僕も忘れて来たんですよ」
僕らは、そんな事を話していると、頬に何かが当たる感触が・・・。
「あ、振り出した!」
僕が慌てて、そう言うと。
「どこかで雨宿りをしましょう」
先輩が周囲を見回した。
そうしている内に、雨足が更に強くなって来る。
二人は、適当な雨宿りが出来る場所を探しながら、駅への道を走って行く。
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しばらく二人で走っていると、とあるシャッターが閉まった、店の軒先に入る。
走っている間に、二人はびしょ濡れなってしまった。
「あー、濡れてしまいましたね」
そう言って先輩の方を見ると、先輩は濡れた制服が透けていて、下着や肌の色までくっきりと見える。
それに気付いた僕は、思わず先輩から目を反らした。
「本当に災難だったね」
そう言う先輩は、自分の状況に気づいていない。
そうしていると、突然、屋根の上から大量の水が流れ落ちて来た。
どうやら、雨樋から溢れ出したようだ。
「キャッ!」
先輩が小さく悲鳴を上げると、それを見て僕は、先輩を自分の方に引き寄せた。
「先輩、大丈夫ですか」
「あーちゃん」
正面から抱き締める形で、先輩が僕の腕の中にいる。
先輩を見ると、先輩が熱の籠もった瞳で、僕の事を見詰める。
そして濡れた衣服で、二人が接触した部分が、いつも以上に熱くそして柔らかい。
そうして、段々と接触した部分の皮膚の感覚が薄らいで、二人の境目が無くなったかの様な錯覚に陥る。
だけど、僕は人目があるかもしれない場所で、こんな事をしていられないので、離れようとするが。
しかし、頭ではそう考えるけど、この感触が惜しくて体が離れ無くなり、先輩をさらに抱き締めた。
「あーちゃん、暖かいよぉ」
ウットリとするようにそう言いながら、僕の首筋に頬を当てる先輩。
結局、雨が止む30分程の間、僕らはその状態でいる事になった。




