番外編5 川尻 みなと
僕の卒業式の日
「はあ、はあ」
僕は、息を上げながら走った。
急ぐことは無いけど、気が焦り、自然にゆっくりとはしていられなくなる。
早く行こうとしたら、読書部の後輩達に捕まり、第2ボタンをせがまれていたのに、時間を取られたからだ。
・・・・・・
あれから2年、恵先輩、静先輩から受け継いだ読書部で、部長職を全うし。
読書部の幽霊で無い部員を、10人にまで増やした。
定年間近の、生き字引の先生によると、何でもこれは30年ぶりの事らしい。
読書部を潰す所か、前よりも部員を増やして、僕も肩の荷が降りたわけだ。
しかし、増えた部員の殆どが女子の為、先ほどの様な惨状が起こったのである。
しかも、その理由が、”女装が似合う可愛い先輩がいる”と言う理由らしい(涙)
話を戻すと、で、何で、僕が急いでいるかと言うと、先生に会う為だ。
それも、人目を忍ぶ事無く、正々堂々と先生と会う為だ。
あれは、僕が2年生のある日の夜の事だった。
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「ねえ、あーちゃん、今日、一緒に帰らない?」
ある日の放課後。
遅くまでいた僕は、帰り支度をしている最中に、先生からそう言われる。
「はい、別に構いませんけど」
「じゃあ、一緒に行こう」
と言う訳で、先生の車に乗って、一緒に帰る事になった。
・・・・・・
「ブゥーーー」
先生の車の助手席に座っていると。
「ねえ、あーちゃん、話があるんだけど。
少し離れた場所に行くけど、良い?」
「はい? 別に急いで無いので、良いですけど」
「ありがとう」
・・・・・・
それから、少し行った川の、川沿いで車を止めると先生が。
「ねえ、あーちゃん、教師の立場でこんな事を言うのはオカシイけど。
でも、これ以上、我慢が出来ないの」
と先生が話し出した。
「最初は、あなたの事を可愛いくて、怖くない男の子だなあと思っていたの。
それで色々と、あーちゃんにくっ付いてたり、甘えたりしていたのよね」
「でも、あの停電の時、あなたに温められた時に、胸がドキドキしたの。
それから、あなたの事を意識してしまう様になった」
「けれど、私は教師で、あなたは生徒。
それは許されない事なのよね」
「だけど、この思いを押さえようとすればする程、胸が苦しくなるの」
「だから、お願い、私を付き合って欲しいの」
先生がそう言うと、先生の左手が僕の右手を握った。
先生の手が、冷たくなっていて、それに微かに振るえている。
そんな、先生に僕は。
「先生、僕は先生と一緒にいると、とても先生といるとは思えない程、居心地が良くて。
でも、僕が見ていないと危なっかしくて放っとけないないんですよね」
「だから、僕は、先生の側にずっといたいです」
先生の冷たくなった左手を、僕は両手で持ちながら、そう言った。
「あーちゃん、嬉しい・・・」
先生が嬉し涙を流して、喜びの言葉を漏らした。
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それから、僕達は人目を忍んで付き合っていた。
デートも、僕が遠くの駅まで行って、そこから先生の車に乗り、誰も僕らの事を知らない所で行っていた。
初めてのキスも、車で2時間も離れた場所にある遊園地で、誰にも分からない様、夕暮れの中である。
そんな付き合いを、2年近く続けて来た。
しかしもう、今日で僕も、この学校を卒業した。
だれにも憚る事無く、先生と付き合えるんだ。
そう思いながら、校舎裏へと向う。
・・・・・・
校舎裏に出ると、先生を直ぐに見つける事が出来た。
先生は、遠くを見詰めながら、何かを考えている様だった。
「先生ーーー!」
僕は先生を見つけると、思わず先生を呼んだ。
僕が先生に呼びかけると、先生が僕を見て微笑みかけてくれた。
それから僕は、両手を広げて、先生の所に飛び込むと、先生も同じ様に両手を広げて、受け止めてくれた。
僕達は、2年近くの思いを込めて、お互いに強く抱き締めた。
強く、強く、抱き締めた。
それから、少し緩めると、お互いの顔を見合わせる。
しばらくの間、お互いに見詰め合うと、不意に先生が瞳を閉じた。
瞳を閉じると、唇を僅かに閉じて、僕の反応を待った。
その意味を悟った僕は、先生の唇にユックリと自分の唇を重ねる。
そして、しばらく、そのままの状態で静止した後、ユックリと唇と離した。
「先生、やっと他人の目を、気にする事が無くなりましたよ!」
僕はそう言ったが、しかし先生が。
「うんん、もう先生じゃないよ、みなとって言ってよ」
と、先生が言ったので、僕は。
「はい、みなとさん」
と、言い直すと、先生が涙を流しながら微笑んだ。
それから、僕達は再び、お互い抱き合った。
”もう、誰に見られても構わない”
そんな事を思いながら、二人は強く、強く、お互いに、抱き締め合ったのだった。




