番外編6 松橋 翠
卒業式の日の夕方。
僕は今、手芸部に向かっている所である。
なぜかと言うと、卒業式終了後に図書室で翠先輩から、抱き付かれた時に。
”夕方4時に、手芸部に来てちょうだい”
と、言われたからだ。
どう言う理由で、先輩がそんな事を言ったかは分からないが。
取りあえず、手芸部に向かう事にした。
・・・・・・
手芸部の部室でもある、教室の扉が開いているので、誰かがいるのは間違いないらしい。
そう思い、教室の中に入ると、中には、ピンク色の服を着た人物が、椅子に座っていた。
その人物は、ピンク色を基調にして、襟や袖口、裾をレースで飾り付け、フリフリしたフリルであしらわれたロリータドレスを着ている。
髪はいつもとは違い、束ねて無く、背中までの長さに流し。
また、顔は眼鏡を外していた。
そのロリータドレスを着ていた人物は、翠先輩だった。
先輩は僕に気付き、顔を”ぱあっ”と綻ばせると。
椅子から立ち上がり、僕に向かって駆け出した。
「あーちゃん!」
そして、そう言いながら、僕の胸に飛び込んだ。
「先輩、一体何の用ですか?」
「チョット、あーちゃんに話したい事があるの・・・」
先輩が頬を赤らめつつ、ハニカミながらそう言った。
「あのね・・・。
私、あーちゃんの事が好きなのよ!」
最初は、言いにくそうだったけど、先輩が意を決した様にそう告白した。
「最初は、抱き締めたくなる位の、可愛い男の子だと思って。
色々と着せ替えて、あーちゃんを弄ってたよね」
「でも、あの時、可愛い服を着ていた私を、可愛いって言ってくれて、抱き締めてくれたね」
「それから、心の中で秘めていた物を、素直に表に出せる様になったんだよ」
「それに、あーちゃんに包まれながら撫でられていると、生きてて良かったと思える位の喜ぶが、心の奥から湧き起こって来るの」
「その喜びを覚えてから、いつも、あーちゃんの事が頭から離れ無いのよ。」
「あーちゃんがいると、とても楽しいけど。
あーちゃんから離れると、途端に寂しくなるの」
「だから、お願い、私と付き合って欲しいの・・・」
涙を貯めた瞳で僕を見詰めながら、恐る恐るとそう言う先輩。
そんな先輩に僕は、努めて、穏やかな声で。
「先輩、最初の頃は、先輩に付き纏われて、女装を強要してくるから、迷惑でしょうが無かったんですよ」
「でも、あの時、物凄く可愛い格好をして僕に甘えてくる先輩が、とても愛おしくて、どうしょうも無かったんです」
「それから、僕も先輩を見ると、抱き締めて撫でたくなりたくて、堪らなくなったんですよね」
そう言うと、先輩が驚いた様に目を見開いて。
「じゃ、じゃあ、あーちゃん、それじゃあ・・・」
「はい先輩、付き合いますよ」
「う、うれしい・・・」
そう言って、嬉し涙を流しながら、僕の肩に頬を乗せて泣いている、先輩。
僕は、そんな先輩を優しく抱き締めながら、先輩の髪を梳る様に撫でた。
しばらく、僕がそうしていると、先輩の涙は止まるが。
それでも先輩は、僕の肩に頬を乗せたままだ。
しかし、僕の方も、先輩の涙が止まっているのに、先輩の髪を慰めるように撫で続けた。
***************
「はあっ」
僕は今、溜め息を付いた。
あれから、数ヶ月、僕達は、恋人どうしになった。
それで、今日は先輩の家に行くことになっているが。
しかし、気分は重い。
なぜかと言うと、これから先輩の家で女装をする事になっているからだ。
しかも、先輩もロリータファッションになり、二人で写真を撮るのだ。
そのキッカケとなったのは、1月程前の事。
先輩の家に行った僕は、先輩から、以前着たことのある、あの白のロリータドレスを無理やり着せられた。
そして、先輩もまた、あのピンクのロリータドレスを着ながら。
・・・・・・
「ねえ、あーちゃん、写真を取りましょう♪」
「え〜、そんなぁ〜」
「タイマーをセットして、はい、じゃあ、撮るよぉ〜」
「ちょっ、ちょっと待ってよ〜」
「あーちゃん、コッチ向いてよ」
「ん?」
「チュッ♡」
「カシャ」
・・・・・・
・・・何と、僕と先輩のキスシーンが撮られたのだ。
しかも、僕が女装をしながらで・・・。
それから、何を考えているのか、先輩がその画像を、ネットにアップしていた。
それも、”お姉様と男の娘のキス”と言うタイトルで。
事もあろうに、その画像が数万hitになり、一部では話題になったそうだ(涙)
その事に味を占めた先輩が、もう一回、写真を取ろうと言い出したのだ。
・・・はあ。
こんな人を彼女にした、僕が悪いのかぁ・・・。
そんな事を思いながら、先輩の家への道を、重い足取りで歩いて行った。




