番外編4 小川 有佐
ある日曜日。
僕は、駅前で待ち合わせをしている所だ。
その相手とは。
あっ、やっぱり、慌てているな。
「はあ、はあ、はあ」
息を切らして走って来ている。
その人は、僕の前に来ると、一旦、上がった息を整えながら。
「ご、ごめん、寝過ごしとった〜」
「いいよ、たった5分だから。
それに、せんぱ、うんん、有佐お姉ちゃんも社会人だし、疲れているんだよ」
「・・・あーちゃん、ありがとう」
そう、待ち合わせをしていたのは、有佐先輩である。
そして、先輩が僕の、お姉ちゃん彼女になったのだ。
そのキッカケはと言うと。
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卒業式後、図書室で先輩に抱き付かれた時に。
”一時間後に、校舎裏に来て欲しか”
方言で、そう囁かれた。
それで、僕に纏わり付く、静先輩達を振り切ると。
校舎裏で僕を待っているであろう、有佐先輩の所に行った。
・・・・・・
「あ、いた」
校舎の裏の目立たない所で、先輩が一人佇んでいた。
それを認めた僕は、先輩の側に足を進める。
「あーちゃん、来たね」
そう言って、側に来た僕を見ると、先輩が微笑んだ。
「すいません、静先輩達に捕まっていました」
「ふふふ、まあ、しょうが無かね」
僕がそう言うと、先輩は今度は苦笑した。
「それで、先輩、何の用ですか?」
「あんね(あのね)、あーちゃん、え〜と〜、その〜」
ハッキリした性格の先輩にしては、珍しく反応だ。
「・・・、あーちゃん、私の彼氏になって欲しかと」
「・・・はい?」
予想外の言葉に、僕は呆然となった。
「あーちゃんば、最初に見た時は、家ん弟に似とって可愛かて思ーとったと」
(あーちゃんを、最初に見た時は、家の弟に似ていて可愛いと思っていたよ)
「ばってん、家ん弟と違うと思う様になったとばってんがら、せやから、私のもう一人の弟と思う様になったとたい」
(でも、家の弟と違うと思う様になったんだけど、そうだから、私のもう一人の弟と思う様になったんだよ)
「せやけど、あーちゃんの事ば、弟とは別に、男の子としても意識するごつなったと」
(だけど、あーちゃんの事を、弟とは別に、男の子としても意識する様になったの)
「でも、あーちゃんば弟と思ーとる部分もあると。
だけん、あーちゃん、私ん弟彼氏になって欲しかと、ダメね?」
(でも、あーちゃんを弟と思っている部分もあるのよ。
だから、あーちゃん、私の弟彼氏になって欲しいの、ダメ?)
そう言って、先輩が僕の事を真剣な目で見詰めている。
そんな先輩に僕は。
「先輩、僕は先輩に弟として可愛がられて、居心地良かったし。
女の子として、守ってあげたいとも思っていました」
「僕は、一体、どうしたら良いか分からなかったけど。
先輩の言葉を聞いて、先輩の事をお姉ちゃんでも、彼女でもどっちでも良かったんだと思いました」
「だから、先輩、僕の方こそ、僕のお姉ちゃん彼女になってください」
そんな事を言った。
「・・・あーちゃん、うん、うん、よかよ〜」
先輩がそう言うと、僕の頭を掴み。
それから、僕の頭を自分の方に引き寄せると。
「チュッ♡」
イキナリ、僕の唇に自分の唇を重ねた。
「・・・先輩」
不意打ちを喰らって、呆然をする僕に先輩が。
「先輩じゃなかよ、お姉ちゃんばい」
そう言いながら、オデコとオデコをくっ付けた。
そして、しばらく、その状態でお互い見詰め合っていた。
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「あーちゃん、何ばボーとしとっとね」
先輩がそう言って、僕の顔を覗き込んだ。
先輩は、ピンクを基調にした上品な花柄のスカートに、白のふんわりとしたブラウスの緩めた胸元には、金色のネックレスが見える服装である。
それに、三つ編みを止めて、少しウエーブ掛かった髪を背中まで伸ばし、顔はうっすらと化粧をしているので、前よりも大人っぽく見える。
そんな先輩が、僕を見ていたので、僕はドキッと胸が高鳴った。
「う、うんん、何でも無いよ」
先輩に、見惚れていたのを隠す様に、僕はそう言った。
「そんな事より、ほら、早う来んね」
「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん」
そう言うと、先輩が僕の手を取って、強引に引っ張り出した。
こうして、いつも通りの先輩に振り回される、デートが始まった。
方言の訳が、正確ではないかもしれません。




