第26話 手芸部の天然天使
ある日の昼休み。
今日は一人で、カウンターの受付業務をしている。
いつもの様に、いつ来るか分からない貸出希望者を、本を読みながら待っていた。
すると、一人の女子生徒がカウンターに近づいて来る。
珍しく、貸出希望者か?と思ったが、僕の前に来ると、口を開いた。
「あなたが、伊倉 秋人くんなの?」
と、その女子生徒がニコニコしながら、僕に尋ねて来た。
その女子生徒は、背中までの髪をヘアバンドで一つに纏めて、顔には眼鏡を掛けてるのが見え、上靴を見れば3年生で上級生である。
「はい、そうですけど」
「ああ、やっぱり。
噂通りね、”愛玩動物と書いて、かわいがるいきものと呼ぶ”って言うのは」
僕が答えると、その先輩はとても嬉しくない噂の事を語った。
「そうそう、こめんね、自分の事ばかり喋って。
私の名前は、松橋 翠て言うの、一応、手芸部の部長なの。
翠って、呼んでね」
翠先輩が自己紹介をした。
「いいなあ、いいなあ、恵はこんな可愛い子を確保してるんだから」
ん、恵先輩の事を言っていると言う事は、知り合いなのか?
「あれ、恵先輩の事を知っているんですか?」
「ん、ああ、恵とは親友てトコかな、有佐ともそうだし」
やっぱり、そうなのか。
しかも、有佐先輩とも知り合いなのか。
そこに、恵先輩がやって来た。
「あれ、翠じゃないの?、なんでこんなトコに来てるの?」
「ああ、恵、いやねえ、例の子を見に来てるのよ」
「え、それだけなの?」
「できれば、ウチの所に勧誘かな」
「「え!」」
僕と恵先輩が、ハモリながら驚いた。
「ちょっと、ちょっと、あーちゃんは男の子なのよ!」
「うん、縫い上げた服の試着の為に。
と言うのは建前で、本音はこの子に女装をさせたいの。
こんなに可愛いんだもの、良く似合うわよ」
「そう言えば、翠、あなたって、男の娘が好きなんだよね・・・」
「うん、そうよ。
いくら妄想を膨らませても、現実にはナカナカいないんだもの。
女装が似合う、可愛い男の子なんか。
でも、やっと見つかったよ〜」
翠先輩が拳を握り締めて、力説する。
「これで、フリフリのフリルとレースを身につけた、男の娘をモフモフ出来る」
翠先輩が妄想を、さらに加速させる。
「ああ、何かそれ、良さそう」
恵先輩も、その光景を想像しながら、顔を緩ませていた。
なるほど、さすが親友と言うか何と言うか・・・。
「だから、お願い、その子ちょうだい」
「ダメよ、あーちゃんは、ウチの部員だもの」
「恵も、その子の女装姿を想像して、萌えていたじゃないの」
「それとこれとは別です」
恵先輩がそう言いながら、僕を抱き締めて、自分の方に引き寄せた。
「ねえ、お願い、お願い」
「ダメったら、ダメです」
翠先輩がなおも食い下がるが、恵先輩はそれを跳ね除ける。
そんな光景が、休み時間が終わるまで続いた。




