第38話 あーちゃんを甘やかそう1
ある雨の日の昼休み時間(第37話より)。
「うっ、うっ」
有佐に抱きついて、泣き声を殺している、”あーちゃん”。
それを準備室のドアの隙間から、見ていた3人。
「「「・・・・・・」」」
それを見ながら、沈黙する。
「あーちゃんて、そうだったの?」
「気づいていなかった・・・」
と、言って絶句する、恵と静。
「あれ、二人は気づいていなかったの?(そうなの?)」
そんな事を言う、のどか。
「だって、物凄く優しいけど、全然甘えて来ない人って、本当は物凄い甘えん坊だけど、甘えるのが下手な人なの。
だけど、甘えん坊の裏返しで、人のそんな心に敏感だから、とても優しいのよ。
だから、私は、機会が有ったら、あーちゃんを可愛がっていたんだからね」
「ガガーーーン!」
まるで雷に打たれたかの様に、硬直する恵と静だった。
特に、今まで、秋人に色々と助けて貰っていた、静に取っては、心臓に杭を打たれる言葉だった。
「(そ、そんな、あーちゃんがそんなに、苦しんでいたなんて・・・)」
午後の予鈴が鳴るにも構わずに、有佐に抱きついて泣いている、秋人を見詰めている3人であった。
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それから、静は秋人を癒す方法を考えていた。
秋人の事を思うと、胸が張り裂けそうだ。
しかし、どうしたら・・・。
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ある雨の放課後。
この日は、静は恵とのどかに、頭を下げて早く帰る様にしてもらった。
そして静は、準備室にある、長椅子に座っている。
この長椅子は、座るのに大変低いので、誰も座らずにいる内に、いつの間にか物置と化していた物である。
それを片付けて、キレイにした。
そうしている内に、秋人が入って来た。
「あーちゃん、こっちに来て」
「はい? 何ですか先輩」
そう言って、自分の傍らに誘う静だった。
「はい、ここに座って」
「?」
不審に思いながらも、秋人は座った。
それを見た、静は秋人の頭を掴んで、自分の胸元に引き寄せる。
「せ、先輩、何を・・・」
「あーちゃん、私、見ちゃったの。
あーちゃんが、有佐先輩に甘えていた所を」
「・・・」
「あーちゃんが、そんなに苦しんでいたなんて。
私、ちっとも知らなかった。
私は、今までずっと、あーちゃんに助けて貰ったけど。
私、あーちゃんに、その分の事を返していないの」
「そ、そんな事はないですよ」
「ううん、私、あーちゃんに、その事を倍にして返したいの。
だから、私に甘えて来てね」
おずおずと、私の背中に腕を廻して抱きつく、あーちゃん。
泣いた、私たちは二人で抱き合って泣いた。
それから、しばらくの間、二人で泣いた。
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その後、あーちゃんは、自分から私たちにくっ付く様になった。
まだ、少し遠慮がちな所があるけど、それでも良い。
少しずつ、私たちに甘えて来てくれているのだから。




