第20話 天然天使を抱っこ
昼休み時間。
昼食を済ませた僕は、図書室に入ろうと扉を開けると。
そこには、窓辺で、風に激しくはためくカーテンを纏めている。
今週の衣替えで、夏服になった静先輩がいた。
「あれ、静先輩、何をしてるんですか?」
「ん、あーちゃん、カーテンが風でウルサイから、纏めてたとこなの」
と言っている最中に、突然、突風が吹いて、カーテンを大きくはためかせた。
「きゃっ!」
静先輩が小さな悲鳴を上げると、カーテンが引っ掛かり、掛けていた眼鏡が飛んだ。
その眼鏡は、大きく弧を描き、先輩の足元に落ちた。
「きゃあっっっ!」
だが不運な事に、足元に落ちた眼鏡を、よろけた先輩が踏みつけてしまったのだ。
さらに、「ズズズ〜」と足を滑らせてしまった。
僕は、慌てて先輩の所に行き、急いで足をどけた眼鏡を見た。
「あちゃ、レンズが傷だらけで見えないや」
「えええ、そんなあ」
レンズがプラスチックなので、ただ踏んだだけならともかく、その状態で思いっきり滑ったので、盛大に傷が入り前が見えない状態になった。
「とりあえず、どうしますか?」
「ん〜、教室には予備があるけど」
と言う訳で、僕が先輩を教室に行く事になった。
しかし、先輩は眼鏡が無いと、真っ直ぐに歩くことが出来ない。
仕方が無いので、僕が先輩を2年の教室に連れていく事になった。
(前にも、似た様な事があったなあ)
「先輩、手を握ってください」
「いや、そのまま歩くの怖い」
やはり先輩は怖がって、手を握ったり、腕を組たがらなかった。
結局、先輩は僕の左側にしがみ付いた。
夏服の上から、先輩の体温と柔らかい肌の感触が伝わるが、考えないようにする。
多少歩きにくいが、仕方が無い、このまま行く事にした。
図書室の扉を開いて、左手に見える階段を降りようとした。
3階の図書室から、2階の2年教室に降りないとならない。
しかし、このままだと降りられない。
「先輩、階段ですから、少し離れましょうよ」
「いや、階段怖いよ」
そう言うと、益々しがみ付いてくる。
オンブをしようとも思ったが、この状態では出来ないし。
この状態で、他に出来る方法は有るのだが、これはカナリ恥ずかしい。
しばらく躊躇していたが、休み時間も、もう少なくなって来ているので、思いきってやる事にした。
回りに、誰もいない事を確認すると。
左腕を先輩の背に回して、それから少ししゃがんで、右腕を膝の裏に回して、先輩を持ち上げた。
「きゃっ!」
その瞬間、先輩は小さな悲鳴を上げた。
まあ、所謂、先輩を”お姫様だっこ”した訳です。
「あ、あーちゃん・・・」
「少しの間、我慢して下さい///」
僕は先輩にそう言うと、先輩を抱えながら階段を静かに降りた。
先輩は怖さと恥ずかしさから、僕の首にしがみ付いている。
「あーちゃん・・・、重くない・・・?」
「先輩、もう少し食べた方が良いですよ、軽すぎです」
そんな事を言いながら、先輩から伝わる暖かさと柔らかさから必死で意識を逸らせた。
そして、2階に到着した。
「先輩、2階に到着しましたよ」
しかし、先輩は僕の声が耳に入らないのか、まだキツく首にしがみ付いている。
もうすぐ午後の予鈴が鳴る、早くしないと。
何度言っても気づく気配の無い先輩に、シビレを切らして、もう半ばヤケクソで、先輩をこのまま教室へ連れていく事にした。
先輩をお姫様抱っこしたまま、2年の廊下を行く。
すると、周囲から様々なヒソヒソ声が聞こえる。
「見せつけるぜ」
「年下の彼氏なの?」
「うらやましいなぁ」
「爆発しろ!」
様々な声と視線に、顔を真っ赤にしたまま、僕は先輩を教室へと運んだ。




