第43話 不思議な女の子1
ある暑い日の昼休み。
今日は、図書室の本棚の整理をしている。
今は、一列に並んだ本棚を見て、全然違う分類の本が有るとそれを取り出し、本来の分類の箇所に入れている所だ。
そうして、本棚を見廻している最中に、ふっと、窓から校庭を見てみると。
校舎から少し離れた場所にある、大きな木の下で一人の女生徒がこちらを見ていた。
その女の子は、髪は腰までの長さの黒々とした黒髪で、前髪と毛先を切り揃えた、所謂、姫カットと言われる髪型で。
服装は、何の変哲の無いこの学校の制服だけど、スカート丈が膝が隠れる程の長さであり。
足元の三つ折りにした白いソックスも目立ち、その点だけが他の生徒とは違う。
雰囲気が年齢の割には落ち着いた感じと相まって、何となく”昭和”と言う単語が頭に浮かんだ。
その女の子をジッと見ていると、ふと視線があった。
すると、その女の子がこちらを見て、ニコリと微笑んだ。
その上品だけど優しげなその笑顔に、僕は思わずドキリとした。
その笑顔にドギマギしている間に、その女の子は木の下から消えていた。
そう、木の周囲を見ても、その影は無く。
文字通り、”消えた”と言う他はなかった。
「あーちゃん、急がないと時間が無いよ!」
と、静先輩から注意された。
そうだ、もう余り時間が無い。
「はーい、分かりました!」
そう言って、作業に戻った。
******************
その日の放課後。
部活&図書委員の仕事が終わり、下校しようとしたが。
昼休み時間の事が気になり、あの木の方に行ってみる。
夕方になり、風が涼しいとは言え、まだ熱気がする校庭を歩くと、その木の下に、あの女の子がいた。
何の根拠も無く、”あの木の下にいるんだろうな”と言う勘で来てみたら、思った通りだった。
何も考えずに、とりあえず女の子に近づく事にする。
僕の姿を認めた女の子は、一瞬ビックリした顔をしたが、すぐに何でも無い顔に戻り、それから口を開いた。
「あら、私の姿が見えるのね」
「??」
「どうしたの? こんな所に来て」
「いえ、ここで何をしているのかと思って」
「うん、私は、ここで校舎を眺めていたのよ」
「そうですか」
僕はもう少し詳しい理由を聞きたかったが、初対面の女の子に根掘り葉掘り聞く訳にはいかず、軽く相槌を打った。
「あなたのお名前は、私は3年の原水 良子。
良子って呼んでね」
「あ、先輩なんですね、僕は1年の伊倉 秋人と言います」
「ああ、君がそうなのね、”愛玩動物と書いてかわいがるいきものと呼ぶ”って言う、あの噂の」
良子先輩が、あの嬉しくない噂の事を言った。
「本当に可愛いわね、まるで女の子みたい」
そう言いながら、ニッコリと微笑んだ。
あの上品で優しげな笑顔を、僕にまた見せてくれる。
それを見て、またもや僕の鼓動が激しくなった。
「ほら、もう下校時間だよ、早く帰らないとね」
微笑んだまま、そう言う良子先輩。
「そうですね、それでは失礼します」
「また合えるわよ、私の姿が見えているのだから」
「??」
僕は帰ろうと挨拶をすると、先輩は意味不明な事を言った。
僕は首を捻りながら、校庭を後にするのだった。




