第33話 天然天使と相合傘(あいあいがさ)
ある雨の日の昼休み。
いつもの様に、カウンターで静先輩と座っていると。
「はあ、困ったわね」
「とうしたんですか?」
ふと、静先輩がつぶやくのを聞いて、僕が尋ねてみた。
「傘の渇き具合を見に、玄関まで行ったの。
そしたら、傘が無かったのよ」
「あらら、盗まれたんですかね」
と先輩が答えた、どうやら盗まれたみたいだ。
「帰りはどうしょうかな、恵先輩も、のどかも今日は直ぐに帰るのに・・・」
「じゃあ、先輩、駅まで一緒に行きませんか?」
「いいの?」
「はい、僕は別に構いませんよ。
先輩は電車から降りてから先は、大丈夫ですか?」
「うん、電車から降りてからはバスに乗って行くし、家はバス停から直ぐだから」
「それじゃあ、一緒に行きましょうか」
そう言う訳で、僕が帰りに先輩を駅まで送る事になった。
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放課後、
また、いつもの様に、準備室で部活をしつつ、貸出希望者が来るのを待っていた。
「もう、時間ですかね」
「じゃあ、行きましょう」
帰宅時間になったのを確認すると、戸締りをした後、出入り口の鍵を詰めて、それから、職員室に鍵を返して、靴箱へと向かった。
靴箱に着いて、先に靴を履き替えると、玄関先で先輩を待つ。
「お待たせ〜」
と先輩が言うのと同時に、右手に持った傘の中央に、先輩が来る様な形で差しかけた。
先輩の頭上が傘に被われる。
「・・・あーちゃん」
「さあ、行きましょうか」
ジッと僕を見詰める先輩に、照れくさくなって、先を急ぐ様な事を言った。
二人で並んで歩いていく。
僕は、先輩が傘の中央になるように差しているので、左肩が濡れて来ている。
それに気付いた先輩が、僕の右手を両手で握り、僕の右肩に寄り添うようにくっ付いて来た。
校門を出て、道路を歩いているが、常に先輩が歩道側になるように誘導する。
その度に、先輩が僕の事を見詰めてくる。
そうして歩いていると、対向車がこちらに向かって来るのに気づく。
僕は注意しながら歩いていると、車がすれ違おうとした時、水たまりを通った。
それと同時に、盛大な水しぶきが上がる。
それを見た僕は、先輩を隠す様に傘を向けた。
「バシャーーー!」
「ブルルル」
僕らに、水しぶきを浴びせた車は、そのまま走り去った。
僕は先輩が濡れていないか、急いで見た。
「先輩、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫よ。
それよりも、あーちゃんの方が!」
どうやら先輩を庇って、僕が水を被ってしまった様だ。
頭がびしょ濡れになっている。
先輩がポケットからハンカチを取り出して、僕を拭いてくれる。
「あーちゃん、ごめんね、ごめんね」
「どうして先輩が謝るのですか」
「うんん、あーちゃんが私の事を庇ってくれたから、あーちゃん、濡れてしまったんだよ」
「そんな事、気にしなくても良いのに」
「あーちゃん、いつも私の事を庇ってくれるの、そんなあーちゃんの事をいつも感謝してるんだよ」
僕の頭を拭き終わると、先輩が僕に抱きついて泣き出した。
僕はそんな先輩の背中を擦りながら、慰める。
それからしばらくして、先輩が落ち着くと。
「先輩、急ぎましょうか、電車の時間も余り無い様だし」
「うん、行きましょう」
先輩は少し赤い眼で、はにかみながらも笑顔を見せた。
傘を差した右手に両手を添えて、僕の右肩に頬を乗せながらくっ付いている先輩と一緒に、駅までの道を歩いて帰った。




