第16話 4人目の天然天使?
文中で出てくる方言は、余り信用しないで下さい。
かなり、いい加減なので。
ある日の昼休み時間。
昼食を済ませた僕は、いつもの様に図書室に来ている。
いまはカウンターの中で、受け付けをしている。
先輩方はと言うと、準備室で破損した本の修理をしている所だ。
本来なら、僕一人となるはずだが、今日は隣にもう一人いる。
隣には、二つのおさげを下げた女の子が座っている、上靴を見れば3年生である。
彼女は小川 有佐さんと言って、一応、図書委員である。
他の図書委員は、塾や習い事を盾にナカナカ来ようとしないが、有佐先輩は家が父子家庭で母親がいない上、まだ小学生の弟がいて、夕飯の支度をしなければならない、ちゃんとした理由がある。
なので、放課後の当番には余り来れないが、その分、昼休みにはなるべく来るようにしている。
他の図書委員には良い顔をしない静先輩も、有佐先輩にだけは別である。
「秋人くん、今日も誰もこんね」
「まあ、いつもの事ですし」
「ほんなこて、こぎゃん誰もこんと暇やね」
聞いての通り、有佐先輩は高校に入るまでとある地方にいた為、言葉が訛っている 。
普段は標準語だけど、親しい人間には方言が出る。
「(にこ、にこ、にこ)」
有佐先輩が、僕を見て微笑んでいる。
「有佐先輩、どうしたんですか、そんなにニコニコして」
「ん、いやね、秋人くんば見とーと、家ん弟ば思い出すったい」
「弟さん?」
「うん、家ん弟は、秋人くんのごつ、おとなしゅうて、可愛かと。
もう少し元気があると良かとも思うけど、でも、それが可愛ゆうて可愛ゆうて、しょうがなかと」
「はははは・・・」
どうやら、有佐先輩にはブラコンの気があるらしい。
「で、家ん弟は、身内の贔屓目やけど、顔が可愛かと。
ばってんねえ、可愛かけん、将来、変な女に引っかからんか、心配で心配でしょうがなか。
できたら、ずっと一緒にいたかと思ととっとたい」
と、有佐先輩は方言で、ブラコンを溢れさせている。
「ねえ、秋人くん、お願いがあるとばってんね」
急に、有佐先輩が僕にお願いして来た。
「え、なんですか?」
「秋人くんの頭ば、撫でてんよかね?」
「えー、どうしてですか」
「ん、いやね、秋人くんば見よーたら、家ん弟にしよったごつ、頭ば撫でとうなったと。
昔は、よー、頭ば撫でよったとばってん、最近は嫌がると。
それだけじゃなかと、最近全般的に冷とーなったと。
お姉ちゃん、悲しかねー」
と有佐先輩は愚痴りだした。
「ね、ね、秋人くん、良かね」
弟分が不足していた有佐先輩は、凄い勢いで僕に迫って来た。
その勢いに押され、僕は首を縦に振った。
「良かった、じゃあ、撫んね」
と、言いながら僕の頭を撫で始めた。
「は〜、ほんなこつ、気持ちんよか〜、恵ん言うたごつたい。」
有佐先輩は僕の頭を撫でていく、頭を撫でるその細くて柔らかい指先の感覚に僕はウットリとした。
「くすくすくす」
「とうしたんですか?」
「ん、秋人くん、気持ちよかったとね、ぼんやりしとたよ〜」
有佐先輩は、優しい眼差しで僕を見つめながら、微笑んでいた。
その笑顔を見た僕は、顔が赤くなった。
すると、有佐先輩は今度は。
「ねえ、秋人くん、今度は、ギュってして良かね」
「ええええ」
「あの子、最近、ギュとしようとすると、暴れるると。
だけん、ギュとしたくてたまらんとたい。
ねえ、秋人くん、させてんね〜」
「ちょっと、待って〜」
僕は午後の予鈴が鳴るまで、迫ってくる有佐先輩から、逃げ続けたのであった。
どの地方が大体想像出来ますよね。
もし可能なら、その地方の鉄道路線図をご覧なって下さい。
多分、笑えます。




