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第42話 お姉ちゃんと呼んで

 ある暑い日の放課後。



 長かった、雨の時期も終わり、暑い夏が始まった。


 図書室は、生徒の勉強に差し障りが無いように、弱いながらも冷房が入っている。


 その事を知っている生徒は、少ないながらもいるので、この季節は(わず)かであるが利用者が発生する。


 とは言え、貸出希望者は心持ち増えるだけで、カウンターが賑わう訳では無い。


 今日、静先輩とのどか先輩は、予備校に受講の予定があるので、ここにはいない。


 しかし、珍しく、有佐先輩の姿があり、僕と一緒にカウンターにいる。


 そして、恵先輩は準備室にいた。


 そうして、カウンターで有佐先輩と本を読んでいると、向こうから、長い髪を後ろに(まと)めた、眼鏡を掛けた女子がこちらに来る。


 松橋 翠先輩だ。


 翠先輩は、小脇に何にか布の様な物を抱えている。


 それを見て、僕は嫌な予感がした。



 「あれ、翠、どぎゃんしたと?」


 「あれ、有佐、珍しいねえ」



 二人は、そんな事を言っている。


 その隙に僕は、こっそりと脱出しようとした。



 「有佐、確保して」


 「むんぎゅ!」



 逃げようとした僕は、有佐先輩に首根っこを掴まれてしまった。



 「じゃあ、準備室に連行して」



 と翠先輩が有佐先輩に言うと、僕は首根っこを掴まれたまま、二人と一緒に準備室に入った。


 

 ******************



 「あれ、有佐、それに翠もどうしたの?」



 僕らが入ると、恵先輩がそう言った。


 僕らが3人共入ると、ご丁寧にも、翠先輩がドアの鍵を詰めた。



 「うんにゃね、分からんけど、翠に付いて来たと」


 「うん、今日は秋人くんに、これをもって来たの」


 

 有佐先輩と翠先輩が言うと、翠先輩が小脇に抱えていた物を広げた。


 それは、黒地にフリルやレース、それにリボンが散りばめられているけど、全体的に甘味が少ない。

所謂(いわゆる)、ゴスロリと言われるドレスだった。



 「ねえ今日は、コレを着て、ね、秋人くん」



 と、翠先輩が言うと、恵先輩と有佐先輩の目が光った。



 「さあ、着替えさせるわよー!」



 翠先輩の声を合図に、3人が僕に襲いかかった。



 *****************



 「シク、シク、シク」



 しばらくすると、ゴスロリドレスを着た、一人の美少女が現れた。


 頭には、ご丁寧にもウイッグを付けられて、背中までの長い髪が流れていた。 


 しかし、その少女は、部屋の隅で泣いていた。


 

 「もお、いつまでも、泣かんとばい」



 そう言って、呆れる、有佐先輩。


 だが、次の言葉で部屋の空気が一変する。



 「あーちゃん、おねえちゃんが慰めるから、おいで」


 「恵おねえちゃん!」



 恵先輩がそう言うと、僕は恵先輩に抱きついて甘えた(第39話参照)。


 恵先輩は、僕の背中とウイッグを撫でる。



 「ゴスロリを着た、可愛い男の娘に、おねえちゃんと言われて甘えられる・・・」


 「うらやましかねえ〜!」


 「本当に、うらやましい〜!」


 そう言って、心底羨ましそうにしている、有佐先輩と、翠先輩。


 我慢できないのか、有佐先輩が恵先輩から僕を引き剥がした。



 「ねえ、あーちゃん、私の事ば、また”おねえちゃん”って()うて〜」


 「ありさおねえちゃん、だいすき!」



 僕があの時の事(第37話参照)を思い出して、そう言って抱く付くと、有佐先輩が力一杯、僕を抱きしめ返した。



 「ゴスロリを着た、可愛い男の娘から”おねえちゃん、だいすき”と言われる。

うらやましいーーーー!」



 それを見て、(もだ)えつつ、絶叫する、翠先輩。


 今度は、翠先輩が有佐先輩から僕を引き剥がすと、



 「ねえ、ねえ、私も、おねえちゃんって言って、あーちゃん!」

 


 と僕に抱きつきながら、そう言う、翠先輩。



 「ちょっと、なんばしょっとね」


 「それは、こっちのセリフよ」



 有佐先輩と恵先輩がそう言うが。



 「この服は私が持って来たのだから、私に優先権があるでしょ」


 「だけんがらって、横取りはなかとよ」


 「それこそ、こっちのセリフよ」



 三人が言い合いを始める。


 そして、準備室に修羅場が出現してしまった。


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不思議な先輩女子と、平凡な後輩男子との不思議な話。
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