番外編2 植木 静
ある日の放課後。
僕はテーブルに座って、新入部員名簿を見ながら言った。
「静先輩、今年は幽霊でない新人が、5人も入りましたね」
「ええ、そうね、取りあえずは今年は安泰ね」
「あーちゃん、ありがとうね」
「どうしたんですか先輩」
「ん、あーちゃんが駆けずり回って、勧誘してくれたから」
う〜ん、確かに僕は動いていたけど、対した事はしてないけどなあ。
「僕は、大した事はしてないんですけど」
「うんん、あーちゃんのおかげだよ」
「僕はそうは思ってないんだけど、それに大事な彼女の為だから」
「・・・あーちゃん」
そう、僕と先輩は、恋人どうしになったのだ。
あれは、春休みが明けてからすぐの放課後だった。
その日は、のどか先輩、麗子先輩がいなかったんだよなあ。
それで、準備室で本を読んでいると。
***************
「ねえ、あーちゃん、話があるの」
「何ですか? 先輩」
椅子に座っていた僕は、顔を先輩の方に向けると。
「私ね、あーちゃんの事、好きなのよ」
「最初、あなたの事が怖くて、距離を置いていたんだけど。
そんな私に、辛抱強く優しく接してくれたんたんだよね」
「でも、脚立から落ちた私を体を張って守ってくれた。
それから、あなたの事が平気になったのよ」
「それから、色々と何かあると、あなたに助けて貰った」
「だけど、あなたは本当は、甘え下手な甘えん坊だと分かったら。
あなたの為に何かしてあげたいと、心の底から思ったの」
「ねえ、あーちゃん、私の事を助けて欲しいの。
その代わり、あなたの心を癒してあげるから」
「だから、お願い、私と付き合って・・・」
先輩が潤んだ瞳を、僕に向けている。
恐らく、泣きたいくらい不安なんだろう。
そんな先輩に、僕は椅子から立ち上がり。
「大丈夫ですよ先輩、僕はこれからも、先輩の事を助けますから」
と言って、笑顔で応えた。
すると先輩が。
「あーちゃん、ありがとう」
安心した様な表情を見せながら、僕に抱き付いてきた。
それから、先輩が。
「ねえ、あーちゃん、キスして欲しいなあ」
そう言って、僕におねだりしてきた。
先輩が瞳を閉じ、唇を軽く閉じると、僕に全てを委ねる。
僕は、そんな先輩にゆっくりと唇と近づけ、それから、唇どうしを触れ合わせる。
そして、先輩の唇の柔らかさを感じると、またゆっくりと離した。
それから、先輩を見ると、先輩が涙をポロポロと流している。
「せ、先輩、どうしたんですか!」
焦って、僕が先輩に聞くと、先輩が。
「違うの、私、嬉しいから・・・」
そう言った。
どうやら、嬉し涙の様だ。
それから僕は、先輩の顔に流れる涙を、舐め取ってやる。
「んん・・・」
そうすると、先輩が僅かに、身を振るわせた。
そうやって、しばらくの間、僕は先輩の流れる涙を舐め取ってやった。
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そんな訳で、僕達は恋人どうしになった。
それから、僕は先輩の代わりに部員集めを始める。
僕には平気だけど、先輩の男性恐怖症はまだあるのだから。
「あのね、あーちゃん、もしかして、あーちゃんが部員集めをしていたのは。
私が、男の子が苦手なのだからかなあ」
「ち、違いますよ!」
「ふふふ、あーちゃん、ありがとう」
・・・先輩には、すっかり、お見通しだな。
そう思っていると、先輩が上体を曲げると、先輩の顔が急にアップになり。
「チュッ♡」
イキナリ、キスをされた。
「せ、先輩!」
「ふふふ、これは、あーちゃんへのお礼だよ♪」
そう言いながら、先輩が悪戯っぽい笑顔を見せた。
こう言う風に、先輩は二人だけの時、よくキスしてくる事が多い。
先輩は、キス魔だったんだなあ。
そう思っていると、先輩が座っている僕の頭を胸に抱き締めながら。
「ねえ、あーちゃん、私の胸に甘えてちょうだい」
僕の背中を撫で出した。
僕は、無意識の内に、先輩の背中に腕を廻していた。
「あーちゃん、私は、あの時言ったよね。
“私の事を助けて欲しい代わりに、あなたの心を癒してあげる”って。
だから、今度は私があなたの心を癒してあげるよ」
そう言いながら、僕の背中を優しく撫でる先輩。
僕は先輩の柔らかさを感じながら、優しさの海の中に溺れて行った。




