第34話 天然天使と紫陽花(あじさい)
ある雨の日の4時限目。
この時間は先生の都合で、自習時間となっている。
となれば、必然的に教室は無秩序となった。
ただし、静かにだ、騒がしいと隣のクラスから、先生が怒鳴り込んでくるので、その辺りの自制心はある。
そんな僕は机に座ったままで、教科書をパラパラ見ている。
そうしていると、校庭の隅の方で、傘を差した人影が視界に入った。
良く見ると、それは見慣れたボブカットの女の子である。
のどか先輩だ。
その姿をしばらく観察していると、しゃがんで何かを見ている様だ。
何をしているの気になった僕は、他の教室に気づかれない様に回り道をして、先輩の元に行った。
回り道をして、玄関に行き、そこから靴を履き替えて傘を差して、先輩の方に向かう。
「先輩、何をしているのですか?」
「あ、あーちゃん(あれ?)」
先輩は、一斉に咲いている紫陽花の前で座っている。
「ん、あのね、授業が自習になったから校庭を見ていたら、紫陽花が咲いているのが見えたから、こっちに来たのよ(ふらっとね)。
あーちゃんは?(どしたの)」
「はい、同じく、授業が自習になったから教科書とか見ていたら、先輩がここにいるのが目に入ったから」
「ふ〜ん、そうなんだ(そっか)。
じゃあ、あーちゃんもこっちにおいでよ(はやく)」
と先輩が、手招きして僕を呼んだ。
「それで、先輩は何を見ていたんですか?」
「うん、葉っぱの上のカタツムリを見ていたの(ぼ〜としながら)」
「あ、でも触らない方が良いですよ」
「どうして?(ほわい?)」
「寄生虫の卵を持っているから」
「あー、それは止めた方がいいね(ばっちい)」
そんな事を話していると、先輩が、
「ねえ、あーちゃん、そっちの傘に入って良い?(ねえねえ)」
「うん? 別に構いませんよ」
と言ってきたので、僕はそう答えた。
先輩が自分の傘を畳ながら、僕の傘に入って来た。
「おじゃましま〜す(しっつれ〜い)」
そう言いながら、僕の背中にくっ付いてきた。
「先輩、そんな所にいると濡れますよ」
「大丈夫、大丈夫(の〜ぷろぶれむ)」
と言いつつ、頬を僕の頬にくっ付ける先輩。
「でも、あーちゃん、雨に濡れる紫陽花って、キレイだね」
「はい、キレイですね」
ウットリとしながら、紫陽花を眺める先輩。
そんな先輩に僕はそう答えた。
二人で紫陽花を眺めていると、いつの間にか二人のあいだにマッタリとした空気が流れていた。
僕はその空気を感じながら、二人で紫陽花を眺め続けた。




